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第一話:運命の出会い

頑張って作らせました

 アレンの住む村は、森と山に囲まれた小さな村だった。村は静かで平和で、人々は皆、農作業や牧畜に励みながら慎ましく暮らしていた。しかし、近頃、村には不穏な空気が漂っていた。夜になると、村の周囲に異様な気配が漂い、見慣れない影が森の中を徘徊していると村人たちが噂し始めたのだ。その影は村人の家を覗き込むかのように現れたり、家畜の近くに佇んでいたりするという。村人たちは日に日に恐怖を募らせ、夜には家から出なくなった。


 アレンはこの村に住む若者で、幼い頃から特別な力に目覚めていた。彼は「魔法使い」だった。村人は彼の存在を怖れ、「忌み子」として距離を置き、冷たく扱っていた。アレンが魔法の力を見せると、子供たちは怖がって逃げ去り、大人たちは目を背けた。そんな村で、アレンは孤独を感じながらも、両親から受け継いだ古い魔法書を頼りに、自分なりに魔法の修行を続けてきた。


 その朝も、アレンは自宅の小さな部屋で古びた魔法書を広げていた。ページをめくると、そこには様々な呪文や魔法の知識が書かれており、アレンはそれを読みながらひたすら力を磨いていた。彼は自分の力が役立つ日が来ることを願っていたが、村人たちの冷たい視線を感じるたび、自信を失ってしまうこともあった。


 突然、窓の外から誰かがアレンを呼ぶ声がした。「アレン! お前に話があるんだ」その声の主は、隣に住む老婦人のマーサだった。彼女は村で数少ない、アレンを恐れずに接してくれる人だった。マーサは年老いた身ながらも、いつもアレンに優しい言葉をかけ、彼が孤立しないように気遣ってくれていた。


 アレンは窓を開け、マーサに微笑みかけた。「おはようございます、マーサさん。どうかしましたか?」


 マーサはゆっくりと近づき、アレンの手を握りしめた。「アレン、あなたにお願いがあるの。最近、村の周りに出没するという影のこと、聞いたでしょう?」


 アレンは頷いた。「はい、皆さんが怖がっている影のことですよね。でも、僕には何もできることがないと…」


 マーサは静かに首を振った。「そんなことはないわ。あなたには特別な力がある。村の人たちはまだそれを理解していないけれど、私は信じている。あなたなら、きっと影の正体を見つけ、村を守ってくれるはずよ」


 その言葉に、アレンの胸の奥に小さな希望の灯火がともった。自分が村を守る役割を果たせるかもしれない。孤立していた彼が、村人たちにとって必要な存在になれるかもしれない。アレンは決意を固め、マーサに力強く頷いた。


「わかりました、マーサさん。僕がこの影の正体を突き止めます。村を守るために、できることをやってみます」


 その日の午後、アレンは村の周りを調べるために森の中に向かった。彼は幼い頃からこの森に慣れ親しんでおり、ここでは誰にも邪魔されることなく魔法の練習ができた。木々の間を慎重に歩きながら、アレンは周囲の気配に敏感になっていた。森は普段と変わらず静かで、鳥たちがさえずり、木漏れ日が地面を照らしていたが、どこかに異様な冷たさが漂っているように感じた。


 アレンが森の奥へと進んでいると、突然、背後に気配を感じた。振り返ると、そこには長い金髪を風に揺らし、白いローブを纏った美しい少女が立っていた。彼女は静かにアレンを見つめ、穏やかな微笑みを浮かべていた。


「こんにちは、アレン。私はリーナ、聖なる水の精霊の巫女です。あなたの魔力に引き寄せられてここに来ました」


 アレンは驚きの表情を浮かべた。「精霊の巫女…そんな存在が本当にいるなんて信じられない。でも、どうして僕のところに?」


 リーナは微笑みながら答えた。「あなたが持っている魔力は、とても純粋で強いものです。私たち精霊は、あなたのような存在が村にいることをずっと見守ってきました。しかし、最近、村に異変が起きています。影が現れるようになった原因を探るために、私は人間の世界に姿を現したのです」


「その影の正体は何かわかるんですか?」アレンは緊張した声で尋ねた。


「まだ詳しくはわかりませんが、邪悪な力が影を操っているのは確かです。私たちだけではその力に立ち向かうことができません。だからこそ、あなたの力が必要なのです」リーナはアレンの目をまっすぐに見つめ、真剣な表情で語った。


