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『夢わたりの掟』

一、夢わたりで知り得たことを口外してはならない。

二、依頼者以外の夢に干渉してはならない。

三、決して正体を知られてはならない。


このすべてを破ったものには裁きが下される。



*****



どこまで続いているかわからない宇宙のような空間を歩く。

その空間には数多の入り口が浮いている。

入り口の先は何も見えない。

入り口がただただ存在している。


あふれんばかりの輝きを放っている入り口もあれば、小さな輝きを放っているものもある。

それ以外にも静かでなんの動きもない入り口や、暗く、まがまがしい入り口もある。


その入り口の間をひたすら歩き、目的の場所につく。

黒い入り口の淵だけが青白く光っている。

青白い光は依頼人の夢である証拠だ。


「ここだね、依頼主の夢は」

私の言葉に反応するように、隣にいるマリムゥが揺れる。


マリムゥは私のパートナーである。妖精ともいう。

手のひらサイズの小さな雲に猫のような黒い三角の耳。そしてしっぽが生えている。


そっと黒く歪んだ入り口に手を伸ばすと、水面に手を入れた時と同じように波紋が広がる。

そこにマリムゥと共に入っていく。


「うぅ、今回は虫か」

中に入ると虫が複数うごめいている。

極力見ないようにするが、羽音がどうしても耳につく。


歪んだ空間の中心には一人の女性が立っている。

虫から目を背け、必死に頭を振っている。


念のため、マントのフードを深くかぶり直し、彼女に近づく。

「いくよ」

マリムゥに告げ、手に持っていた自分の背丈よりも長さのある、白銀の杖を空間に突き刺す。


リーンッ


と高く鈴の鳴る音が響く。

杖の先についている大きな輪の中は花のような模様をしており、そこから細い銀細工がぶら下がっていて、シャラリと揺れる。


呪文を唱えようと、口を動かした瞬間に虫が飛んでくる。

「ひぃ!」

思わず悲鳴を上げ、刺した杖を引っこ抜いてよける。


「ごめんごめん。つい」

私に抗議の目を向けてくるマリムゥに謝る。


まぁ抗議の目といえ、つぶらなぬいぐるみのような黒目なので、全く怖くない。

しかし言葉も発さないのに、私に怒っているとは通じるのだから不思議なものである。


体勢を立て直し、杖を握り直す。


一回でバシッと決められない。

こういうところが落ちこぼれって言われるのだ。

意地悪な親戚たちを思い出し、ため息をつく。


もう一度、深々と杖を突き刺す。

「彼の者に救いを。安らかな眠りを与えよ。アトラップレーヴ!」


ゴウッと風が吹き、杖の銀細工がシャラシャラと音を立て揺れる。

淡い青色の光を放ち、女性のもとへ飛んでいく。


すると女性のもとにたどり着いた光は徐々に大きくなっていき、空間全体を光で包む。

そして空間をうごめいていた虫は塵となって霧散していく。


両手で顔を覆い、恐怖に震えていた女性は顔を上げ、その光景を見つめた。

そして完璧に虫が消えたことを確認すると、徐々に安堵の表情に変わっていく。


その様子を見て、私もほっとする。

「ふぅ、依頼完了」

突き刺していた杖を引っこ抜く。


すると上体が後ろにそり、フードが取れそうになる。

自分の水色の髪の先っぽが見えて、慌ててフードをかぶり直す。


これ以上、ここにいる必要はない。

さっさと帰ろう。

入ってきた入り口から外に出る。


振り返ると入り口は行きと違って、静かで白い入り口になっていた。

やはり無事に解決できたようだ。


安心して、元来た道を歩き出す。

「今回はスマートに終わったし、ぐっすり眠れそうだね」

一度杖を抜いたことは記憶の端に追いやり、隣にいるマリムゥに話しかける。


返事はないが揺れているので、マリムゥもご機嫌のようである。

「ふふ」

尻尾も動いている、その愛らしい姿を見つめて和む。


あと少しで、この空間を出るというところまで戻ってきた時だった。

「ああぁぁぁあ!」

突然、空を切り裂くような悲鳴が聞こえた。




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