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クラス一のクール美少女が放課後の教室でこっそりAV鑑賞してるところ見たら詰んだ  作者: せせら木
一章

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80話 重なる想い。重なる告白。

『――で、どうだった? 雪妃とのお忍び東京旅行は』


 左耳に近付けているスマホ。


 そこから、不自然さを感じるような調子のいい女の子の声がする。


 声の主は言うまでもない。冴島さんだ。


 東京旅行が終わったらちゃんとこの件について話そう。


 LIMEのチャットにて、そういった旨のメッセージを送ってきてくれていたのだが、まさかその日の夜にさっそく電話を掛けて来られるとは。


 諸々の旅行バッグを解体し、風呂に入って夕飯を摂り終え、ひとまず楽しかった旅の思い出に浸ろうと、ベッドに寝転んだ矢先のことだ。


 スマホの着信音が部屋に鳴り響いた。


 もう、素で声が出たよね。


「げっ」って。


 絶対冴島さんには言えないけどさ。さっそくですか、って。


「そりゃー…………もう、何というか…………はい。楽しかったですよ。とても。大切な思い出の一ページに刻み込めるくらい」


『変に詩的な表現挟んで逃げようったってそうはいかないからねっ。曖昧な言い方じゃなくて、具体的にどこがどう楽しかったのか、ちゃーんと白状することっ』


「白状って……」


 なんか俺、犯罪の疑い掛けられてる人みたい。まったくもって無罪なのに。


『それから、どうしてアタシに黙って二人きりで旅に出たのかもちゃんと納得できる理由を付けて説明することだよー? 「恋人だから」は無しねー?』


「いや、それ以外に理由なんて無いが!?」


 つい大きな声が出てしまう。


 仰向けになっていたところから、思わず上体を起こしてしまった。


 本当にそれ以外理由は…………ない。ことも……ない、か(同人誌買うこととか同人誌買うこととか同人誌買うこととか同人誌買うこととか同人誌買うこととか)。


『もう、名和くん嘘ばっかし~』


「っ……!?」


『アタシがどれだけ雪妃と濃い関係築き上げてると思ってるの? あの子のことだもん。名和くんと単純な思い出作りのための旅行をするなら、絶対アタシに言ってくるはずなの。「今度さと君と東京旅行行ってくる」って』


 言い終わるのと同時に、「ベキッ」と何かがへし折られたような音が耳元でした。


 つい訊いてしまう。今のが何の音だったのか。


『気にしないで。君と旅行に行くってこと、雪妃が報告してきた状況を想像したら、なんだか指に力が入っちゃって。持ってたポッキー折っちゃっただけだからっ』


「ひ、ひぃぃ……」


 情けなく電話口で悲鳴を漏らす俺。


 だって仕方ない。怖いんだもの。


 折った時の音といい、声音といい、楽しそうに話してくれながら、その裏に確かな殺意が見え隠れしてる。


 絶対今ニコニコ顔で電話しながら青筋立ててるよこの人。


 どうにかしてお怒りを鎮めなければとは思うものの、疲れのせいか良さげな案が思い浮かばない。


 旅行のことを振り返ろうとしても、あられもない姿のゆぅちゃんが頭の中にぽわぽわ浮かぶだけで、それを霧散させるのに必死だった。


 もはや自分でも何がしたいのかわからない。ほんと、誰か助けて。


『それで? 旅行中、雪妃とはナニをしてたのかな?』


「さ、冴島さん。俺、よ、夜中にイライラしちゃうのは美容に良くないと思うんだ。今日はもう遅いし、とにかく別の日にでもまた――」






『ナニをしてたのかなぁ?』






「はい。えっと、普通にエッチな同人誌を一緒に買いに行ってました。ホテルでは同じ部屋で寝泊まりしましたが、そういう行為はしておりません。くだらないことをごちゃごちゃ言ってすみませんでした」


 目の前に冴島さんはいないのに、俺は気付けばベッドの上で土下座していた。


 圧が強すぎる。


 これ以上下手な言葉を並べれば、次に会った時命が無いと思いました。だからあったことをほぼ全部言っちゃいました。


『……へぇ。意外だね。そういうコト、しなかったんだ』


「し、ししし、しておりませぬ。すみません」


『エッチな同人誌は買わせたくせにね』


「か、買わせた、というのは少々語弊が……」


『チガウノ?』


「違うことなかったです。思い出しました。自分、強制的に買わせてました」


『だよね? 雪妃、イヤイヤって涙目で首を横に振ってるのに、君は自分の下卑た情欲を満たすためにエロエロな漫画を手に取らせて、それをレジまで持って行かせたんだよね?』


