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第三話:旅の仲間と試練の森

投稿するの忘れてた

アレンが村を離れ、旅を始めてから数日が過ぎた。地図もなく、頼れるものは魔法書のみ。広大な森を進む中、アレンは自らの未熟さを思い知らされていた。魔法の力に頼ることでどうにか切り抜けているものの、食料や水、休息を取る場所に困り果てる日々だった。


「このままだと、目的地に着く前に倒れてしまう…」


呟きながら、森の中で一夜を明かすために適当な場所を探すアレン。その時、彼の耳にかすかな歌声が届いた。澄んだ声が木々を抜け、夜の静けさに響いている。アレンはその声の方向に足を向けた。


歌声の先にあったのは、小さな焚き火を囲む少女だった。肩までの銀髪が月明かりに照らされ、彼女の周囲がほのかに輝いているように見える。少女は小柄で、ボロボロのマントを身につけていたが、手元には奇妙な形の杖が握られていた。


アレンが近づくと、少女は不意に歌うのをやめ、鋭い視線を向けてきた。


「誰?」


その声には警戒心が宿っている。アレンは手を広げて無害であることを示そうとした。


「僕はアレン。旅の途中で迷ってしまっただけだよ。君は?」


少女は少しの間アレンを観察していたが、やがて溜息をつき、焚き火のそばを指差した。


「ここに座って。どうやら敵じゃなさそうね」


アレンはお礼を言い、焚き火の前に腰を下ろした。近くで見ると、少女は若干年下に見える。彼女の杖には細かい装飾が施され、かなりの年代物のようだった。


「君も旅人なの?」とアレンが尋ねると、少女は杖を握りしめ、少し戸惑ったように答えた。


「まあね。でも、旅というより…逃げてる、って言った方が正しいかも」


その言葉に、アレンは何か自分と通じるものを感じた。彼女もまた、普通の人間ではないようだ。アレンが黙っていると、少女はふいに顔を上げ、こちらを見た。


「そうだ、名乗ってなかったね。私はリリア。魔法使いよ。あなたもそうでしょ?」


アレンは驚きながら頷いた。


「どうしてわかった?」


リリアは杖を軽く振りながら微笑んだ。


「だって、あなたから魔法の匂いがするもの。それに、その手に持っている本、ただの本じゃないでしょ?」


彼女の指摘にアレンは感心した。リリアが自分と同じく魔法使いであることに安心感を覚えたが、同時に、彼女がどうしてこの場所にいるのか気になった。


「君は何から逃げているの?」


リリアは目を伏せ、少しの間黙っていた。そしてぽつりと答えた。


「魔法狩りよ。あなたも知ってるでしょ?魔法を使う人間は、どこに行っても追われるの」


アレンは頷いた。彼も同じ理由で村を離れたのだから。


翌朝、アレンとリリアは自然と共に行動を共にすることになった。森を進む中で、リリアは意外にも彼の良き教師となった。彼女は魔法の基本を熟知しており、アレンが未熟な呪文を試そうとするたびに鋭い指摘をした。


「その詠唱、間違ってるわよ。もし使ったら、逆に自分が危険にさらされるわ」


「そんなことがあるのか?」


「魔法っていうのは繊細なの。間違えれば、たちまち自分を滅ぼすものになるのよ」


リリアの教えを受け、アレンは少しずつ魔法の扱いに慣れていった。二人は協力して森を進むが、やがて奇妙な霧が立ち込め始めた。


「この霧、ただの自然現象じゃないわ」


リリアが警戒の声を上げる。その時、霧の中から低いうなり声が聞こえた。二人が身構えると、巨大な狼のような魔物が姿を現した。その目は赤く輝き、霧と同化するように姿をぼんやりと隠している。


「気をつけて!あれは『霧狼』よ。群れで行動するから、他にもいるはず」


リリアが杖を構えながら叫んだ。アレンもすぐに呪文を唱え始める。彼の手の中に光が生まれ、魔物の動きを止めようとする。しかし、霧狼はその光をかわし、鋭い牙を剥いて襲いかかってきた。


「動きを止める呪文なら、もっと速く詠唱して!」


リリアの声に促され、アレンはもう一度集中し直す。そして、光の鎖が霧狼の足元に伸び、ついにその動きを封じることに成功した。


「やった…!」


喜びも束の間、さらに二匹の霧狼が霧の中から現れる。アレンとリリアは背中合わせになり、それぞれの敵に向き合った。


「私が右を引き受ける!あなたは左を!」


「わかった!」


リリアは杖を振り、炎の呪文を放つ。炎は霧狼に命中し、辺りを一瞬明るく照らした。一方、アレンは再び光の魔法を使い、もう一匹をなんとか撃退する。


やがて、最後の霧狼が低い唸り声を上げながら姿を消し、森に静寂が戻った。


戦いが終わった後、アレンは息を切らしながらリリアを見た。


「君がいなかったら、僕はきっとここで終わっていたよ」


リリアは杖を肩に担ぎながら笑った。


「あなたもなかなかやるじゃない。でも、まだまだ未熟ね」


二人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれる。その夜、焚き火を囲みながらアレンはリリアに感謝を伝えた。


