第4話 チュートリアル 召喚魔法
「あのトラムシの主である召喚師がここに辿り着くまでにトラムシを倒す。いいか、こっからはおふざけ無しだ。ふざけたくなっても我慢しろ」
勝手にふざけてたのはアンタだろ。
そんな俺を余所にリスキーは手をかざし、地面に手のひらくらいの大きさの魔法陣を出した。
円の中で色々な幾何学模様や文字のようなものが綺麗に並び、それは薄い紫色で淡く光っていた。
「これが召喚獣を出す魔法陣。この模様を見て覚えてくれ。この模様を頭の中でいつでも描き出せるようにするんだ。実際に召喚魔法を使う時は魔法陣は白く光る。この模様を白い光で思い浮かべるんだ。今、薄紫色なのは召喚獣を作らないようにただ魔力を光らせてるだけだから。薄紫が好きとかじゃないから」
「了解です」
今ちょっとふざけようとしただろ絶対。
言葉のスピードと口調から緊迫感は伝わるんだけど...。
「覚えたか?」
「いや、難しいです」
「だよな。まぁでも今は覚える時間はない。俺のを見ながら魔法陣を作り出すんだ」
おい!
最初からそうすればいいだろ!
「よし、まずは召喚魔法の出し方を説明する」
「は、はい」
それ最初にやるべきだろ。
順番が滅茶苦茶だ。
「まず大切なのはその実物の動物を見たことがあるかどうか。これは実際にその動物が動く姿を想像できるかが大切なんだ。魔法は想像だから」
「大丈夫です。動物は色々見てます」
「よし。そしたら腕を前に出して手を地面に向けて。俺が出してる魔法陣とそっくり魔法陣を頭に想像し手から地面に映し出す。白い光で想像してね紫は違うからね」
「はい」
しかし、魔法陣が映し出されない。
「魔力の流れを感じて。それで腕から何か力が出るような想像をして」
微かに自分の右手から何かを感じる...気がする。
すると、地面に白い魔法陣が浮かび上がった。
「そこの魔法陣から動物が出てくるのを想像して、力を込める。お!来るぞ」
白い魔法陣が放つ光が強くなり、そこから一体のスズメバチが現れた。
「虫じゃん」
「相手が虫だったので」
「どう勝つのこれ?小さいし」
「いや、この蜂は蜂の中でも最強なので」
「あれトラムシだよ?」
「いやでもトラムシには針ないんで。でもスズメバチにはあるんですよ。強力な毒針が」
「召喚獣だからなぁ。毒は魔法で作れるなんて聞いたことないよ?本当に大丈夫?」
リスキーは放っておき、俺はスズメバチをクマバチもといトラムシの所へ送った。
召喚獣であるスズメバチは自分の思うように動いた。
命令しなくても召喚獣は想像すれば動くようだ。
これは召喚魔法で召喚獣を出すよりも遥かに簡単だった。
いけ、スズメバチ。俺の召喚獣!
俺とリスキーは木に隠れながらスズメバチを見届ける。
スズメバチがトラムシの方へ行き、やがて見えなくなった。
「無理だったみたいだな」
「え?」
「まだあの小さい蜂を感じるか?」
「いや、なにも」
たしかにさっきまで感じていたスズメバチの存在感が無い。
「じゃあ無理だったんだ。あのトラムシの毛にでも刺さったんだろ」
「毛に刺さる?」
「多分アレ尖ってるだろ。ほら」
そんなわけあるか。
クマバチだぞ。
いやそもそもなんであんな大きいんだ?
そこからおかしい。
スズメバチはあんなに小さかったのに。
クマバチとは似てるだけで、本当にトラムシ...なのか?
「もう一回魔法陣を見せてください。今度は大きいのを想像します」
「無理だよ。召喚獣を大きさを変えるなんてのはできない。自分の頭の中にあるその生き物本来の大きさを想像してこそ召喚魔法で作り出せるんだから」
「じゃああの虫は?あんなのいるんですか?」
「いや、いないんじゃないか?」
なんでだよ。
それならなんでトラムシって呼んでんだよ。
「多分あれは召喚師からしたらあのくらいの大きさだったってことだろうね。結局想像なんてそんなもんよ。本当にいるのかもしれないけど」
ふざけてる。
なんだよ想像って。
それより問題なのは俺が出すのは全て常識的な大きさってことだ。
俺の前世の色々な技術が発達しすぎて、全てがほぼ原寸大。
「ありえないと思ってしまうその些細な心、それが想像力を邪魔するんだよ。思わないように努力してもね」
なんで良い事言ったみたいな雰囲気出してんだ?