「え、えぇ……? そ、そんな具体的な状況では――」


『モッテイカセタンダヨネ?』


「はい。それもまた思い出しました。持って行かせました。涙目で嫌がってるゆぅちゃんを前にして興奮し、会計させに行きました」


『だよねぇ? うふふっ。思い出すことたくさん。ほんっと、名和くんはどうしようもない変態さんだ』


「変態ですみません」


『一瞬否定しようとしてたけど、間違っても今のを「それは冴島さんのしたいことなのでは?」なんて風に思わないことだね。アタシは断じてそんなこと考えてる……じゃなかった。考えてないから』


「………………」


『何その間? ち●ち●切られたいの?』


「ひ、ひぃぃっ! それだけはご勘弁を!」


 本当に耳元で「シャキン」という音が聴こえた。ガチ過ぎる。どうしてハサミ手に持ってるんですかこの人。


『ち●ち●切り落とすかどうかは、今度文化祭委員の集まりで名和くんと会ってから決めるね。それまでお楽しみに』


「全然楽しみにできないよそれ!?」


 叫ぶも、ハサミをシャキシャキさせながら電話口で楽しそうにする冴島さん。


 俺はただ怯えながらベッドの上で女の子座りし、もじもじするばかり。


 お願いだからやめて。俺は女の子になりたいわけじゃない。


『ふふふっ。まあ、とりあえず冗談はここまでにしとこっか。ごめんごめん。さすがにさっきからからかい過ぎた。旅行、楽しめたのならよかったよ』


「え……? 何……? 俺、許されたの……?」


『許してはないかなぁ? 雪妃と二人きりで旅行って、正直嫉妬しちゃうし』


「ぐっ……!」


『ただ、それは君にだけじゃないけどね』


「……え?」


 それはどういうことだろう。


 疑問符を浮かべ、思わず首を傾げてしまった。


 変な間ができて、すかさずそれをかき消すかのようにまた冴島さんが笑う。


『なんてね。アタシ、最近変だ。感情の方向がぐちゃぐちゃ』


「あはは……。そう……なの?」


『うん。これも全部名和くんがアタシの相手してくれないからかも。癒し担当の役割を担ってくれていませんから。最近』


「ご、ごめん。……って謝るのはなんかうぬぼれてるみたいだね。一応、海旅行はあったんだけど……」


『あの時は皆いたし。君と二人で話せたのなんて数えるほど』


「っ……」


『アタシ、君ともっと色々話したいんだ。雪妃には悪いけど。未だに雪妃のことがあまりにも好き過ぎるから。君から話聞かないとやってられない』


「……冴島さん……」


『やってられないんだ……アタシ……』


 少しの間の後、静かに彼女は言った。


 ごめんね。と。


 相変わらず俺は、目の前に冴島さんがいないのに動きを加えて彼女へ言葉を伝える。


 首を横に振った。


「謝らなくていい。冴島さんは謝る必要なんてどこにもない」


『……そんなことはないと思うよ。謝らなきゃ』


「違うよ。謝罪なんて俺がして欲しくないんだ」


 だって。


「あなたは、ただ単純に雪妃ちゃんのことを好きになっただけだから」


『……』


「誰かを好きになることが罪になるなんて、あまりにも悲し過ぎる。叶う恋、叶わない恋はあれど、それ自体を責めるべきじゃないと思うよ。俺は」


『……そう?』


 頭を縦に振る。うん、と声に出して肯定しながら。


「だから、どうか自分を責めないで。こんなこと、俺が言ってもむしろ腹が立つだけかもしれないけど……」


『……そんなことないよ』


「ないかな?」


『うん。ない』


 でも、と冴島さんは続ける。


 それは、どこかぎこちなく、慎重に言葉を選びながら続けられている感じ。


彼女は、ゆっくりと、一つ一つを懸命に伝えるように、俺へ話してくれた。


『誰かを好きになることが罪じゃないのなら』


「……うん」


『今、この場でアタシ、伝えてもいいかな?』


「伝える……?」


『そう。伝える』


 俺は、いいよ、と返す。


 そこから先の言葉を聞き、驚くことになるなど露ほども知らず。


『アタシ、君のことが好き。雪妃と同じくらい。恋愛的な意味で』

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