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第二話:運命との邂逅

久しぶりに書かせた

村の静寂を破ったのは、アレンが夜の森で見た夢が現実になった日から数日後だった。


ある朝、アレンはふとした違和感に気付いた。村全体が不穏な空気に包まれている。普段は活気に満ちている村人たちが、どこか神経を尖らせたように落ち着かない様子で、ざわつきながら話をしている。村の広場に足を向けると、そこには見慣れない男が立っていた。男は暗いローブを身にまとい、その顔はフードで覆われているが、鋭い眼光だけがちらりと見える。


「…この村に、魔法使いの気配がある」


男は低く重々しい声でつぶやき、辺りを見渡した。村人たちは怯え、顔を見合わせては囁き合っている。どうやらこの男は、近隣の村で噂になっている「魔法狩り」の一団の一人らしい。彼らは魔法の力を使う者を排除し、厳しく取り締まることを生業としている。アレンもその噂は耳にしていたが、まさか自分の村にまでやってくるとは思っていなかった。


「おい、お前!」


突然、男の声がアレンに向けられた。アレンは一瞬身を硬くしたが、ゆっくりと視線を上げた。男の眼差しは冷酷で、その瞳には容赦のない意志が宿っている。男はアレンに近づき、じっとその顔を見つめる。


「…お前、どこかで見たことがあるような気がするな」


男の言葉に、アレンは一瞬息を呑んだ。どうやら、かつてアレンの両親が魔法使いであったことを知っているのかもしれない。しかし、彼はあくまで冷静を装い、何も知らないふりをして答えた。


「すみません、何のことか分かりません」


「ふん、そうか。だが覚えておけ。もしお前が魔法使いの気配を感じさせることがあれば、その時は容赦しない」


男は冷笑を浮かべると、村人たちを睨みつけながら立ち去っていった。村人たちはほっと息をつきながらも、アレンに視線を向ける目には恐怖と疑念が混ざり合っていた。


その日の夜、アレンは不安を抱えながら森の奥へと足を運んでいた。彼は自分の中に眠る魔法の力を感じつつも、その力が村人たちに恐怖を与える存在だという現実を思い知ったばかりだった。彼の頭の中では、神殿で出会った精霊・リーナの言葉が響いている。


「あなたは、この世界にとって必要な存在です」


リーナの言葉は力強く響いていたが、彼にはまだその意味が理解できなかった。魔法の力はただの脅威であり、彼の生まれた村さえも遠ざけるものになってしまっている。


「どうすれば、力を…恐れられないようにできるんだ?」


ふと、アレンは自分に問いかけた。その時、闇の中から微かに光が差し込んだ。彼はその光へと引き寄せられるように、夢で見た神殿を目指して森の奥へと足を進めた。光はぼんやりと淡い輝きを放っており、そのまわりを包むように木々がざわめいている。アレンの胸の中には、初めて感じるような高揚感と緊張が入り混じっていた。


「…これが、本当に僕の運命だというのか?」


彼は疑問を抱きつつも、足を止めることはなかった。やがて、光が収束する場所へとたどり着く。そこには、まるで時の流れから取り残されたかのように佇む古びた神殿が姿を現した。苔むした石造りの階段が奥へと続き、周囲には厳かな雰囲気が漂っている。アレンは息を呑んだ。この場所こそが、夢で見た光景そのものだった。


神殿の入口には、古い石碑が立っており、その表面には読み取れないほど風化した文字が刻まれている。アレンはそれに触れようとしたが、指先が石碑に触れると、ひやりとした冷たさが肌に伝わってきた。


「ここに来たことが、すべての始まりなのだろうか…?」


不安と期待が入り混じる中で、アレンは階段を一歩ずつ慎重に登り始めた。やがて、彼は神殿の中心部に到達する。そこには、夢で見た通りの光を放つ台座があり、その上には一冊の古びた書物が置かれていた。


