第8話
悪魔との約束の日まで、まだ1か月以上ある。接触済みの9人については店の女の子たちに定期的な連絡をとるようにお願いしてあるし、残りの2人 安藤議員と羽田議員の件は美咲と梨花子に頼んである。これで俺も少しはのんびりできそうだ。
5日後 梨花子は宣言通り安藤議員を店に連れてきた。
「先ほど店の近くでお見かけしたのでお願いしてお店に来てもらったんですよ。」(さすが梨花子さん。)
「本当にいいお店だね。美人ぞろいだし、来て良かったよ。」さすが女好きで有名な安藤議員、こういう場所には慣れていそうだ。
やはり、ママにお願いしてVIP待遇で対応してもらった。
安藤議員は女の子に囲まれてご満悦の様子だった。その中に美咲も梨花子もいるのだから最高だろう。
1時間ほど経った頃、俺は質問を投げかけてみた。
「議員、私は最近よく生成AIを使うのですが、AIの規制が始まるという噂は本当なんですか?」
議員は女の子に囲まれてにやけていた顔から急に真面目な顔になった。「うーん、まだ詳しく話せる段階ではないんですが、規制が必要だと思っています。大学教授やAIの開発者の方々から色々な話を聞いていますし、それなりの危機感は持っています。今、羽田議員を中心に仲間を増やしているところなんですが、本気で聞いてくれる人はまだまだ少数派ですね。」
美咲と梨花子がピクッと反応したのが分かった。羽田議員との接点が見つかった。
「AIというのは規制が必要なほど進化しているものなんですか?」俺は興味ありそうに尋ね返した。
「ええ。専門家たちのお話を聞いていると少し怖くなってきますよ。」
「そうですか?もはやSFの中の世界だけではないという事ですね。」
「なかなか熱心ですね。」安藤議員は少し不思議そうだった。
「ええ、うちのお店には色々な方が来店されます。なぜか、最近そのような噂をする方が増えているような気がしまして。」
「うーん、そうなんですか?やはり規制は急がなければならないのかもしれませんね。」
「もしよろしかったら、羽田議員をうちのお店に連れて来てくださいよ。一度、羽田議員のお話も伺ってみたいですからね。それに、ここでなら内密な話もしやすいでしょうし。」
「そうですね。オーナーは色々顔が広そうだし、参考になる話が聞けるかもしれないですね。一度、お連れしてみますよ。」
「ありがとうございます。是非お願いいたします。さあさあ、真面目な話はこれ位にして楽しむことにしましょう。」俺は話を終わらせた。
すると、安藤議員からはすぐに真面目な雰囲気は消え去り、また女の子と楽しく話し始めた。さすがに遊び慣れている人だ。
(これで最後の1人 羽田議員とっも接触できそうだ。あと1か月以上を残して上々の出来だ。これで12月24日のパーティーは何とか開催できそうだ。あとは1か月皆をつなぎとめて無事招待するだけだな)。
それから2日後 午前0時になっても悪魔からの連絡はなかった。もしかしたら、もう当日まで連絡はないのかもしれない。なぜだか、俺はそんな気がしていた。
その後もターゲットの10人はお店に足を運んでくれた。女の子たちがこまめに連絡してくれているおかげだろう。本当に皆の頑張りにはいくら感謝しても、し足りない気分だ。俺はいつの間にかこの女の子たちに絆のようなものを感じ始めていた。
しかし、安藤議員はなかなか羽田議員を連れて来てくれなかった。やはり、こちらから何か仕掛けなければならないのかもしれない。
そんな事を考えていた時、とうとう安藤議員は羽田議員を店に連れて来てくれた。これでようやく11人全員と接触することが出来た。
