第36話 Revenge
肌はピンク、白目が黒色に変色しているゼノ。
その周りには無数の骸骨が立っている。
「さて、行こうか」
ゼノがそう言うと、ゼノの周囲にいる無数の骸骨が宙に浮き始める。
これを見たシュブルは、魔術師達に魔族への攻撃を止めるよう指示した。
「止めろ止めろぉ!狙うのは骨だ!魔族じゃねぇ!」
命令通り、空中に浮遊し始めた人骨を炎魔法で撃ち落とし始める魔術師達。
炎魔法で骨が砕け散る音や、骨に当たらなかった炎魔法が地面にぶつかる音が響く。
この様子を見たデゼルは、後ろを振り返る。
そこにいるのは疲れ果てた魔族達。
デゼルはチランジア呼び寄せる。
「チランジア」
「なんでしょう」
魔法を使い、骨を浮かすゼノの方を一瞬だけ見るデゼル。
「この隙に全軍撤退する。軍の指揮は任せた」
「了解です。...」
何か言いたげな様子のチランジア。
「どうした?」
「...何をする気なんです?」
デゼルは魔法を使っているゼノに視線を向けて答える。
「俺はあの馬鹿と一緒にここに残る」
「なるほど...。何か策がおありで?」
「魔法で地面を一気に隆起させる」
どこか楽しそうな様子のデゼルを見たチランジアは、なぜか不安で仕方なかった。
「足場を隆起させてどうするんです?」
「そりゃあもちろん、空を飛ぶ」
自信満々な様子のデゼルに、チランジアはさらに不安になった。
その頃、マーロンの魔術師達は盾を構え、自分達より高いところまで浮き上がった骸骨の大軍に向けて炎魔法を撃ち込んでいた。
シュブルはただ呆然と空を見上げ、大量の骸骨を眺めていた。
「こんだけ操ってるってのに乱れがねぇよ...」
「すごいんですか?それは」
ハッチも炎の塊と骸骨だらけの空を眺める。
「そりゃあもう。数多くの死体を操ったり大量召喚したりすれば、全てを細かく操作するのは無理でしょう?だからああいう場合は、その使用者の意思や感情に操られることになるんです。あれだけ大量に操ってれば、別の動きをする骨が何体も出てくるのが普通なんですが...」
「彼には迷いがないと」
「貴方も大量召喚するでしょう?全ての召喚獣が思い通りにならない経験がおありでは?」
特に思い当たることがないハッチ。
「今のところはないですね」
「やっぱ違うなぁ〜!蜂があんなにでっかく見える人は」
シュブルは笑いながらそう答えた。
「あれは幼少期、それも赤子の時の恐怖の記憶です。不思議なことではないでしょう...」
2人がそんな話をしている最中も、骸骨達は上空からマーロンの魔術師達を狙う。
魔法で砕かない限り骸骨達は止まらない。
炎魔法で応戦してはいるものの、骸骨の数がそれを遥かに上回る。
撃ち漏らした骸骨達が次々と着地し、マーロンの魔術師達に襲いかかる。
魔術師達による炎魔法の弾幕が乱れた。
一度攻撃が乱れたら最後、さらに大量の骸骨達が続々と着地し、魔術師達に攻撃を始める。
魔術師達は地上にいる骸骨と戦うので精一杯だ。
その時、骸骨達と争う魔術師達の上を、大きな影が轟音を立てながら通過した。
大きなクマバチだ。
ハッチが召喚したクマバチがその羽で骸骨を砕きながら飛行する。
その様子をシュブルは骸骨を殴り砕きながら見ていた。
「あんな馬鹿でかい虫、存在しないでしょうに...」
シュブルは呆れながらそう呟いた。
一方ハッチは地上で自分に近づいてくる骸骨を狂ったように壊し回っていた。
「怪物ではない、蜂だ!」
ハッチは戦闘状態になっていた。
普段の時とは様子が違い、暴れ狂ったように骸骨を砕き割る。
