第7話
その後も「総務大臣 辺手四郎」「日本IT社 戸増秀夫社長」「三星大学 堀江一歩教授」と3日連続で店に誘い込み、話を聞くことに成功した。
しかし、彼らから特に新しい情報を得る事は出来なかった。
総務大臣は案の定、AIについての知識はゼロだった。
戸増社長は日本コンピューター社の前田社長と同様にAI脅威論については何も気にしていない様子だった。
堀江教授は丸井准教授と同様にAIの進化にかなりの危機感を抱いているようだった。
新しい情報は得られなかったものの、これで6人のターゲットと接触に成功した。
翌日 第一探偵社から連絡があった。電話の内容は「ホストクラブ業界は、現在景気が良いらしく売りものは出そうもない。さらに、カジノの件は、日本でカジノを営業するとなると闇カジノしかないという事で紹介は出来ない。」というものだった。作戦は変更せざるを得なくなった。
しかし、悪い知らせの後には良い事があるものだ。その夜、日本コンピューター社の前田社長が生成AI開発責任者の多田一郎をお店に連れて来てくれたのだ。これで7人目だ。
しばらくのおもてなしが続いた後、俺は前田社長に聞こえないように、多田氏にこっそりAI脅威論について聞いてみた。
多田氏の見解は丸井准教授と同じようなものだった。それは、技術的にはAIが自我を持つ事は可能な所にまで来ている、というものだった。
やはり答えは「AIの脅威」であるのは間違いなさそうだった。
次のターゲットは五稜大学 松下愛教授だ。
彼女の趣味のひとつにヨガがある。俺は店の女の子を使って仲良くなってもらう事にした。幸いにも店の女の子の中にヨガが趣味の子がいたからだ。
その子の源氏名は梨花子。
俺は梨花子に松下教授の通っているヨガ教室に入ってもらい、仲良くなってもらう事にした。もちろん月謝は俺が出すし、ボーナスも出すと言ってある。こうなると、店の女の子はとても心強い。こういう事にかけてはおそらく俺など足元にも及ばないだろう。
その日の午前0時 俺のスマホが鳴った。今日はもう7日目だった。この1週間はかなり忙しくて俺は悪魔からの連絡をあまり意識していなかったのだ。
「もしもし」
「どうだ、仕事は進んでいるか?」もう悪魔の恐ろしい声には何も感じなくなっていた。
「ああ、既に7人と接触済みだ。あとの4人とも1~2週間で接触できると思う。」俺は既に得意気でも何でもなかった。
「そうか。かなり順調だな。資金の方は大丈夫か?」
「ああ、予定変更があって、ホストクラブとカジノの買収は無くなった。だから、当座はまだ大丈夫だ。」
「そうか。しかし、念の為、1億円を明日お前の口座に入れておこう。ではまた7日後に連絡する。」そして電話は切れた。
悪魔との連絡の後であっても、もはや俺の気持ちに恐れや焦りはなかった。俺の興味はもはや仕事の後の悪魔の行動に移っていたからだ。
「早く仕事を終えなければ。」今の俺の頭の中にはそれしかなかった。
翌日 梨花子から連絡が入った。
「オーナー、松下教授と接触することが出来ました。ヨガ教室の後、食事をしてお茶をすることが出来ました。今、別れたところです。この後はどうしましょうか?」
すごい。仕事が早すぎる。この子たちの能力は何なのだろう。俺は美咲と梨花子の能力にすっかり感服してしまった。
「ありがとう。特にこれという事はないのだが、なるべく仲良くなっておいてくれ。お金はいくらでも出す。ホストクラブに通ってもいいし、ディズニーランドで遊んでもいい。とにかく、仲良くなって関係を続けておいてくれ。」
「そんな事なら簡単ですよ。一緒に遊んでればいいだけですからね。分かりました。」
「うん、それじゃあ、よろしく頼むよ。」(何て心強いんだ。)
よし、これで8人目だ。あと3人だ。
翌日、俺は店に出て、女の子たちにターゲットへの連絡を欠かさないようにお願いした。それから2日間は特に動きはなかったが、その翌日、日本IT社の戸増社長が開発総責任者の四門正広を連れて来てくれた。これで9人目だ。
やはり、いつも通り2人には女の子たちとお酒を楽しんでもらった。しばらくの間をおいて俺は四門氏にAIの脅威について尋ねてみた。四門氏は日本コンピューター社の多田氏よりももう少し突っ込んだ話をしてくれた。
「もはや、AIに自我を持たせ自立させる事はいつでも可能です。ただし、社長のOKが出ればですが。それにAIに自我を持たせることに何の意味があるのかまだ何とも言えない状態ですからね。その事については日本コンピューター社の多田氏や七倉大学の丸井准教授ともよく話し合っていますよ。」
「えっ、お2人とお知り合いなんですか?」俺は意外だった。多田氏はまだしも丸井准教授とは反対の立場だと思っていたからだ。
「ええ、今言った通りよく意見交換をしています。それよりもオーナーもお知り合いなんですか?」四門氏も驚いているようだった。
「はい、私は最近知り合いになったばかりですが・・・。うちのお店にも来ていただいたことがあるんですよ。」
「そうですか?奇遇ですね。」
「本当ですね。宜しかったら、今度皆さんご一緒に来てくださいよ。ああ、すみません。お楽しみのところに仕事の質問なんかをしてしまいまして。この後も楽しんでいってくださいね。」そう言って俺は席を離れた。
(これは俺の想像と違うぞ。どういう事だ?)