いや、待てよライオンがいる。
あの虫の大きさはゾウと同じくらいかもしれないがライオンは肉食だ、勝てるだろう。
でもカバの方が強いって聞いたことがある。
いや、それでも印象が大切だとリスキーは言っていた。
ライオンよりカバが強いっていうのは聞いたことあるけどそんなの想像ができない。
多分俺が出すんならライオンの方が強い。
「リスキーさん僕が知る中で1番強い動物を出します。きっと勝てます」
「そうか。分かった」
そう言ってリスキーは魔法陣の見本をまた出した。
今度は魔法陣も大きく、そしてライオンを想像する。
すると、魔法陣からライオンが現れた。
「おお!たしかに強そうだ!」
リスキーもテンションが上がっているようだ。
「いけ!」
ライオンは勢いよく怪物クマバチに飛びかかった。
その瞬間、クマバチが轟音で羽ばたき少し上に体を浮かせた。
そのまま怪物クマバチは体を丸め、お尻にある針をライオンへ突き刺す。
ライオンは蜃気楼のように姿を崩し、空気に溶け込むように消えていった。
は、針?
いやクマバチのオスには針がないからって、じいちゃんがよく掴んで...
メス!?
メスは珍しくて滅多に見かけないのに!?
いやいや、そんな馬鹿な。
いや、あれか蜂だからっていう固定概念で針が生えてるのか。
そうかもしれない。
でもそんなの無茶苦茶だ。
もうあんな怪物に勝てるわけがない。
まさか異世界転生で前世の記憶が足を引っ張るなんて。
いや、待てよ。
動きは知ってるけど想像する余地がある生物。
ドラゴンだ。
いや、だめだ竜は魔力があるから召喚できないって言ってた。
この想像をしてしまった時点で俺のドラゴン像が邪魔されて召喚できなくなってるかもしれない。
ならケルベロスでいこう。
言葉が浮かんだってことはこの世界にもケルベロスって言葉はあるってこと。それなら。
「もう一回魔法陣を見せてください」
「いけるのか?」
「いけます」
先程よりも大きな魔法陣を作り、大きなケルベロスを想像する。
そもそもケルベロスの大きさなんて知らない。
けれども冥府の番犬と呼ばれているからには大きくて凶暴で強かったに違いない。
さぁ来い!
「...」
ん?何も出ない。
「何を想像したのか知らないけど。本当にそれ見たことあるのか?絵で見たとかじゃ無理だぞ?実在しない生物とか想像が実物とかけ離れ過ぎてると召喚できないから」
空想上の生き物は所詮空想の産物であって、現実世界で存在できるような構造じゃない。ということだろうか。
いや、でも実物と想像があんなにもかけ離れてるのにクマバチはいいのか?
ズルだそんなの。
もうあの怪物はいい。
とにかく今は考えなくては。
実在していて...大きくて..動きを知ってて、想像の余地がある。
いた。前世の技術で動きを再現していた、古代に実在した大きな生物。
恐竜だ。
ただ疑問もある。
実物は見てないがいけるのか?
いや、前の世界の技術力と研究者達を信じよう。きっと恐竜の動きをリアルに再現していたに違いない。
なんて言ったか忘れたが、光で映し出されて動くリアルななにかを見た時、あれは本物だと思った。大丈夫だ。
この世界に恐竜はいるのか?
いただろう。動物とか虫とか植物とか俺が見た限り元々いた世界とほとんど変わらない。
きっと恐竜もいた。
いける。
「お願いします。もう一度魔法陣を見せてください!」
「いくらでも見せるよ〜」
リスキーは少し諦めたような表情をしている。
しかし、そんなことは関係ない。
為せば成る、為さねば成らぬ、為さぬから。
リスキーさん、あなたがそう言っていた。
やってやる。
俺は過去1番大きな魔法陣を地面に映し出し、力を振り絞るようにして召喚魔法を発動する。
恐竜に詳しいわけじゃない。
だからこそ現実と俺の脳内の恐竜像に想像の余地ができる。
凶暴で強くてデッカい奴。
「ティラノサウルス!!!」
その時、地面が揺れた。
比喩なんかではなく、たしかに揺れた。
揺れに耐えるため、足腰に力を一瞬だけ集中させる。
その間、視線を足元に落とす。
揺れが収まってから顔を上げた時、それはいた。