第2話
次の日の朝、俺はいつもより早く目が覚めた。昨日、悪魔に言われた事が気になって早く目が覚めてしまったのだ。
まず、俺は昨日言われた人物をリストにしてみた。
1.辺手四郎 へてしろう 国会議員 72歳 男性 既婚
2.矢後昭信 やごあきのぶ 国会議員 56歳 男性 既婚
3.羽田小夜 はねださよ 国会議員 55歳 女性 既婚
4.安藤 流 あんどうながれ 国会議員 46歳 男性 未婚
5.堀江一歩 ほりえいっぽ 大学教授 54歳 男性 既婚
6.松下 愛 まつしたあい 大学教授 45歳 女性 未婚
7.丸井春人 まるいはると 大学教授 43歳 男性 未婚
8.前田太一 まえだたいち コンピューター会社社長 50歳 男性 既婚
9.戸増秀夫 とますひでお コンピューター会社社長 39歳 男性 未婚
10.多田一郎 ただいちろう コンピューター技師 35歳 男性 未婚
11.四門正広 しもんまさひろ コンピューター技師 29歳 男性 未婚
しかし、悪魔が政治家や大学教授に何の用があるんだろう。まあ、考えてもしょうがない。俺にやれるだけの事をやろう。まずは、11人の情報を出来る限り集めてみるしかないな。
しばらく考え込んでいると、時計は午前8時を示していた。そろそろ会社に行かなければならない時間だ。
俺は辞表を書いて会社に出かけた。俺は会社を辞めたのだ。資金は悪魔がいくらでも出してくれる。第一、こんな大変な仕事と会社勤めが両立できるはずもない。
会社から部屋に帰り、また悪魔に指示された事について考えた。素人の俺が11人もの調査をするのはまず不可能だ。
俺はプロに頼むことにした。ネットで検索してみると探偵社やら興信所やらがかなり多くヒットした。今どきは、浮気調査などで需要が多いらしい。
とりあえず、俺は第一探偵社という所に行ってみる事にした。
1時間後、第一探偵社に着いた。ドアを開けてその会社に入ると意外にも若い女性が対応してくれた。
「いらっしゃいませ。」
「あのー、こちらに来るのは初めてなんですが。」なんとなく、ばつが悪い。やはり後ろめたい事をしている気がする。
俺は席に案内された。「私、三上と申します。早速ですが依頼内容をお教えて頂けますか?」
「この人物についての調査をお願いしたいのですが。」そういって俺はメモを差し出した。一番ハードルの低そうな29歳のコンピューター技師からお願いしてみる事にした。
「どうでしょうか?引き受けていただけるのでしょうか?」俺はおそるおそる尋ねてみた。やはり初めての事は何事も緊張するものだ。
「はい。すぐに調査に取り掛かれます。具体的にはどのような事をお調べになれば良いでしょうか?」女性の受け答えは非常に事務的だった。
「なるべく詳しく調べて下さい。家族構成、人柄、趣味、会社での仕事ぶり、会社での評判、その他分かる事は全て調べて下さい。」
「そこまで調べるとなると、かなり費用が嵩みますが。」
「構いません。出来るだけ詳しく正確に調べて下さい。」
「分かりました。お任せください。」
「それと、私の素性は絶対にばれないようにお願いします。」俺は調査の後にそいつらと実際に会って親しくならなければならないのだ。事前に調べていたなんて事が分かったら全てがパーだ。
「クライアントの情報が外部に漏れるような事は絶対にありません。信用第一の仕事ですのでその辺はご安心ください。」女性は自信満々に答えた。
「よろしくお願いします。」
「では手付金として10万円。総額は調査に掛かった日数によって変わってきます。実費は別途請求させていただきます。よろしいでしょうか?」
「結構です。それでお願いします。」俺は現金で10万円を渡し、その会社を後にした。
「ふー。意外と簡単だったな。」30分も掛からない仕事だった。しかし、慣れない事は疲れるものだ。残りの10人もこの調子で全て手配してしまおう。
俺は念の為、11人を別々の興信所に頼むことにした。11人も調べている奴なんて怪しすぎるからな。逆に調べられてしまうかもしれないし、変に勘繰られたくないからな。
しかし、今日はもう帰って寝る事にした。なぜだか体も神経も相当に疲れている。
当たり前か、今日は会社を辞めて、探偵事務所に行ったんだからな。
しかし、不思議な感じだ。今の俺は会社での仕事よりも充実感を覚えている。
次の日、そしてまた次の日、2日間掛けて俺は残りの10人の全ての調査依頼を終えた。さすがに10人全てを別々の事務所に依頼して回るのは大変だった。
部屋に戻った俺は、さすがに疲れたいたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
プププッ、プププッ、プププッ、俺のスマホが鳴った。午前0時だった。
「もしもし。」俺は慌てて電話に出た。
「眠っていたのか?」悪魔からの電話だった。
「ああ、疲れて眠ってしまっていたようだ。」
「どうだ?その後の進展は?」
「ああ、進んでいる。全員の調査を開始した。数日中に全員の調査結果が分かるだろう。」
俺は誇らしげな気分だった。しかし、変だ。俺は悪魔に褒めてもらいたいのか?
