18.第五の反復 赫映姫の復讎②
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(大正十年十月四日××新聞朝刊より抜粋)
■旧宮城崩落す 現場には二人の遺体 遺体には不審な点も……。
十一月三日東京市旧宮城にて原因不明の事故による爆発、崩落が発生した。またこれに伴い、東京市各地における中継汽罐および配管の爆発炎上が相次ぎ、依然現地は混乱に陥っている。
特別警衛掛救護班の懸命なる活動において、瓦礫の下より男女二名の遺体を発見。
内一名の身元が、大正七年の列車爆破事故にて重傷を負い〈天照〉が制御する生命維持装置に繋がれていた水晶殿下 (二○)であるものと警保局は断定。同じ箇所にて倒れていた男についても調査を進めているが、遺体の損壊著しく、身元の特定は困難を極めるという。
■木乃伊化した娘が抱えるは男の生首
救護班の班員に依ると、水晶殿下は切断された男の首を抱えるように倒れており、少々離れた位置に男の躰が無造作に打ち棄てられていたという。更に不審な点を挙げくれば、殿下の遺体は木乃伊のように萎れており、崩れた瓦礫がつけたであろう躰の傷跡総てに、生命反応が見受けられなかった点である(帝国大学医学部朝臣博士発表)。至って不自然な状況であり、真相の究明は容易ではないと推察される。
■男の屍体は人形戦闘兵器と判明
男女二名の検死を担当した朝臣博士は、首のない男が戦闘人形であると発表した。また東京工廠に問い合わせ現地調査を依頼したところ、戦闘人形の識別番号は不明であり、いつどこで製造されたものかも不明とのことである。これについて工廠長は「識別番号は大正七年の大災害以降に記載が義務づけられたものであるため、大正七年以前に製造されたものではないか」と述べているが、大正七年以前の個体が、どこでどのようにして旧宮城に至ったのかは依然として不明の儘である。
■天照地下の汽罐前に丸焦げの屍体
個人識別札により活動家の娘と判明
特別警衛掛設備課が暴走した汽罐の制御のために現場に急行したところ、辺り一面火の海であり、灼熱地獄の如し様相であったというが、汽罐の正面に人間が倒れているのを確認、急ぎこれを救護室に連れ込むも既に息絶えていたという。
警保局特別高等警察の発表に依ると、この屍体は個人識別札を所持しており、個人情報統括局に確認したところ、昨年十月に暗殺された活動家の娘、蔵本ヨシ子(仮名十九)と判明。
父親の無念を晴らそうと、旧宮城に忍び込み、『天照』の保護装置を解除したものとして警保局は捜査を進めているという。
■解析機関〈天照〉の復旧目処立たず
朝臣博士によると〈天照〉の修復には膨大な時間と資材を要し、速やかなる復旧はまず不可能であるという。詳しく話を聞けば〈天照〉には何者かによって自己破壊指令が組み込まれていた痕跡があり、螺旋や歯車といった構成部品の一コ一コが尽く破壊され、再利用はできず、また汽罐や配管の損傷も甚大であり、被害額は推定すらできないという(註=朝臣博士は〈天照〉の設計及び構築に携わった研究者のひとりであり、女性の身でありながら暴動の最中にも関わらず、単身現場に駆け付け捜査に協力した女傑であることをここに記す)。
自己破壊が組み込まれた原因については、先に述べた活動家の令嬢が関わっているものとして警保局は厳探たる調査を行うと発表した。