「この書物…」


彼は手を伸ばし、書物をそっと手に取った。表紙には見たこともない記号が並んでおり、それらがかすかに光を帯びている。不思議とその書物は彼の手の中で温かみを感じさせ、まるで生きているかのようにかすかな鼓動が伝わってくる。


「僕が、これを読むべきなのか…?」


彼が表紙を開こうとしたその瞬間、突然書物が自らの意志を持ったかのようにぱっと開き、古代の文字が輝き始めた。そして、次の瞬間、彼の頭の中に直接語りかける声が響いた。


「選ばれし者よ、あなたは我らが知識を受け継ぐにふさわしい者と見込まれた」


その声はどこか懐かしく、優しい響きを持っていた。アレンは驚きつつも、その声に引き込まれるように耳を傾けた。


「この地にはかつて、闇を封じるための強大な魔法が存在していた。だが、それは人々の欲望によって乱用され、結果として魔法は恐れられ、忘れ去られることとなった。今、再び闇が目覚めつつある。あなたには、その闇に立ち向かう力を与える」


「闇に…立ち向かう?」


アレンは半信半疑で問いかけた。しかし、声はさらに続ける。


「あなたが背負うのは、かつて我々が守り続けた魔法の継承者としての役目。そしてそのために、あなたは自らの力を解放し、己を鍛えなければならない」


その言葉を聞いた瞬間、アレンの中に眠っていた魔法の力が目覚めるように、全身が温かい光に包まれた。彼の心の奥深くに封じられていた力が、徐々に解放されていくのを感じる。その感覚は言葉にできないほど神秘的で、彼の心の奥底にあった不安や恐れが、少しずつ消えていくのを感じた。


「さあ、アレンよ。闇に打ち勝つための修行を始めるがよい。我々の知識と力が、あなたの助けとなるだろう」


その瞬間、書物の光が一層強まり、アレンの視界が真っ白に染まった。気がつくと、彼は神殿の外に立っていた。書物は手の中にしっかりと握られているが、あの声は聞こえなくなっていた。


「本当に…僕にそんな力があるのか?」


まだ自信を持てないまま、アレンはゆっくりと帰路に着いた。しかし、彼の胸の奥には新たな決意が芽生え始めていた。闇に立ち向かい、村を守るために、そして自らの運命を切り開くために、彼はその力を受け入れる覚悟を少しずつ固めていくのだった。


アレンは書物を手にしたまま、神殿の周囲を見渡した。闇が迫りつつあるという声が頭の中に残り、気持ちが引き締まる。村を守るために、何かしなければならない――そんな使命感が彼の心に新たな火を灯していた。


翌日、アレンは村に戻り、密かに魔法の練習を始めた。書物には、基本的な魔法の術式や呪文が記されており、アレンの手元に光が宿るようになるまで、それほど時間はかからなかった。しかし、まだ自信が持てるほどにはなっていない。村人たちは魔法使いを恐れており、アレンがその力を表に出すことがどれだけの危険を伴うかも理解していたからだ。


それでも、アレンは日々、書物に記された術式を試し、少しずつ力を磨いていった。光を操る術を身につけることで、夜の森も以前ほど怖くなくなった。まるで暗闇の中で小さな灯火を手にしているようで、その光は彼の心の支えとなった。


ある日、村に不審な噂が流れ込んできた。「魔法狩り」の一団が近隣の村に現れ、魔法使いを捕えたというのだ。その一団は魔法使いを見つけ次第、力を封じ込めるために拘束し、場合によっては命を奪うこともあると噂されていた。


アレンはその話を聞いた瞬間、体が冷たくなるのを感じた。もし自分が魔法使いとして見つかれば、村の人々にまで危険が及ぶかもしれない。村人たちが恐れるのも無理はない。彼は自分の力が人々に恐れられるものだということを改めて思い知らされた。


