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恐竜の召喚師  作者: 南雲一途
第一章 兎角亀毛
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第5話 求めたもの

 造作もなく人を踏み潰せるであろう足。

 そこら辺の大木のように大きい尻尾。

 先程出したライオンを丸呑みできるでそうなくらい大きな頭。

 そしてそれを支える見事な巨体。


 ティラノサウルスだ。


 リスキーは開いた口が塞がらず、呆然と立ち尽くしている。

 自分の口角が自然と上がってきているのが分かる。

 どこか誇らしい気分だ。


 ティラノサウルスは空に向かって大きな口を開け、森に、いや世界に向かって咆哮する。


 大成功だ。

 大成功だが、なんか大きすぎる気がする。

 確かに俺の想像では家の屋根を一噛みで噛み砕きそうなサイズだったが、実際に召喚したティラノサウルスを肉眼で見てみるとその大きさは常識離れしているように思える。


 俺はもう一度怪物クマバチの方を見た。

 いや、あれこそ常識離れ。

 この程度可愛いもんだ。

 大きいに越したことはないんだから。

 それはあの怪物クマバチがもう証明してる。

 これなら負ける気がしない。

 そんなことを考えていたのも束の間、ティラノサウルスは周りの木々を薙ぎ倒し地面を揺らしなが歩き、怪物クマバチを睨みつけた。

 次の瞬間、ティラノサウルスの大きな口がは怪物クマバチの胴体を捕らえ噛み砕く。

 クマバチは蜃気楼のように消えていった。


 あまりの圧倒的な強さに召喚した自分は恐怖していた。

 自分の想像を超える力は怖い。

 鳥肌が立っている。

 そして少し違和感がする。

 嫌な予感。

 それは小さな疑問だった。

 俺はまだティラノサウルスを動かそうとしてなくはないか?

 ティラノサウルスは勝手に動いてないか?


 その時、目の前は真っ暗になっていた。


「おい、トーチ!!!!!」


 ん?


 体が宙に浮いているような気がする。

 空中で仰向けになっているようなそんな感覚。

 視界もぼやけている。


 ゴホッ


 喉の調子が悪いのか、咳き込んでしまう。


 オエッ


 目の前に赤い雫が浮いている。

 血だ。

 宙に浮いている血の後ろは青かった。

 綺麗に澄んだ青。


 段々強烈な痛みが腹と背中を襲ってくる。

 自然と眉間に皺が寄る。

 自分の呼吸がよく聞こえる。

 呼吸をするのが苦しい。細かく、意識的に息を吐き、意識的に吐く。

 心臓の音がやけにゆっくりと聞こえる。


 体は宙に浮いていた。

 自分の体重を全く感じない。

 そして、頭からゆっくりと引っ張られるように落ちていくのを感じる。

 頭が下になり、首が自然と曲がって自分の体が見える。

 真っ赤だった。


「手で召喚獣に触れろ!!そしたら消える!!」


 トーチの声だ。


 俺は地面を見るため、見上げるように顔を上げた。

 まず、見えたのは口を大きく開いたティラノサウルス。


 トーチ小さ...


 ここで状況が理解できた。

 ティラノサウルスに噛みつかれ、空に放り投げられたと。


 段々と近づく口。

 ティラノサウルスの鋭い牙が並んでいる。

 デカいな。

 本当に。

 このままだと食べられてしまう。

 困った。

 それなのになぜか笑ってしまう。


 リスキーの言葉を思い出す。

「手で召喚獣に触れろ!!そしたら消える!!」

 俺は真っ逆さまに落ちながら、右手を上に伸ばす。

 そのまま真っ暗な口の中へと入り、何かに触れた。

 その瞬間に暗闇は消え、周りが明るくなった。


「トーチ!!」


 リスキーの声だ。


「大丈夫ですか!!」


 知らない男の人の声もする。


 ティラノサウルスは消えた。

 しかし、俺の体は落下を続けている。

 俺の目には、こっちを見ながら必死に走ふヤブラが見えた。

 特に変わった様子はないな...。




 ーーー




 突然目が覚める。

 でもまだ真っ暗だった。

 よく眠れた時にたまにある、眠気が全くない目覚め。

 今まで本当に寝てたとは思えないほど眠たさがない。

 そういえば前の世界ではいつも寝不足気味だった気がする。

 こんな目の覚め方はかなり久しぶりだ。

 ティラノサウルスに噛まれた。

 そして地面に...。


 地面に落ちた記憶がない。

 落ちる前に気を失ったのか。

 多分ヤブラが助けてくれたのだろう。

 あんなに必死な表情、もう見れないだろうな。


 それにしてもよく生きてるな俺。

 ティラノサウルスに食べられず、地面にも叩きつけられなかった。

 本当に運が良い。


 ここには怪我を治療する技術がどこまであるのだろう?

 即死するような事態は運良く免れたが、ティラノサウルスに噛まれたのだ。

 失血死してもおかしくないだろうし、傷の位置によっては死んでいたに違いない。

 薬草?回復魔法?

 なんのおかげで無事なのかは分からない。

 後で誰か来たら感謝の言葉を伝えてから聞いてみよう。


 今、自分が冷静なのが分かる。

 理由は分からない。

 でも体が全然動きそうにない。

 指がかろうじて動く程度だ。

 怪我をしたのはお腹と背中なのに。

 薬か回復魔法の影響だろうか。

 それとも血が足りないのだろうか。


 深呼吸は痛くてできないため、少し浅めに息を吸っては息を吐く。

 目が暗闇に慣れて、周りの様子が見え始めた。

 淡くて黄色っぽい光が吹きガラスの窓から部屋の中をぼんやりと照らす。

 月明かり、かな?

