第3話
午前0時 プププッ、プププッ、プププッ、俺のスマホが鳴った。
「もしもし。」
「どうだ、仕事は進んでいるか?」悪魔の恐ろしい声が聞こえてきた。
「ああ、とりあえず11人全員の身元調査は完了した。」
「よし、それでどうやって彼らに近づくつもりだ。」
俺にはこの電話の直前に一つのアイデアが閃いていた。
「それについて、1つ大きな問題があるんだ。」
「問題?」
「俺と彼らとの釣り合いが取れていないという事だ。彼らは政治家や大学教授だ。俺とは立場が違いすぎる。」
「ではどうする。」
「彼らと釣り合いを取る為には、俺自身に肩書を作るしかないと思う。」
「ふん。例えばどんな肩書だ。」
「考えているのは、高級クラブのオーナー、ホストクラブのオーナー、カジノのオーナー、といったところだ。」
「それらにどんな意味があるというのだ。」
「うん、やはり男性に共通の弱点は女性だ。そこで美人ばかりを集めた会員制高級クラブを作り、そこでVIP扱いをして仲良くなるというのを考えているんだ。そして、俺がそこのオーナーなら肩書も出来るし一石二鳥という訳だ。」
「ふん。それから。」悪魔はこの計画が気に入らないとみえて次々と質問してくる。
「ホストクラブは女性二人の為に、カジノは女性で落ちない男の為に、使おうと思っているんだ。」
「それで、その計画はすぐにでも進められるのか?」
「なるべく早く取り掛かるが、最低でも準備に1か月はかかると思う。」
「よし、いいだろう。その線で進めてくれ。」
(えっ、これでいいのか?)「分かった、急いで取り掛かろう。ただ、その前にある程度まとまった資金が必要となるんだが。」
「いくら必要だ?」
「1億円位はかかると思うが、どうだろう?」
「よし、明日中にはお前の口座に入れておこう。それでいいか?」悪魔は驚きもせずに淡々と答えた。
(やはり悪魔にはお金などどうにでもなるようだな。)「ああ、大丈夫だ。それなら、なるべく急いでやるようにするよ。」
「分かった。では、また7日後に連絡をする。その時に進捗を教えてもらおう。」悪魔がそう言うと電話は切れた。
はー、切り抜けた。何を話したのかすら、よく覚えてない。本当に疲れた。魂が抜けたようだ。
でも良かった。俺もよくギリギリで思いついたもんだ。でもダメだ。とにかく今日もう寝よう。
翌朝 起きると時計は昼の12時を過ぎていた。
何時間眠ったのだろう。やはり悪魔との会話は精神が削り取られる。しかし、のんびりはしていられない。やることは山ほどあるんだ。7日後にはある程度の報告をしたいからな。
まずは高級クラブからだな。物件探し 内装工事 マネージャーの募集 女性スタッフの募集 そんなところか?でも、俺は素人だぞ。思いつきで言ってしまったが出来るのか?しかし悪魔との約束を破るわけにはいかないからな。やるしかないけど。
よし、まずは物件を探そう。いやその前に信頼できるマネージャーが必要だな。スカウトするか?募集するか?
大体、俺は高級クラブなんて行った事もないぞ。とりあえず調べてみるか。ネットで「銀座 クラブ」と検索してみると高級店からリーズナブルな店まで星の数ほどあった。へー、会員制ラウンジというのもあるのか、こんな店をそっくり買収できないかな?それが手っ取り早いんじゃないか。
そんな事できないのかな?うーん、誰に相談すれば分かるんだ?あっ、探偵社に頼んでみるか?
早速、第一探偵社に行ってみた。「いらっしゃいませ。」この前担当してくれた女性だ。
席に通されると俺はすぐに本題を切り出した。「今、銀座か六本木で潰れそうなクラブを探してるんですよ。そして、その店をスタッフをそのまま雇うという条件で買い取れないかと考えているんですよ。そこで、経営が不安定なクラブを探してもらうことは出来ないでしょうか?」
「はい、出来ますよ。特殊なケースなのでやはり料金は高くなってしまうかもしれませんが。」いつも通り女性の受け答えは非常に事務的だった。
「是非、お願いします。料金が高くなるのは覚悟しています。なるべくいい物件を見つけて下さい。」
「かしこまりました。」いつも通り女性は自信満々な態度だった。
俺は手付金の10万円を支払い、探偵社を後にした。
これが上手くいけば1か月も経たずに営業を始めることが出来そうだ。俺は何だかほっとした。この2週間、気が休まる暇がなかったからな。探偵社から連絡が入るまでは少しのんびりさせてもらおう。
俺は好物の焼肉をたっぷりと食べ、部屋に帰り、ゆっくりと風呂に入り、ベッドに入った。俺は久しぶりに熟睡できた。
つづく