66話 ドキドキで君の寿命を奪いたい
「今からしかと鑑賞させていただきます。ゆぅちゃんの水着姿」
二人きりの浴室前。
服を脱ぐ場所で、ゆぅちゃんと向かい合いながら、俺は堂々と宣言した。
「うん……。見て……? さと君……」
あなたのために、いっぱいいっぱい考えて選んだ水着だから。
目を合わせることができず、赤面しながら、か細い声で言うゆぅちゃん。
俺の心臓は、ドクドクと怖いくらいに早く鼓動を刻んでいる。そのせいか、呼吸も荒くなっていた。
ゆぅちゃんが恋人になってから、本当にこういうことばかりだ。
人の心臓の鼓動回数は、一生に何回、と決められているらしい。
それでいけば、俺はこの調子だと絶対に早死にしてしまう。
けれど、それでもいいと思えた。
こんなに可愛くて、美しくて、一途な女の子が、俺なんかのために尽くしてくれているんだ。
その彼女の想いに応えられるのなら、俺は自分の人生を差し出す覚悟だって容易にできる。
何なら、俺はゆぅちゃんの寿命だって奪いたい。
俺がゆぅちゃんからドキドキさせられているように。
俺も、ゆぅちゃんをドキドキさせて、寿命を俺と同じくらいにさせたい。
一歩間違えれば、いや、一歩間違えなくとも、それは恐ろしくて狂気じみた思考だ。
けれど、そう考えてしまうのは、俺だってゆぅちゃんのことがたまらなく好きだから。
好きで、好きで、たまらないから。
だから……何度でも言うよ。
「……綺麗……すっごく……」
気付かないうちに漏れ出た本音は、言葉となって、音となって、目の前の彼女へ伝わった。
彼女は、瞬間的に俺と目を合わせ、さらに白い顔を朱に染める。
そして、すぐさま見開いた瞳を俺から逸らし、顔をうつむかせて、ぼそぼそと何かを呟いた。
「………………るい…………」
「……へ……?」
「ズルい……いきなり、とか……。誉め言葉は……ちゃんと『言うよ』って宣言してから……言って」
一瞬ポカンとして、俺はすぐさま「いや」と首を横に振る。
「それは無理だよ、ゆぅちゃん。絶対に無理」
「む、無理じゃないよぅ……! そうしてくれないと……私……死んじゃう…………嬉しくて……恥ずかしくて……」
「なら、その時は俺も一緒に死んであげるよ。それくらい無理なんだ。出ちゃうんだよ、言葉が」
「っ~……!」
「水着姿のゆぅちゃんが、可愛すぎて……!」
「――ぅにゃぅ!?」
体をビクッとさせ、その場で顔を抑えながらしゃがみ込むゆぅちゃん。
幻覚だろうけど、頭からは湯気が出てるように見えた。そのくらい、ここから見える耳は真っ赤だった。
「……というか、そもそもの話、水着を見て欲しいって言ったのはゆぅちゃんだよ? 決まってるよ。俺がそれを見て、誉め言葉連呼するのなんて」
「で、でも……だからって……すとれーとすぎる……」
途切れ途切れになりながら、ゆぅちゃんは返してくれる。
俺もしゃがみ込み、目線を同じ高さへ持って行った。逃がしはしない。
「正直なとこ、今の俺は、ゆぅちゃんの水着姿の可愛いポイント、百個は言える」
「ひゃ……ひゃっこ……!?」
涙目でおののくゆぅちゃん。
しかし不意打ちに弱い。
さっきは自分から水着姿を見てって言ってたのに、俺が攻勢に転じると途端にこのザマだ。
それがまた、可愛くてたまらないんだけど。
「お、おおすぎっ……! せ、せめて……せめてごじゅっこくらいにしてよぉ……!」
「そ、それもまだ多い気がするけど……」
ゆぅちゃんは小さく首を横に振って、「イヤイヤ」の仕草。
ちょっとゾクッとする。
こういうパターンは、なんだか初めてだ。
俺がゆぅちゃんのことを責めるなんて。
「まず、その色がいいよね」
「ひゃぅっ……!」
「ゆぅちゃんの綺麗な白い肌に合った純白。黒もいいけど、やっぱり白だよ。白が一番ゆぅちゃんに合ってる」
「さ……さとくん……だ……だめ……」
「ゆぅちゃんは恥ずかしくなるとすぐに赤くなるから、それもまた、白だとわかりやすい。ゆぅちゃんの可愛いところだもん。意図的ではないと思うけど、それも偶然が生み出した奇跡の産物だよね」
「ひぅぅっ……! み……みみっ……ほんとにだめなの……」
「だめ……? 大丈夫だよ。ここには、俺とゆぅちゃんしかいないから」
「そういうことじゃ…………んくっ!」
「たくさん……言ってあげる……。隅から隅まで……ゆぅちゃんの……可愛いところ」
「……さと……くん……」
気付けば、俺はゆぅちゃんと密着した状態になっていた。
抱き合うような姿勢になり、耳元でひそひそと囁く。
彼女は何度も俺から逃げ出すように、弱々しい力でゴソゴソ動くけど、それを許さない。
わずかな力で抑えると、大人しくなって、ビクッとしながら、俺の囁きに耐え続けた。
可愛いところを言う刑。
ゆぅちゃんは可愛すぎるから。
その罰として、刑を用いた。
これは、今後もやっていかないといけないかもしれない。
でも、やり過ぎには注意だ。
いいところを二十八個言ったところで、ゆぅちゃんは腰を抜かして立てない状態になってた。
口元もへにゃへにゃになってる。
我ながら反省し、彼女を少し落ち着かせてから、俺は水着姿のゆぅちゃんと一緒にお風呂に入るのだった。
誰も見てないところで、二人きりで。