 アレンは少し戸惑いながらも、自分が村を救うために役立つことができるという思いに心を動かされた。「わかりました。僕も協力します。村を守りたいんです」


 リーナはアレンの決意に感謝の笑みを浮かべた。「ありがとう、アレン。あなたとなら、きっとこの村を救うことができるわ」


 二人はその夜、村の外れにある丘の上で影の出現を待つことにした。夜が更け、月明かりが地面を照らす中、アレンとリーナは静かに待機していた。森の中は不気味なほど静まり返り、風の音さえも聞こえない。アレンは少し緊張していたが、隣にいるリーナの存在が彼を落ち着かせた。


「アレン、影が現れたら、私の力を借りて戦ってください。私たちの力を合わせれば、影に対抗できるはずです」リーナは穏やかに言った。


 その時、森の奥から異様な冷気が漂ってきた。そして、闇の中から黒い霧のような影がゆっくりと姿を現した。その影は、まるで意思を持っているかのように村の方を見つめていた。アレンは一瞬、その異様な存在に恐怖を感じたが、リーナの言葉を思い出して気を引き締めた。


「大丈夫、私たちは一緒です」リーナが優しく励まし、アレンの手をそっと握った。


 アレンは魔力を集中させ、手のひらから光の魔法を放った。眩い光が影に向かって飛び、影を照らし出した。しかし、影はその光を受けて一瞬揺らめいたものの、再び形を整えて不気味な姿で立ち尽くしていた。


「何てしぶといんだ…」アレンは驚きの声を上げた。


「アレン、もう一度!私の力を借りて!」リーナが叫び、アレンの手に自らの精霊の力を注ぎ込んだ。


 二人の魔力が融合し、再び光の柱が影に向かって放たれた。今度は影が激しく震え、暗闇に包まれていた姿が少しずつ薄れていった。そして、苦しむような音を立てながら、影はついに耐えきれず、森の奥深くへと消えていった。


「やった…影が消えた!」アレンは安堵の息をついたが、完全に倒せたとは思えなかった。リーナもそれを感じ取っていたようで、慎重な表情を浮かべていた。


「これで終わりではないわ。影の正体はまだわからないし、また現れるかもしれない。でも、あなたと私が力を合わせれば、きっと解決できるはずよ」リーナが優しく微笑んだ。


 村に戻ると、アレンとリーナの奮闘を目にした村人たちは、二人に感謝の意を示し始めた。「アレンの魔法が私たちを救った…!」という声が広がり、アレンに対する村人たちの態度も徐々に変わり始めていた。


 アレンは新たな決意を抱いた。今まで忌み嫌われていた自分の力が、村を守るために役立てられることを実感した彼は、これからも魔法使いとして成長し、村のために尽くしていく覚悟を固めたのだった。


 影を退けた翌日、アレンはリーナと再び村の周囲を巡ることにした。昨夜の戦いで、影が完全に消え去ったわけではないと確信していたからだ。リーナもまた、影の正体を探りたいという強い意志を持っていた。


 村の広場に足を踏み入れると、数人の村人がアレンに話しかけてきた。


「アレン、昨日はありがとう。君がいなければ、きっと私たちはどうなっていたかわからないよ」

「私も…君の魔法を見て安心したわ。君がいてくれて本当に良かった」


 彼らは今までアレンに冷たい態度を取ってきたが、彼の勇気を目の当たりにして、少しずつその態度が変わっていた。アレンは照れくさそうに微笑みながら、村人たちの感謝の言葉に応えた。


 リーナもまた、アレンの側で村人たちと話し、彼のために説明をしていた。「アレンの力は私たち精霊も認めるほどのものです。彼の魔法は、この村を守る大切な力になるでしょう」


 アレンは、自分の力が村人たちに役立つと知る喜びを噛み締めていたが、同時に不安も抱えていた。影の正体は未だ謎のままであり、その力がどれほどのものかもわからない。万が一、自分の力では対処しきれない何かが現れたらどうしようという考えが、心の奥底にあった。


「リーナ、昨日の影についてだけど、やはり何か邪悪な存在に操られているように感じたんだ。あれは一体何なのかな?」アレンは静かにリーナに尋ねた。


 リーナはしばらく沈黙した後、深刻な表情で答えた。「あの影は…『闇の従者』と呼ばれる存在かもしれないわ。古代の魔法によって生まれた、邪悪な力に仕える影の兵士のようなものだと言われている。もしそれが真実ならば、影を操る存在は相当な魔力を持っているに違いない」


