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寸鉄詩(エピグラム)
吾が愛しの赫映姫よ。
僕は君を可哀想だと思つてゐる。
……何故だつて?
面白ひことを訊くぢやないか。
だつて君は吾が国最古の物語であるからだ。
今日に至る迄、何度も何度も研究され尽くされたからだ。
それはつまり。
君は、君達が。
あの悲劇的な物語を幾度も演じてきたといふ事実に他ならない。
嗚呼、何といふ厭夢であろうか!
愚鈍なる読者諸君は識らなひのだ。
君達に自我があるといふことを。
だから読んだ後で。
「迚も悲しひ話だつた」
「どうして姫は月に還つたのか」
などと云つてしまえるのだ。
嗚呼、姫よ。
僕の赫映よ。
僕には、君の本懐が能く判る。
君の願ひは休息であろう。終幕であろう。忘却であろう。
そして――復讎であろう。
……ところで、この僕にひとつだけ教えてくれないか。
君達の生みの親、作者は一体どこの誰なんだい?