「リリア、君が僕の旅に付き合ってくれるなら心強いよ」


リリアは少し考え込んだ後、静かに頷いた。


「まあ、これも何かの縁かもしれないわね。私は逃げているだけだったけど、あなたと一緒なら…何か意味のある旅になるかも」


こうして、アレンとリリアは新たな絆を結び、本格的な旅を始めることになった。それは、魔法使いとしての成長と運命に立ち向かう冒険の第一歩だった。


夜が明け、アレンとリリアは霧狼との戦闘で疲れた体を引きずりながら森を抜け出す道を探していた。森の奥へ進むたびに霧は薄くなり、太陽の光が木々の隙間から射し込む。


「やっと抜けられるかもしれないわね」


リリアが肩にかけたマントを整えながらつぶやく。その言葉にアレンもほっと息をついた。二人は互いの無事を喜びつつ、森の出口らしき場所を目指して歩みを進めた。


やがて霧が完全に晴れ、視界の先には開けた草原が広がっていた。清々しい風が二人を包み、森の中にいた時の重苦しい空気とはまるで別世界のようだった。


「ここが目的地ってわけじゃないけど、少し安心できる場所みたいだ」


アレンが空を見上げて言うと、リリアも同じように顔を上げ、どこか遠くを見つめていた。


「でも、この先がどうなっているのかはわからないわ。次に何が出てくるか、油断しないで」


彼女の声には警戒が混じっていた。森を抜けてもまだ危険が去ったわけではないことを、二人とも理解していた。


草原を進む中、二人は遠くに小さな人影が動いているのを見つけた。人影は二つ、こちらに向かってゆっくりと近づいてくる。


「旅人…だよね?」


アレンが呟くと、リリアは杖を構えたまま低い声で答えた。


「断定するのは早いわ。旅人のふりをして近づいてくる魔物や、魔法狩りの偵察かもしれない」


二人が身を構えながら近づいていくと、人影はやがてはっきりと姿を現した。それは旅人風の男と若い少女だった。男は長いコートを羽織り、腰に剣を携えている。一方の少女は軽装で、手には小さな短剣を握っている。


「おい、そんなに警戒するな。俺たちはただの旅人だ」


男が手を挙げて笑顔を見せる。しかし、その口調にはどこか軽薄さが漂っていた。


「何者ですか?」


リリアが鋭い目つきで問いかけると、男は肩をすくめた。


「俺の名前はカイ。この子はティア。見ての通り、ただの旅の仲間さ。君たちも旅人だろ?」


その言葉にアレンは少し安心したが、リリアはまだ警戒を解かなかった。カイとティアは二人の様子を見て、少し困ったような顔をする。


「まあまあ、そんなに怖い顔しないで。俺たちだって命がけで旅してるんだ。君たちに危害を加えるつもりはないよ」


ティアが優しい声でそう言うと、リリアも少しだけ杖を下ろした。


「分かったわ。とりあえず、あなたたちを信用する。でも、変な動きをしたらすぐに追い払うから」


カイは苦笑いを浮かべながらうなずき、ティアはホッとした様子で微笑んだ。こうして二人の新しい仲間が加わることになった。


四人で草原を進む中、カイとティアの話を聞いていくうちに、彼らもまた魔法狩りから逃れてきた旅人であることが明らかになった。特にカイは剣術の達人でありながら、かつては簡単な魔法を扱うことができたという。


「俺も昔は魔法を使えたけど、今はほとんど力を失ってしまった。それでも、生き延びるために剣を振るっているのさ」


その話を聞いて、アレンは心の中で魔法使いの未来について思いを巡らせた。魔法を使うことができても、それを隠さなければならない世界では、どれほどの力を持っていても意味がないのではないか――そんな考えが頭をよぎった。


一方でティアは、魔法は使えないものの、驚異的な身のこなしと観察眼を持っており、戦闘や探索で頼れる存在だった。彼女はアレンとリリアの魔法について興味津々で、特にアレンの光魔法を見て目を輝かせていた。


「すごい!こんな魔法、初めて見たわ!」


ティアの言葉にアレンは少し照れくさそうに笑った。


「まだ練習中だけど、村を守るために使ってきたんだ」


その話を聞いたカイが目を細め、深刻そうな顔をした。


「村を守るため、か…。君みたいな若者がそんな覚悟を背負う時代になっちまったんだな」


カイの言葉には、どこか後悔や悲しみが滲んでいるように感じられた。アレンはカイの過去に何があったのか気になったが、あえてそれ以上は聞かなかった。


四人が休憩を取るために小高い丘に腰を下ろした時、突然ティアが周囲を見回して緊張した声を上げた。


「…何か来る」


全員が身を構えた。その時、草原の遠くから黒い影がゆっくりと近づいてくるのが見えた。その影は人の形をしているが、明らかに普通の人間ではない。


「魔法狩りか?」


アレンが身を固めると、カイが首を振った。


「違う。あれは…魔物だ。しかもかなり厄介な奴だな」


黒い影が近づくにつれ、その姿が明らかになってきた。それは人間の体に獣の頭を持つ異形の存在だった。影は一つではなく、いくつもの姿が遠くの地平線から這い出してくるように現れていた。


「囲まれる前に動くぞ!全員、準備はいいな?」


カイの指示で全員がそれぞれの武器や魔法の準備を整えた。アレンは光の魔法を練習の成果として発動し、リリアも炎の魔法を手元に灯した。


「数が多いけど、負けるわけにはいかない!」


アレンの叫びに全員が力強く頷いた。こうして、彼らは初めて四人で力を合わせ、迫りくる闇に立ち向かう準備を整えた。

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