 アレンは唾を飲み込み、さらにリーナに質問を重ねた。「闇の従者…そんなものがこの村を狙う理由は何だろう?」


 リーナは首をかしげ、遠くを見るようにして答えた。「わからないわ。ただ、邪悪な存在が影を通してこの村に接触しようとしているのは確かよ。この村には何か特別なものがあるのかもしれないわね」


 二人は影の謎を解き明かすため、村の歴史や言い伝えを調べることにした。アレンの家には、彼の両親が残した古い書物がいくつかあり、その中には村の歴史や伝承が記されていた。リーナも精霊の知識を頼りに、手助けをしてくれた。


 ある書物をめくっていると、アレンはある奇妙な記述を見つけた。「見て、リーナ。この村はかつて、古代の王国と関係があったと書かれているよ」


「古代の王国…?どんな王国かしら?」リーナは興味深そうにアレンに尋ねた。


 アレンはさらに読み進めた。「この王国は、精霊と人間が共存していたらしい。そして、精霊たちの力を借りて、人々は平和な生活を送っていたとある。でも、やがて邪悪な勢力が現れ、王国は滅んでしまったらしいんだ」


「もしかして、その邪悪な勢力が今も影となってこの村に…?」リーナの表情は険しくなった。


 その時、突然、家の外から大きな叫び声が響いた。「助けてくれ!影がまた現れたんだ!」


 アレンとリーナは顔を見合わせ、すぐに家を飛び出した。叫び声の主は、村の門の見張りをしていた若い男性だった。彼の指差す方を見ると、昨日退けたはずの影が再び村の外れに現れ、村を睨みつけるように佇んでいた。


「リーナ、僕たちの力で、もう一度この影を退けよう!」アレンは決意を込めて叫んだ。


 リーナは頷き、アレンと共に影に向かって走り出した。二人は影の前で立ち止まり、アレンは両手を掲げて魔力を集中させた。再び光の魔法を放とうとしたが、影は一瞬で姿を変え、まるで獣のような形に姿を変え、襲いかかってきた。


 アレンはとっさにリーナを守るために前に立ち、影の攻撃を受け止めた。しかし、その攻撃は今までよりも強力で、アレンの防御魔法が揺らいだ。


「アレン、大丈夫?」リーナが心配そうに声をかけた。


「大丈夫だ…でも、もっと強力な魔法が必要だ」アレンは歯を食いしばりながら答えた。


 リーナは考え込むように一瞬目を閉じ、そして意を決したようにアレンに向かって言った。「アレン、私たちの力を完全に融合させる必要があるわ。精霊と人間の力を合わせることで、闇の従者を打ち破ることができるかもしれない」


 アレンは驚きながらも頷いた。「わかった。どうすればいい?」


 リーナはアレンの手をしっかりと握りしめた。「私に魔力を預けて。あなたの中に眠る力を引き出すわ」


 アレンはリーナの指示に従い、自分の魔力を彼女に託すように集中した。すると、リーナの体が淡い光に包まれ、精霊の力とアレンの魔力が融合していくのが感じられた。


 リーナの目が輝き、彼女の口から静かな声が響いた。「アレン、今よ」


 二人の魔力がひとつとなり、巨大な光の矢が影に向かって放たれた。その光は影を貫き、まるで影が苦しむような音を立てた。影は再び形を変えようとしたが、光に包まれて次第に小さくなっていった。


「やった…影が消えていく!」アレンは息を切らしながら、目の前の光景を見つめた。


 影が完全に消滅すると、森の中に静寂が戻り、月明かりが二人を優しく照らした。リーナは微笑みながらアレンを見つめ、「これで一安心ね。でも、きっとこれが最後ではないわ」とつぶやいた。


「影を操る存在…それが完全に消えない限り、また同じことが起こるかもしれない」アレンも真剣な表情で頷いた。


 二人はその後も村の周りを調査し、影の正体やその背後に潜む存在についてさらに深く知るための手がかりを探し始めた。村の人々も、少しずつアレンを頼りにし、彼の魔法が村を守っていると理解するようになっていった。アレンは孤立していた自分の存在が、今や村人たちにとって頼りになる存在に変わっていくのを感じ、胸の奥に新たな決意が芽生えていた。

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