俺は安藤議員と羽田議員を手厚くもてなし、AIの規制について情報交換をした。俺はこの日の為に、AIに関する本を可能な限り読み漁り、2人の話に付いていけないなんて事はないようにしておいた。しかし、そんな事は杞憂に過ぎず、既に俺の知識は2人を追い越していたようだった。2人は俺の話にも耳を傾けてくれた。
羽田議員は帰り際に「それにしてもオーナーの見識は大したものですね。とても有意義な時間を過ごすことが出来ましたよ。これからもちょくちょく寄らせていただくことにしましょう。」と言ってくれた。
閉店時間になり、俺は部屋に帰った。これで、もう大丈夫だろう。あとはクリスマスイブを待つだけだ。
翌日、俺は文具店に行って豪華なクリスマスカードと招待状を注文した。センスに自信のない俺は美咲と梨花子についてきてもらった。既に俺は2人に惚れているのかもしれない。2人がかわいく思えて仕方ないのだ。
後日、クリスマスカードと招待状が出来上がって来たので、店の女の子に招待状をお送りする旨の電話と招待状とクリスマスカードの発送を手分けしてやってもらった。これで準備は整った。あとは当日を待つだけだ。
12月18日 午前0時 悪魔からの連絡が入った。俺はもう当日まで連絡はないと思いこんでいたので少し驚いた。
「どうだ。いよいよ7日後だぞ。準備はいいだろうな?」悪魔のいつもの恐ろしい声だった。
「ああ、準備万端だ。よほどのトラブルでもない限り間違いなく11人揃うはずだ。」
「よし、では12月24日間違いなく頼むぞ。」悪魔がそう言うと電話はすぐに切れた。
しかし、悪魔の奴、1週間前に連絡をして来るなんてよほどの計画があるんだろうな。しばらく忘れていた不安がまた頭をもたげてきた。
12月24日 とうとうその日が来た
夜の10時を過ぎるとお店にはぞろぞろと人が集まりだしてきた。
今日のゲストは辺手議員、矢後議員、羽田議員、安藤議員、堀江教授、松下教授、丸井准教授 前田社長、多田氏、戸増社長、四門氏の11名。お店側は ママ、美咲、梨花子、他の女の子たち、それにスタッフ数名と限られた人数だけだった。
30分もすると11人全員が集まった。いよいよパーティーの始まりだ。
テーブルには高級シャンパン、高級ワイン、豪華な食事、その他ありとあらゆるお酒が揃っている。そして今日は全てが無料だ。俺の口座には悪魔から送られたお金がまだまだたっぷりと余っていた。
パーティーは大いに盛り上がってくれた。国会議員の先生、大学教授、大会社の社長、皆それぞれ楽しそうだった。美咲も梨花子も楽しそうに見えた。いつも綺麗な2人だが、今日は一段と輝いて見えた。
パーティーが盛り上がっているその時、俺のスマホが鳴った。午後11時50分だった。
「?」(こんな時間に誰だ?)
「私だ。」悪魔の声だった。「外に出てみろ。」
私は店の外に出て路上で話し始めた。「どうしたんだ。まだパーティーは始まったばかりだぞ。それにいつもと時間が違うじゃないか?」
「まあ、話を聞け。今日までよくやってくれた。これで私とお前の契約は終了だ。」
「そうか、これで貸し借りは無くなったという事だな。では一つだけ教えてくれ。お前はこれから何をしようとしているんだ。」
「何だ。私のやる事がそんなに気になるのか?」
「当たり前だ。初めは正直少し面白い仕事だと思っていた。しかし、途中からは何が起こるのかその事ばかりが気になっていたんだ。頼む、教えてくれ。」
「ふん。ところで、今何時だ?」
「今11時57分だ。」
「よし、では午前0時になったら店に戻ってみろ。全てが分かるはずだ。」
「分かった。」俺がそう言うと電話は切れた。(なんだか俺は急にすごく不安になった。くそっ、早く0時になれ。)
よし、0時だ。俺は急いで店に戻った。お店の扉を開けると俺の目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
「なんだ?これは?」
つづく