まだ浮遊状態にある骸骨は、クマバチにしがみつくようにして襲いかかる。しかし、クマバチは意にも介さず飛行を続け、羽で骸骨を砕いていた。
それでも炎魔法の弾幕と比べれば砕ける骸骨の数はほんのわずかでしかない。
クマバチの抵抗も虚しく、浮遊していたほとんどの骸骨の着地を許してしまう。
上空の骸骨が消えると、クマバチは地上に降りて足で骸骨を砕き始めた。
地上でも羽を羽ばたかせ、近づく骸骨を容赦なく粉砕する。
シュブルやハッチ以外の魔術師達も骸骨達と激しい戦闘を繰り広げていた。
盾で骸骨の攻撃を防ぎながら魔法を撃ち込む者が大半を占める中、盾で骸骨を殴る者、盾を捨て強化魔法で骸骨を殴る者もいた。
骸骨と人間が入り乱れる大乱戦。
そしてそこに、1人の魔族が投げ込まれた。
デゼルだ。
デゼルは背中から地面に叩きつけられるようにして、鈍い音を立てながら着地した。
「ゔッ.........!!!!!」
苦悶の表情で地面に寝そべるデゼル。
あまりの痛さに呼吸ができない。
体勢を整えるには足りないが、着地に失敗すれば怪我では済まない高さからの落下。
それでも無事なのは防御魔法を使っていたからに他ならない。
「っ...痛ぇ...」
ゆっくりと立ち上がろうとするデゼル。
その時、2人目の魔族が投げ込まれた。
ゼノである。
「ぐッ......カハッ!」
またもや背中で着地。
ゼノも悶えて苦しんだ。
遥か上空から降ってきたわけではなく、岩山の下から投げ込まれたに過ぎない。
そのため、落下自体はかなり地味なものだった。
しかし、その衝撃は本人達からすれば生半可なものではない。
顔を上げられないでいるゼノ。
ゼノは地面に両手をつき、近くにいるデゼルに訴える。
「あっ...駄目。ちょっ...ちょっ、もう終わろ。む...無理...」
これを少し離れていたところで見ていたシュブル。
「強そうな奴が2人も...。かなりまずいじゃねぇの」
そう溢したシュブルは目の前の骸骨を砕きながら急いで2人の前に向かう。
ハッチは一旦周りにいる骸骨を蹴散らすと、デゼルとゼノに向けて手をかざす。
「燃えろ」
ハッチは炎の塊をデゼルとゼノに向けて勢いよく放つ。
すでに立ち上がっていたデゼルが地面を掴み、捲り上げるようにして掴み上げる。
すると、地面が布のようにはためきながら持ち上がった。
次第にそれが2人を守るほどの大きさになると、デゼルの手元から一瞬にして固まり壁となる。
風に揺れる布が固まったかのようなその形状は、壁が本当に布でできているのだと錯覚してしまうほどだ。
デゼルが作り出した壁は炎の攻撃を受けると、跡形もなく崩れ落ちた。
「これが地属性魔法?なんつぅ技術だよ...」
シュブルは思わず感嘆の声を漏らした。
ハッチはさらに攻撃を続けながら距離を縮める。
「十八連金」
ハッチの袖や、懐の中から合計18本の金のナイフ飛び出す。
飛び出した金のナイフは鋭い軌道でデゼルとゼノへと向かう。
やっと立ち上がったゼノが右手をかざし、飛んできた全てのナイフを静止させる。
「キントで怪物を召喚してた奴だな?」
しかし、ハッチの狙いはナイフによる攻撃ではない。
ハッチはナイフを止めているゼノに勢いよく殴りかかる。
「怪物ではない、蜂だ!」
しかし、次の瞬間飛ばされたのはハッチだった。
飛ばされたハッチは魔術師と骸骨が戦っているところに突っ込んだ。
遠くで倒れたハッチが顔を上げて呟く。
「召喚獣...」
ハッチの視線の先にはドラミングするゴリラがいた。