 まぁ言葉が頭に浮かぶということは月もある。

 透き通っているとはお世辞にも言えない窓から夜空が見える。

 月の明かりに違いない。

 自然の光がこんなにも優しく美しいことを今になって初めて知った。


 異世界に転生でもしなければ気付けなかったかもしれない。

 良いことを知れた。

 母さんと父さんは知ってるだろうか。

 月明かりを綺麗だと感じるだろうか。

 2人とも忙しそうだった。いきなり何言ってんの?って言われるのが最優力。

 いや、話すタイミングによるな。

 旅行先とかならそれっぽい流れになりそうだ。

 日帰りで出かけたりはたまにしてたけど、家族旅行なんて10年近く行ってないな。

 今になって思う。

 将来の話とか勉強の話とかそういうのじゃなくて、どうでもいい話をもっとしたかったのかもしれない。

 いや、しておきたかった。

 会いたいな。

 死ぬ時はいつ来るか分からないのだから、感謝の言葉は言える時に言っておけとか、悔いのないように生きろとか、勝手に分かっているつもりになっていた。

 まさか自分が先立つ方だとは思わなかったけど。

 親不幸だな、俺は。

 親にもう一度会って感謝の言葉を伝えたい。

 伝えたいけど、戻りなくはない。

 なんでだろう。

 複雑だ。

 恵まれた国に生まれて、恵まれた平凡な家庭に生まれ、友人にも、周りの大人にも恵まれていたことは分かっている。

 それでも、またあの世界に戻ろうとは思えない。

 きっと恵まれてたことも分かったつもりになっているだけなのだろう。

 まだこの世界のことをほとんど知らないはずなのに、前の世界に戻りたいとはどうしても思えない。

 早計なのは自分でも分かってる。

 死にかけたばかりだというのにおかしな話だ。

 それに幸せだったはずなのに。

 いや、幸せではなかったのかもしれないな。

 娯楽に溢れ、平和だったとは思うが幸せではなかった気がする。惰性で生きてたという言葉がしっくりくる。

 必死に頑張ってた思い出もあるんだけどな。

 幸せじゃなかったなんて親には死んでも言えないな。

 そもそも2人のせいとかそういう話ではない。俺が思えなかっただけなんだ。

 ただ、それでもこの世界でなら幸せが見つかる気がする。

 なぜかは分からないけどそんな気がする。

 圧倒的に前の世界より不自由な世界だけど、幸せはここにある。

 そんな気がしてならないのだ。

 この世界のことなんて全く知らないのに、分からないのにそう思えてしまう。


 不自由なのだ、この世界は。

 だから胸が高鳴ってどうしようもない。

 気になることを調べて簡単に答えをくれるものがない。

 それがこんなにワクワクするなんて。

 まるで小さい子供だ。


 考えてみれば前の世界では、こんな時間無かった。いっつも光る板と睨めっこ。

 勿体なかったかもな、あの時間。

 まぁそんなことは分かってたけど。


 首が少し動くようになってきた。

 部屋を見渡しても剥製は無かった。初めて起きた時の部屋とは別の部屋のようだ。

 そして寝ているのはまたしてもベット。

 前より布団が柔らかく、布の触り心地も良い。

 左側にある窓とは反対側、部屋の隅の方に椅子に座りながら壁にもたれ掛かっている人影がある。

 髪型からして多分ヤブラだ。

 俯いて寝ているのが分かる。

 熊を倒した時は本当にすごかったな。

 まさか熊に襲われるなんて思いもしなかった。

 いや、大体襲われるのは思いもしない時か。

 それにしても熊に襲われた後に大きいクマバチと出くわすなんて。どんな偶然なんだ?奇跡としか言いようがない。


「起きやしたかい?」


 突然、左上から低い男の声がした。

 不思議と驚かなかった。

 男は静かに歩いて俺の真横まで来ると、月明かりが入る窓の横に寄りかかった。

 暗くて顔はよく見えないが、月明かりで髪が白いのが分かる。老人だろう。


「あなたが怪我の治療を?」


「それは違う」


「じゃあこの家の方ですか?」


「それも違う」


「じゃあ貴方は誰なんです?」


「わっしの名前は重要じゃあねぇ。重要なのはお前さんだ。全部偶然、本当にそうかい?」


「あの、なんの話をしてるんです?」


「お前さんの話さ。この世界に転生したお前さんの」


「...なぜそれを?」


「聞くところはそこじゃあない」


「...僕はやっぱり前の世界で死んだんですね」


「あぁ。お前さんの想像通り即死だよ」


 想像通り?

 なんで俺の想像をあの男が分かるんだ?


「分かるさ」


「...貴方は何者なんです?」


「それはお前さんが決めればいいこと」


 転生のことを知っていた。

 それに頭の中で考えていることも分かる。


「そのまま口に出せばいいだろう?どうせ筒抜けなんだ。隠す必要はない」


 最悪だ。

 頭の中を読まれるというのは。


「それも分かる。もう思ったことをそのまま話しちまえばいい。わっしはお前さんの味方なんだ」


「味方?」


「もちろん」


 神か?それとも悪魔?あの男は一体なんなんだ?


「そんなに気になるかい?なんなんだろうなぁ。まぁ神なんてそんな大仰なモンじゃぁねぇのは確かだな」


「なら悪魔か」


「そう思うんならそれでいい」


「俺に何の用なんです?」


「用はない。お前さんが呼んだんだ。だからここにいる」


「俺が呼んだ?」

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