第37話 任務完了
ハッチとシュブルは立ち止まり、ゼノの魔法を警戒。
ゼノの背後、魔族達が退却した方向に靄がかかり段々と暗くなっていく。
そして、それは次第に形を成し、あっという間に広がった。
砂嵐だ。
低い音を響かせ、巨大な砂煙が着実に近づいてくる。
「おい、ありえねぇだろ...。初めて使った魔法だぞ...」
シュブルは砂嵐から視線をゼノへと向ける。
ゼノは地面から手を離し、立ち上がっているところだった。
シュブルはすぐに後ろを振り返った。
自分が起こす砂嵐のために作った風除けの壁はもう崩れている。
「全員盾で砂嵐に備えろ!風魔法は使うなよ!使えば気流が乱れて甚大な被害が出る!」
魔術師達は隊列を整え、盾を構え始めた。
砂嵐に備える気配がないのはシュブル、ハッチ、デゼル、ゼノの4人。かと言って戦う様子もない。
戦わない理由は明白。ゼノが砂嵐を発生させた時点で結果は決まっていた。
戦いを続けたとしても、ゼノの手が空いてしまった以上、砂嵐が来るまでに決着はつかない。
ハッチも普段通りの口調に戻っていた。
「貴方の魔力量でやっとの魔法でしたよね」
「えぇ...」
「彼はあれだけの骸骨を操り、召喚魔法まで使ってましたが...」
「あの魔法は私が使ったのとは全くの別物なんでしょう」
ハッチとシュブルは自然とゼノの方を見ていた。
砂嵐は刻々と近づいている。
「勇気ある、お2人さん。お名前聞いても?」
軽い口調でシュブルが2人に話しかけた。
2人は同時に即答する。
「デゼル」
「デゼル」
その瞬間、デゼルとゼノは目を合わせる。
「え、お前ゼノだろ?」
「おいおいおい。俺の名前を明かすなよな。ここは敵地のど真ん中だぞ?」
「怖がってんのかよ」
「うわ、よせよ。そんなことあるわけ...」
呆れた様子のゼノだったが、突然声を張り上げる。
「俺の名はゼノ!!!ゼノ・ジョグラール!!!」
「ゼノ・ジョグラール...」
ハッチはその名前を頭に刻み込むようにそう呟いた。
横にいるデゼルにゼノが問いかける。
「ほら、満足か?まだ足りないか?」
「ん?足りない?」
デゼルは困惑しながらゼノの方を向いたが、その瞬間にゼノはまた大声を出した。
「もう一度言う!!!俺の名前はゼノ・ジョグラール!!!ゼノ!!!ジョグラール!!!」
ひとしきり叫んだゼノが呟くように本音を漏らす。
「...あ〜あこれで俺も名前が広まるんだ...。ま、別にいいけどさ」
「相変わらずだな、お前は...」
デゼルはため息を吐くかのようにそう呟いた。
「ゼノって言うのか。キントじゃバトリーが世話になったなぁ」
シュブルの言葉を聞いたゼノは、ほんの一瞬だけ鋭い視線をシュブルに向けた。
しかし、すぐに普段通りの締まりのない笑顔を浮かべた。
「ま、よろしく伝えといてくださいよ。それじゃ」
力の抜けたよう軽い口調でゼノがそう言った瞬間、残丘に到達した砂嵐がデゼルとゼノの姿を隠した。
そして、息を吐く間もなくマーロンの魔術師達を砂嵐が襲う。
ーーー
砂嵐から抜け出したデゼル。
魔力がもうほとんど残っていないためか、魔族特有の体の変色が起きていない。
デゼルは髪の毛の砂を手で振り落とし、服の砂をはたき落としながら周囲の状況を確認する。
日は沈みかけ、辺りは暗くなり始めていた。
ゼノの姿はない。
ため息を吐くデゼルだったが、顔には無邪気な笑顔を浮かべていた。
デゼルは1人、ゴールドバレーに背を向けて森の中へと入っていく。
ーーー
砂嵐が消えた後、ゴールドバレーからニワーカーブに帰ったマーロン王国の魔術師達。
そんな彼らの目に飛び込んできたのは、先ほどの砂嵐の影響で砂だらけになり、荒廃とした町の姿だった。
ニワーカーブは、この前あったムィレフ襲撃で壊れた町の修復作業中。
今回の砂嵐による強風で、建物を再建するために組まれていた木の枠組みや足場が崩れてしまっていた。
シュブルはしゃがみ込み、足元の砂に指で触れる。
「砂が消えてねぇ...」
そう呟くシュブルに、ハッチが質問する。
「どういうことです?」
「魔法で作られた砂じゃないってことです」
シュブルは立ち上がりながら話を続ける。
「自分が使った魔法は砂嵐を起こす魔法。砂は魔法で作り出したやつなんで、時間が経てばすぐ消えます。おそらく奴が使ったのは広範囲に及ぶただの風魔法。ゴールドバレーの砂を巻き上げて砂嵐を起こしたんでしょう。砂は実物。ただでさえ強風のせいで被害が出てるってのに、砂だらけになるなんて...」
「ニワーカーブ再建が大幅に遅れますね。...そんなことより、魔族達を見逃してしまってよかったんですか?追撃する気もないところを後ろにいた魔術師達に見られてますが...」
「ハッチさんも同じでしょう?命令されたことしかしないのはお互い様ですよ」
同意を求めるシュブルの視線が、ハッチに向けられる。
「なるほど」
ハッチは鼻で笑いながらそう言った。
その様子を見ていたシュブルの顔もどこか笑っている。
「それじゃ、ここらへんで失礼させてもらいます。王都に戻らないといけなくって」
シュブルは面倒くさそうにそう言った。
「復帰したてだというのに忙しそうですね」
「人使いが荒くて困っちゃいますよ。本当、魔術院ってのは...」