「よし、何日くらいかかりそうだ?」
「7日はかかると思う。どうだ?それでは遅いか?」
「いや、それで構わない。では次の連絡の時にはもっと詳しい話を聞かせてくれ。では7日後だ。」悪魔がそう言うとすぐに電話は切れた。
ふー。しかし、悪魔とのやり取りはいつになっても慣れないものだな。俺のシャツは汗でびっしょりになっていた。食事をせずに眠ってしまったことを思い出し、俺はシャワーを浴びて食事に出かけた。
5日後、第一探偵社から連絡があった。「調査が終了しました。事務所までお越しいただけますか?」
俺は第一探偵社へ急いだ。第一探偵社に着くと先日の担当の女性が待っていた。
「こちらが調査内容になります。」担当の女性はそう言って調査報告書を俺に手渡した。
その調査報告書には29歳のコンピューター技師の男のありとあらゆることが書かれていた。そしてその男の何枚もの写真が同封されていた。そう、俺は今初めて29歳のコンピューター技師の顔を見たのだ。
「いかがでしょうか?」担当の女性は自信満々に聞いてきた。
「はい充分です。ありがとうございました。」
「ではお支払いをお願いします。1日20万円の調査費用になります。調査に5日間掛かりましたので100万円。さらに実費として20万円掛かりましたので合計で120万円になります。手付金10万円をお預かりしておりますので、差し引き110万円のお支払いになります。よろしいでしょうか?」
「はい結構です。」(意外と高いものなんだな。まあ、金はいくら掛かってもいいと言われているしな。自分でこんな調査はとても無理だし構わないだろう。)
俺は110万円を現金で払い、調査報告書を受け取り、第一探偵社を後にした。
俺はすぐに部屋に帰り、調査報告書を読み込んだ。
しかし、探偵社というのもすごいもんだな。こんなに詳しく調べられるものなのか。俺はすっかり感心してしまった。
へー、こいつすごい奴なんだな。29歳で日本IT社の開発責任者なのか?日本IT社って今話題の生成AIの会社だろ?すごいなー。
四門正広 29歳 男性
日本IT社 開発部部長 兼 開発総責任者 年収2000万円
未婚 一人暮らし 彼女有り 両親は健在
趣味 ゴルフ キャンプ
性格 神経質 天才肌
仕事の成果 生成AIの開発
うーん。29歳で年収は2000万円か。すごいなー。
こんな奴と友達になれるのかな?神経質ね。こんな奴と何で接近すればいいんだ。
普通は 女 趣味 ギャンブル と言ったところなんだろうけど。
やっぱり綺麗な女性で落とすのが一番かな。
眠る寸前まで考えてみたがこの日は特に良いアイデアは浮かばなかった。
6日後、依頼した探偵事務所から次から次へと連絡が来た。あっという間に11人の調査報告書が集まった。
料金はどこも似たっり寄ったりだった。しかし、これで口座の残金はすっかり寂しくなってしまった。
この日は部屋に籠って調査報告書を読み込んだ。しかし、俺の頭の中には作戦はまだ浮かんでいなかった。
しかし、午前0時になったら悪魔から連絡が来る。こうなったら何とか時間ギリギリまで考えるしかない。
とうとう7日目の午前0時になった。プププッ、プププッ、プププッ、俺のスマホが鳴った。
つづく