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クラス一のクール美少女が放課後の教室でこっそりAV鑑賞してるところ見たら詰んだ  作者: せせら木
一章

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76話 勇気を出すゆぅちゃん

『夏休みの終盤。八月の下旬から本格的に文化祭の準備を進めていく。そのために、君も月森さんを連れて文化祭委員の会合に参加して欲しい。正規メンバーとして、名簿には二人の名前がもう追加されているから』


 これが大隅先輩から送られてきていたメッセージの要約だ。


 所々俺のことを気遣う表面的な言葉や、月森さんとのことを聞いてくるものもあったけど、そういうのはもう具体的に話さない。


 怖さは前に比べれば無かった。


 大好きな恋人のゆぅちゃんを、自分より有能である先輩に取られてしまうかもしれないという恐怖が薄れたわけだ。


 それは、海旅行と東京旅行で色々な人と会話し、ゆぅちゃんともさらに意思疎通を深めた結果ともいえる。


 この二つの旅行を通じて、俺は月森雪妃という一人の女の子にどれだけ好意を向けられているか、不器用なりに理解できた。


 それまでの俺は、人との関わりをなるべく避け、コミュニケーションを取らず、教室に居ても隅っこの自分の席で小説を読んだりしていたわけだ。


 他人の思いがすべてマイナスであると勘違いしていたし、俺の行動がそれをプラスに変えられるとも思えず、最初から諦めていた。


 けれど、どうやらそうじゃない。


 ゆぅちゃんと仲良くなり、協力し、悩みを一緒に乗り越えて、さらにその先で募った思いを交差させた。


 かつて彼女は言った。


 助けてくれてありがとう。


 私に対して一生懸命になってくれてありがとう。


 そんなのは俺もだ。


 あなたと付き合えて、仲良くできて、俺は人の暖かさを知れた。


 目を背けていた武藤さんや灰谷さん、冴島さんも、本当は各々に色々抱えていて、けれども純粋に他者を肯定しようとしてくれている。


 敵なんかじゃなかった。


 敵なのは自分自身だ。


 優しい彼女たちを勝手に悪く見立てるしかない愚かな自分。


 だから、そういう意味で言えば、大隅先輩かれだって。


 目と目を合わせて話し合えば、もしかすると思っていた人とはだいぶ違うのかもしれない。


 ゆぅちゃんに対して好意を抱いているのは知ってるけど、本当に俺から奪おうとしているのだろうか。


 メッセージの文面で悪く言ってきたって、それは彼の本心かどうかもわからない。


 本心はもっと違うのかも。


 気になる。


 ゆぅちゃんの関わることは全部。全部。


「――そういうことなんだよ、ゆぅちゃん。俺がこの夏を通して得た学びのすべて」


「うん。さと君すごい。さすがさと君」


「ううん。すごいのは俺じゃなくてゆぅちゃん。俺はただ教えてもらっただけ」


「そんなことないよ。色々なことに自分で気付けてるんだもん。それがすごい。普通は無理だと思う」


「いやいや。それも教えてくれる人が丁寧に気付かせてくれるような人だったから」


「さと君が些細なことに気付ける人だから」


「やっぱりゆぅちゃんはすごい」


「さと君の方がすごい」


「ゆぅちゃんゆぅちゃん」


「さと君さと君」


 たぶん、監視カメラみたいなものがあったとするなら、俺たち二人は密室で何をしているんだとツッコまれそうだ。


 ベッドの上。


 今日も今日とて、しっかりと東京観光(主に同人誌ショップ巡り)を終わらせ、ホテルの部屋で二人泊まり。


 俺たちは横になり、互いに見つめ合って前髪を撫でたり、頬を突いたりしながら、とんでもないくらいイチャついていた。


 もはや距離感はバグり散らかしている。


 絶対にこの東京旅行で俺たちはおかしくなった。


 夏休み明け、真っ当な学校生活が送れるんだろうか。


 校内でハグとか普通にしそうで怖い。


 ゆぅちゃんもだけど、自分も怖かった。もはや俺の中で大隅先輩が敵だとか、そういう認識はあまりない。ゆぅちゃんとの仲が強まり過ぎて、寝取り男も寝取る前にノックアウトだ。一周回って彼の心情を掴みたいと思える境地に達しているくらい。なんか寝取られ同人誌で主人公が寝取り男を殴り飛ばすくらい展開としてはつまらない気がする。いや、まあそっちは同人誌でこっちは現実だから、展開としては後者が圧倒的に望ましいんだけどさ。


「……関係ないんだけど、ゆぅちゃんの前髪サラサラだね。触り心地、すごくいい」


「……ん。さと君の前髪もふわふわしてて好き。可愛い」


「俺、実は髪の毛触られるの好きなんだ。気持ちいいし、眠たくなってくる」


「私も。寝ちゃいそう……だけど……お風呂入らなきゃ」


「……それもそっか」


 エアコンのおかげで汗が引いてるとはいえ、季節は夏だ。


 さすがに入らないと、次の日の朝が怖い。匂いというやつが気になる。


 俺はベッドから気合いで起き、立ち上がった。続いてゆぅちゃんも立ち上がる。


「じゃあ俺、適当に何か飲み物でも買ってきてる。お風呂の後、喉渇くよね? ゆぅちゃん、先入ってていいよ」


「……」


「……? ゆぅちゃん?」


 即座に頷かれると思ってた。


 だけど、ゆぅちゃんはそれをせず、黙り込んで俺の方を恥ずかしそうに見つめてる。


「ねぇ、さと君?」


「……?」


「昨日は、私たち別々にお風呂入ったよね?」


「……うん」


「明日はもう家に帰るし、ホテルに泊まれるのは今日が最後。……だったら最後くらいは」


 ……まさか……。


「い、一緒に入ってみませんか……? 私と……お風呂……」


 ドキ、と心臓が強く跳ねた。

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