それから2時間後、2人は満足そうに帰って行った。俺は2人をお見送りして、すぐに部屋に帰った。
どうやら俺の考えは間違っていたようだ。俺は「何もわかっていない国会議員が4人」「AI推進派の4人 VS AIの進化に警鐘を鳴らす3人」という構図を描いていた。
しかし、実際にはほとんどの人間がAIの進化に危惧を抱いていたのだ。何もわかっていないのは国会議員の2人、日本コンピューター社の前田社長それに日本IT社の戸増社長の4人くらいだ。他の者はAIに何かしらの脅威を感じている。
しかし、それでもやはり俺に謎は解けなかった。一体、悪魔は何を考えているのだ。
翌日 俺は美咲と梨花子を店の外に呼び出して相談をした。この2人はとても頼りになる。
俺は2人に切り出した。「実は2人に相談があるんだ。今までもかなり協力してもらっているが、もう1つだけお願いしたいことがあるんだ。」。
「はい。」二人の返事はとてもかわいらしく、それと同時に俺にはとても心強く聞こえた。
「実は、俺の次へのステップの為に、今までお店に来てもらった人たちと親密な関係になっておく必要があったんだ。そして、いよいよ残り2人となった。一人目の男性はどうにかなると思うのだが、どうしても最後の一人の女性との接点が見つからないんだ。そこで2人に知恵を貸してもらおうと来てもらったんだ。それは、この2人なんだが。」そう言って俺は国会議員の羽田小夜と安藤流の資料を2人に見せた。
安藤 流 あんどうながれ 46歳 男性
国会議員 当選1回
配偶者あり 小学生の子供一人
趣味 ゴルフ キャンプ
羽田小夜 はねださよ 50歳 女性
国会議員 当選2回
配偶者あり 中学生の子供一人
趣味 読者 音楽鑑賞
「あれ?」梨花子が何かに気づいたようだ。
「この安藤議員て銀座じゃ有名人ですよ。ねえ、美咲さん。」
「ええ、かなりの女好きで私も何度かお見かけした事があります。」美咲もそう言って頷いた。
「えっ、そうなの?」(本当にこの2人は頼もしい。)
「そのうちお店に連れてきますよ。」梨花子が言った。
「そんなに簡単にできるの?」(俺は2人のすごさに唖然としてしまった。)
「ええ、今度、銀座で見かけたら店まで引っ張って来ますよ。」梨花子は自信満々だった。
「じゃあ、頼むよ。」(梨花子さん頼もしーい。俺が惚れちゃいそうだ。)
「では、後はこの羽田議員だけですね。頭に入れておきます。」美咲と梨花子はそう言うとメモを取ってくれた。
「2人ともよろしくお願いします。」俺は深々と頭を下げてお願いした。
翌日 午前0時 悪魔からの連絡が来た。
「どうだ、仕事の方は?」俺はもはや悪魔の声に何も感じなくなっていた。ただ仕事をしているだけの感覚だった。
「ああ、9人と接触してある。残りは2人だ。その2人もすぐに接触できると思う。」
「そうか?いよいよやったな。よし、では今からお前へ最後の仕事を依頼する。」
「何だ?」(来たっ。)
「12月24日、つまりクリスマスイブの日に銀座のお店でクリスマスパーティーを開いてくれ。そのパーティーにその11人を招待してほしい。そして条件が2つある。1つ目は必ず11人が揃う事。2つ目はパーティーを夜通し開催するという事だ。どうだ?出来るか?」
「ああ、まだクリスマスまでには1か月以上あるし、なんとかなるだろう。」
「よし、では今後の資金とお前へのボーナスとしてまた口座に1億円入れておこう。」そして電話は切れた。
ふー。いよいよ大詰めだな。謎はクリスマスイブに解けるわけか。それまでに段取りだけはしっかりつけておかないとな。
つづく