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クラス一のクール美少女が放課後の教室でこっそりAV鑑賞してるところ見たら詰んだ  作者: せせら木
一章

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47話 全裸

「ねぇ、さと君。美海たちの困ってることって何だと思う?」


 大型ショッピングモールへ向かってる最中の電車内。


 何気ないやり取りをしてる中で、唐突にゆぅちゃんが俺へ問うてきた。


「灰谷さんたちの困ってること……」


「うん。私、絵里奈からチラッと聞いてたんだけど、さと君はまだ聞いてなかった? 美海と楓に困りごとがあるって」


「ん……あ、いや、聞いてる聞いてる。確かLIMEで……」


 言いかけて、すぐにマズいと悟った。


 口を開けたまま固まり、ギギギと首を動かして隣を見やる。


「……むぅ。こっそり……」


 予想通り不機嫌な表情を作ってらっしゃる雪妃さん。


 俺は「いや」と手を横に振って、


「たまたまだよ、たまたま。絵里奈さん――じゃなくて、ちょっと待て俺。何で今、絵里奈さんって言った!? 冴島さんね、冴島さん。冴島さんからたまたまLIMEが送られてきただけだから。別に俺から送ったわけじゃないです」


「うぐぐ……絵里奈さん……」


「事故だから! つい名前で呼んじゃったのも事故! お願いだからそんな怖い顔で見つめないで! お願い!」


 とは言うものの、そんなお願いが簡単に通るはずもなく。


 ゆぅちゃんは隣から顔を近付けてきて、俺の手をギュッと握った。


 まるで「私のもの」と言ってるみたいだ。


 周りにも人がチラホラいるから恥ずかしい。


「束縛はなるべくしたくないけど……けど……」


「あ、え、えっと、雪妃さん……?」


「ゆぅちゃん!」


 圧を掛けられ、怒られてしまった。


 すぐさま訂正して「ゆぅちゃん」と口にする俺だけど、その様を見てた前の大学生っぽいカップルがクスクス笑って俺たちの方を見てる。これまた恥ずかしい。顔が熱くなってくる。


「雪妃さん呼びはダメだよ。仲のいいカップル条項に反するから」


「な、仲のいい……カップル条項……?」


 何だろう、その胡散臭そうな条項は。


「恋愛雑誌に書いてあったの。普段読まないからどんなものを買っていいかわからなかったんだけど、適当に買ったやつにね。『イチャラブバカップルになるには砕けたあだ名で呼ぶことを徹底しよう!』って」


「別にならなくてもいいんじゃない……? イチャラブバカップルには……」


 俺が言うと、ゆぅちゃんは真顔でふるふる首を横に振る。


「一度だけなってみたい。将来的にずっとそうあるべき、とは思わないけど。理想はほんわかした老夫婦」


「ろ、老夫婦ですか」


「うん。私の将来の夢は、おばあちゃんになってもさと君の傍にいて、のんびりお茶を飲むこと。安定した関係。信頼できる関係」


「な、なるほど」


「でも、その前に一度経験しておきたい。さと君とのイチャラブバカップル時代を」


 あぁ……。つまりあれですか。


 若い時は燃えるようなイチャラブカップルでいて、年老いたらそれを少し落ち着かせて、信頼できて、安心できる二人でいられるような、そんな関係を築きたい、と。


 なるほど。なるほどなぁ。


 やっぱり、俺の彼女はすごいです。めちゃくちゃ先のことまで考えてる。


 俺が考えてることなんて、まだ『どうやったら緊張することなくさりげなく手を繋げるか』とかなのに。


一歩、いや、百歩先を行ってる感じだ。余裕なんだと思う。ゆぅちゃんは俺の手を自分から握りに行くことくらい。今もしてきたわけだし。


「だからね、さと君は出来る限り私のことだけ見てて欲しい。もっと私でいっぱいになって? 私は、こんなにもさと君のことでいっぱいだから……」


「ゆ……ゆぅ……ちゃん……」


 い、いかん……ダメだ……これはヤバい。


 クールで綺麗な顔の女の子が、甘えておねだりしてくるような声音で訴えてくる。


 しかも、それは好きな女の子からだ。


 心臓がバクバク跳ねる。


 既に熱くなっていた顔がさらに熱くなる。絶対に赤い。直視できない。ゆぅちゃんの顔を。


「さと君が望むなら、私なんだってするからね。何でも言ってくれていいんだよ?」


「あ……う……っ」


「今から選ぶ水着だって……さと君が『全裸で行きなさい』って言ったら……全裸で行くもん……海……」


「――っ!?!?」


「私は……さと君だけのものだから……」


「ッッッッッッ!!!」


 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。


 落ち着け俺。大人しくなれ俺。


 ここは電車の中ここは電車の中ここは電車の中ここは電車の中。


 すごく抱き締めたい思いに駆られたけど、理性でそれをどうにか抑え、曖昧な返事をし、顔を両手で覆う。


 ゆぅちゃんはそんな俺をすぐに心配して、「どうしたの?」と声を掛けてくる。


俺は、周りの誰にも聞こえない声でゆぅちゃんに返した。


「可愛すぎて、あなたの顔が直視できません」と。


 それで、彼女がどんな反応をしたのか、どんな表情を浮かべたのかはわからない。


 でも、動揺したような声が聞こえてきたから、たぶんゆぅちゃんも俺みたいなことになったんじゃないかと思う。


 だとしたら、二人そろって顔を隠すカップルの誕生か。


 それもそれで何かいいかもしれない。面白くて。


 周りの人たちからは絶対変な風に思われてそうだけど。




『――次の停車駅は、〇〇ショッピングモール前。〇〇ショッピングモール前』




 で、気付けば降車する駅にも到着。


 俺は未だ赤いままの顔から手を離し、短く「行こ?」と言って、隣に座ってるゆぅちゃんの手を優しく握った。


 彼女もまた短く返事をして立ち上がり、俺へついて来てくれたわけだけど、その仕草というか、行動というか、動きもまた何かよくて、ニヤケが止まらなかった。


 俺、これからちゃんと水着を選ぶことができるんだろうか。


 結局、灰谷さんたちの困りごとに関しては一つも話せず終いだったし。


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