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クロスロード(悪魔との契約)  作者: ピーターフレミング
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第5話

午前0時 プププッ、プププッ、プププッ、俺のスマホが鳴った。


「もしもし。」


「どうだ、仕事は進んでいるか?」この恐ろしい声を聞くと、いつでも緊張する。


「ああ、この7日間でかなり進展した。話がトントン拍子に進んで、既に銀座に会員制の高級クラブをオープンした。これで俺にも「銀座の高級クラブのオーナー」という肩書が出来たわけだ。」俺は誇らしげに言った。


「ほう、すごいじゃないか。で、次はどうする?」


やはり相手が悪魔でも褒められるのは気分が良いもんだ。「次はターゲット達をこのクラブに誘い込むつもりだ。そして、ホストクラブとカジノの件も同時に進めていく。」


「なるほど、順調に進みそうだな。よし、その調子で頼むぞ。ところでどうだ、資金の方は?」


「今回のクラブの買収でほとんど使ってしまった。出来れば、また1億円入れておいて欲しい。」


「分かった。明日中にお前の口座に入れておこう。では7日後に」


「ちょっと待ってくれ。」俺は話を(さえぎ)り、思い切って俺の抱いている疑問について聞いてみる事にした。


「なんだ?」気のせいだろうか、悪魔の声が怒っているように聞こえる。しかし俺はどうしても聞いておきたかった。


「ターゲットはコンピューター関係の人間ばかりなんだが、何か意味があるのか。」


「前にも言ったがお前には関係のない事だ。お前は自分の仕事だけに集中しろ。では7日後に連絡する。」悪魔がそう言うと電話は切れてしまった。



やはり教えてくれるわけはなかった。しかし、絶対に何かあるはずだ。何でもいいから何か手掛かりが欲しい。


手掛かりになるかどうか分からないが、俺は大学教授3人の書いた本を買い込んでみた。どちらにしても、誘い込むときの話題の為に彼らの著書を読んでおく必要はあるわけだし、一石二鳥という訳だ。


「IT社会への警鐘」 堀江一歩 著

「生成AIとの付き合い方」 松下愛 著

「AIの驚異」 丸井春人 著


あまり本を読まない俺にとってはかなり苦痛な作業だったが、何とか3冊を読み通すことが出来た。そして、3冊を読むことで3冊の共通点が見えた。


この3冊に共通しているテーマは「AIは人類の驚異になり得る」というものだ。しかし、そこまでだった。それ以上の事はやはり分からない。これだけでは悪魔と何の関係があるのかは分からない。


悪魔はAIを恐れているのか?それとも悪魔はAIから人類を救おうとしているのか?


しかし、俺もこの謎解きだけに時間を掛けてはいられない。次の連絡までには、何らかの成果を上げておきたい。その為には、ターゲットに接触しなんとか店に誘い込まなければ。




翌日 午後7時 俺はお店の女の子一人を連れて老舗(しにせ)蕎麦屋(そばや)にいた。この店は堀江教授の行きつけの店なのだ。


俺はこの日の為に、高級スーツと高級時計、そして一番大事な名刺を用意しておいた。やはり見た目は大切だ。高級クラブのオーナーらしい高級スーツ、高級時計、高級な靴、その他の小物に至るまで隙を作ってはならない。俺はもともとこういうものに興味はなかったが、いざ高級なものを身につけてみるとやはり悪くない気分だ。不思議と俺はその気になっていた。


そして、今日はママにお願いしてお店で一番の美人を借りてきた。源氏名(げんじな)美咲(みさき)。当然、美咲にもターゲットを上手く店まで誘い出したいという事は教えておいた。


しかし、今日は空振りだった。9時まで粘ったが教授が現れる気配はなかった。



次の日も張り込みを続けた。今日は丸井准教授の行きつけの中華料理店だ。今日も美咲には一緒に来てもらっている。


しかし、さすがはお店のナンバーワンだ。町の中華屋では少し浮いている。美人過ぎるのだ。客のほとんどがチラチラ見ている。


美人てすごいんだな。今までこんな世界に縁のなかった俺はすっかり感心してしまった。


その時、丸井准教授が店に入ってきた。(来た!丸井准教授だ。)しかし焦っては駄目だ。少し待ってから話しかけてみよう。



丸井准教授が料理の注文を済ませた瞬間を見計らって、俺は話しかけた。


「突然失礼いたします。七倉大学の丸井准教授ですよね。」俺はかなり緊張していた。


「はい、そうですが。」丸井准教授はさほど驚いた様子はなかった。


「実は私、先生の「AIの驚異」という本を読みまして、大変興味を持っているんですよ。できれば、今後のAIの発展についてお話をお聞かせ願えたらと思っているのですが。」そう言うと俺は「AIの驚異」の本を鞄から取り出して見せた。