しかし、同時に彼の中には、村を守るためにその力を使わなければならないという使命感が沸き上がっていた。たとえ魔法使いとして追われることになっても、村を守るためならば、力を使うことをためらわないと決意したのだ。


その夜、アレンは夢の中で再び神殿の声を聞いた。


「アレンよ、お前がその力を持つことは決して偶然ではない。魔法はただ人を傷つけるためのものではない。人を守り、闇に打ち勝つためにあるのだ。お前が目指す道は険しいが、それこそが真の魔法使いへの道なのだ」


その言葉はアレンの心に深く刻まれた。自分の力が、ただ恐ろしいだけの存在ではないことを再確認し、彼は少しずつ自信を取り戻していった。


数日後、村に再び暗雲が立ち込める出来事が起きた。村の近くの森に、異常なほど強い魔物が現れ、村人が襲われたというのだ。アレンは心配になり、すぐにその場所へ駆けつけた。そこには、巨大な影のような存在が立ち塞がり、村人たちが怯えた様子で後退していた。


「このままでは村が…!」


アレンは覚悟を決め、手を広げて魔法の力を解放し始めた。今まで練習してきた光の魔法が、彼の手元に集まり、鮮やかな輝きが生まれた。周囲を包む闇を照らし出すその光は、村人たちの不安を一瞬忘れさせるほど神々しかった。


「ここから先へは行かせない!」


アレンは声を張り上げ、光の魔法を魔物に向けて放った。眩い光が魔物を包み込み、その巨大な体が怯むように後退する。魔物は激しい咆哮を上げながら、やがて森の奥へと逃げ去っていった。


村人たちは驚きと恐れの入り混じった表情でアレンを見つめていた。彼が魔法を使えることを知ってしまったからだ。アレンは不安な気持ちで周りを見渡し、村人の反応を待った。


やがて一人の老人が近づき、震える声で言った。


「…アレン、お前は、魔法使いだったのか?」


アレンは静かにうなずき、覚悟を持って答えた。


「はい。僕は…村を守るために、この力を使います」


村人たちは互いに顔を見合わせ、しばらくの間、誰も口を開かない。しかし、先ほどの魔物の恐怖がまだ残っていることもあり、一人の女性がそっとアレンに近づき、感謝の言葉を口にした。


「ありがとう、アレン…あなたのおかげで、助かったわ」


その言葉に励まされるように、他の村人たちも次々とアレンに感謝の意を示した。彼の中で、初めて魔法が人を守る力だと実感できた瞬間だった。魔法使いとしての恐れも感じていたが、それ以上に人々を守ることができたという喜びが胸を満たした。


しかし、その夜、アレンは自分の力を見せてしまったことを後悔していた。もし「魔法狩り」の一団が村にやってくることになれば、自分だけでなく、村人たちも巻き込まれてしまうだろう。


「これで、僕はもう村にいられないかもしれない…」


アレンは一人、夜空を見上げながら呟いた。胸の中には葛藤が渦巻いていたが、同時に村人を守るために力を使ったことに対する充実感もあった。彼は自らの運命に立ち向かう覚悟を決めつつあった。


その翌日、アレンは村を離れる決意を固めた。村人たちには迷惑をかけたくないし、魔法の力が危険だと知っているからこそ、自分がここに留まることはできないと考えたのだ。彼は最小限の荷物をまとめ、夜明けと共に村を後にする。


村の出口で、彼の姿を見つけた村の子供たちが泣きながら駆け寄ってきた。


「アレン、行かないで!一緒にいてよ!」


アレンは子供たちの頭を撫で、微笑みながら言った。


「またいつか、もっと強くなって戻ってくるから。それまで、みんなも元気でいてくれ」


そう言い残し、アレンは背を向けて歩き出した。胸の中に強い決意と、村を守りたいという思いが再び沸き起こる。彼は旅立つ先の未来に対する不安を抱えつつも、新たな冒険の幕開けを予感していた。

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