95話 文化祭前夜
夏休みが明け、俺たちは二学期を迎える。
久しぶりに教室で顔を合わせるクラスメートたちは、それぞれがどことなく大人っぽくなっているような気がした。
日焼けをしてる人、髪の毛を思い切って切った人、制服を軽く着崩すようになった人。
もちろん変わらない人もいるけれど、見た目的に言えば俺もそこまで変わっていないと思う。
だから傍から見たら、
『この陰キャラは夏休み中ずっと家に引きこもってゲームとかしてるだけだったんだろうなぁw』
みたいに思われてるかもしれない。
まあ、ゆぅちゃんや冴島さんたちと仲良くなっていなかったら、たぶんその予想は外れていなかった。
きっと家の中でゲームして、軽くばあちゃんちに帰省したりしてで夏休みを終わらせてたはずだ。リア充イベントなんて皆無だった。
恋人になってくれたゆぅちゃんには、特に感謝しかない。
灰色になるはずだった俺の夏を彩ってくれた。
この夏のアレコレは、きっとこれから先も振り返ることのあるような、大切な思い出になったはず。
でも、そんないい思い出を残せたからこそ、『どうか』と俺は祈ってしまう。
一年後も、二年後も、高校を卒業してからも。
どうか。
どうか、俺と一緒にいて欲しい。
精一杯、君の笑った顔が傍で見続けられるよう努力するから。
●〇●〇●〇●
夏休みが明けてから、文化祭までの日々はあっという間だった。
文化祭委員のミーティング自体は減り、それぞれクラスの出し物に力を入れていく。
縁日をやることになった俺たちは、買い出しに行ったり、設備作りの作業を行ったりと大忙しだ。
ゆぅちゃんと付き合い出したものの、文化祭当日の叫び祭まではそれをおおっぴらにするつもりもない。
俺は相変わらずクラス内じゃ地味なポジションに留まり、社交的に誰彼と会話するわけでもなく、黙々と作業をこなしていた。
ただ、それも一人でいる時だけだ。
ぼっちな俺を心配してか、何かとゆぅちゃんは声を掛けてくれる。
あんなに夏休み中はベタベタしてたのに、教室の中じゃつい挙動不審になってしまう俺は、傍から見たら陽キャ女子に話しかけられている陰キャラ、みたいな絵面だろう。
ちょうどよかった。
これで本番前に面倒な質問をされたりすることもない。
二人は付き合ってるのか、とか。
たまにそれとなく武藤さんたちが大きい声で俺たちのことを茶化してくるから、その時だけは不安にさらされたりしたけどな。
とまあ、こんな感じで、特に変わった問題も起こることなく、本番までの日々は流れていった。
俺の決意は揺らぐことなく、日に日に強まっていく。
大隅先輩も、あれから俺に特別絡んでくることはなくなったし、本当にあとは本番でどうなるかだ。
もう何も疑わない。
ゆぅちゃんに言われた通り、俺は俺のやるべきことをやるだけ。
彼女も動いてくれるみたいだけど、頑張らないといけないところだ。
やってやろう。本番。
俺は強い気持ちでそう思い続けるのだった。