「そうですか、それはありがとうございます。」


「申し遅れましたが、私はこういう者です。」俺は名刺を差し出した。


「ほう、銀座のクラブのオーナーさんですか。そんな方が私の本を?珍しいですね。」


「ええ、コンピューターに興味がありまして。そうだ、美咲さん、こっちに来て先生に挨拶してくれる?」


「はじめまして、美咲と申します。」さすがナンバーワン、美咲は堂々とした態度で挨拶をした。


「へー、すごい美人ですね。」さすがの大学教授もこれだけの美人はなかなか見たことがないだろう。やはり美人というのはすごい生き物だな。男なんか、いっぺんで参っちまう。


「先生、どうでしょう。もしよろしければ食事の後、うちのお店にいらっしゃいませんか?是非、AIの未来についてご教授下さい。」


「うーん。お伺いしたいところですか、私のような安月給の人間には縁のない場所ですから。」


「いえいえ、私からお誘いしているのですから、お支払いの事など気になさらないでください。美咲さんからもお願いして。」


「先生、是非いらっしゃってください。私も先生のお話を聞きたいです。」さすがにナンバーワンの貫禄だ。


「そうですか?そこまで仰られるなら行ってみようかな?」


「ありがとうございます。では先生のお食事が終わるまで待っておりますので一緒にタクシーで向かいましょう。」


「ありがとうございます。では少しお待ちください。」


(やったー。第一関門突破だ。)




俺たちは丸井准教授の食事が終わるのを待って、タクシーで銀座のお店に向かった。俺は助手席に乗り、後部座席は丸井准教授と美咲の2人だけにした。




店に着くと俺はママに耳打ちをした。「こちら大学教授の方です。VIPですのでよろしくお願いします。」


「いらっしゃいませ。」ママは愛想良く挨拶をし、俺たちを一番奥の特等席に案内した。ママは女の子をさらに2人付けて高級なお酒を出した。


流石の大学教授も嬉しそうだ。そりゃ、とびきりの美人3人と高級なお酒があれば誰でもご機嫌になるか。しかし普通だったらこれでいくらするんだろうな。以前の俺なら考えられない世界だ。



1時間位経った頃、俺は先生に話しかけてみた。「先生、AIは本当に人類の驚異になり得るのでしょうか?」


先生は急に真面目な顔になって答えてくれた。「結城さんはターミネーターという映画をご存じですか?」


「はい、もちろんです。というよりも好きな映画に入りますかね。TVで再放送しているとつい見てしまうのでパート2とパート3はそれぞれ4~5回は見てるんじゃないですかね。」


「では、アイロボットは?」


「はい、ウィル・スミス主演の映画ですよね。あの映画も2回は見たと思います。」偶然にも2つとも好きな映画だった。


「では、2つの映画に共通する点とは何でしょうか?」


「うーん、AIが人間を滅ぼそうとするという点でしょうか?」


「その通りです。では結城さんは実際にあんな事が起き得るとお思いですか?」


「いやー、さすがにあれは映画の世界だけではないでしょうか?AIが自我を持つなんてことはあり得ないと思いますが。」


「うーん、私も10年前であればそう答えていたかもしれません。しかし、今やフィクションとは言い切れない段階まで技術は進歩してしまっているんですよ。」丸井准教授はかなり深刻そうな表情で話している。どうやら、冗談や脅かしではないようだ。


「でも、技術者たちが一定のところでAIの進化を止めれば済む話なのではないですか?」


「そこが問題なんです。いつの時代でも技術者というのは徹底的に追求しなければ済まない人種なんですよ。もしかしたら既に取り返しのつかないところまで来てしまっているかもしれません。」


まさか、こんな話を聞かされるとは思っていなかった。もっと聞いてみたいが、今日はこの辺にしておこう。


「なかなか怖い話ですね。すみません、場の雰囲気を壊しちゃいましたね。さあさあ、(みんな)、先生にお注ぎして。」


「いえ、今日はこの辺で帰る事にしましょう。今日は本当に楽しかったです。しかし、お支払いの方は本当によろしいのでしょうか?」先生は酔いが醒めてしまったのか立ち上がってそう言った。


「もちろんです。それどころか先生、これからはいつでもお越しください。お支払いの方は私に付けておいてくだされば結構ですから。また女の子たちに面白い話を聞かせてやってください。」


「そうですね。ありがとうございます。結城さんとはまたじっくりとAIの話もしたいですし。」


「ありがとうございます。楽しみにしております。じゃあ、(みんな)、先生をお送りして。」


先生の乗ったタクシーを見送った後、俺もそのまま部屋に帰った。




予想外だった、そんなにAIの技術が進んでいるとは、しかしだからと言って、AIの進歩と悪魔とがどう結び付くと言うのだ。全く分からない。しばらくは仕事と謎解きを並行して進めていくしかなさそうだ。


つづく

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