ドラミングをし終えると、ゴリラは飛ばされたハッチ目掛けて走り出す。
ハッチもすぐに起き上がり、ゴリラに真っ正面から立ち向かう。
ハッチとゴリラの殴り合いが始まった。
その様子を見ていたシュブル。
シュブルはすでにデゼルとゼノの目の前に辿り着いていた。
「死霊使いで召喚師?ちょっとやりすぎでしょうよ」
ゼノが言い返す。
「アンタの魔法も大概だろ」
「でもそのせいで、こちとら魔力はほとんど無ぇからなぁ」
ここでデゼルがシュブルに攻撃を仕掛ける。
デゼルはシュブルとの距離を詰め、地面を抉るように拳を振り上げる。
すると、波が打ち上がるようにしてシュブルの足元が隆起した。
後ろに飛び退くシュブル。
デゼルは体勢が崩れたシュブルに高速で二段蹴りを放つ。
シュブルはガードを固め、なんとか耐えた。
そのまま着地したデゼルは再度地面を抉るように拳を振り上げる。
今度はあらかじめ後ろに跳ぶシュブル。
シュブルの予想通り、地面が波のように隆起した。
しかし、それだけでは終わらなかった。
隆起した地面からいくつもの礫がシュブルに向かって飛び出す。
後ろに跳んでしまったシュブルには為す術がない。
シュブルは礫の攻撃を見事に喰らった。
体にはいくつもの切り傷。傷口によっては少しだけ血も出ていた。
それでもシュブルが膝をつくことはない。
「いや〜やるねぇ...。面白ぇじゃねぇか」
「そう驕るなよ。俺に足元掬われちまうぜ?」
デゼルはすかさずシュブルに殴りかかる。
今度はシュブルもデゼルに殴りかかった。
体格が良いシュブルと比べると一回り小さいデゼルだが、背が小さいわけでも筋肉量が少ないわけでもない。
小柄なゼノより明らかに背は高いし体つきも良い。
それでもデゼルは素早い攻撃と軽やかな身のこなしでシュブルを翻弄する。
強化魔法で身体能力を上げて戦うだけのシュブルと、地面を布や波のように操りながら戦うデゼル。
押しているのは当然デゼルだった。
その頃、ゼノは右手を地面に当て、静かに目を瞑っていた。
この隙をどうにか攻撃したいハッチと魔術師達だが、ゼノを狙うとゴリラや骸骨がその行手を阻む。
今まで強化魔法のみでゴリラと戦っていたハッチだったが、とうとう痺れを切らした彼は召喚魔法で大量のミツバチを召喚する。
「蜂熱地獄!!!」
ゴリラの体を埋め尽くすよう集まり始めるミツバチ。
そして、ゴリラに張り付いた大量のミツバチが体を震わせて体温を上げる。
ゴリラは体からミツバチを払い除けようと必死に踠く。
しかし、次第に動きが鈍くなり、ほとんど動けなくなると次の瞬間には姿が消えていた。
ハッチのミツバチはゴリラを倒すのに必要最低限の魔力で召喚されたため、ゴリラが消えた後にそれに続くようにして消えていく。
ゴリラに足止めされていたハッチは骸骨を薙ぎ倒しながらゼノに迫る。
それが見えたデゼルはシュブルを蹴り飛ばし、急いでゼノの元に駆け寄った。
「何してる。もう充分時間は稼げ...」
ゼノが触れている地面に目がいくデゼル。
ゼノの右手を中心に展開された魔法陣が微かな光を放ちながら現れ、現れては消えるのを不規則に繰り返していた。
その光の弱さのせいで遠目からはそれを目視することはできないが、その大きさと複雑な模様を見れば広範囲に影響を及ぼす魔法であることは明白だ。
「...わざわざ隠そうとする必要ある?魔法陣が見えなくてもやってることは見え見えよ?」
ゼノは目を閉じたまま答える。
「見せびらかすもんでもないから」
「たしかにな。そんで何してる?」
「ここから逃げる準備」
「さすが達人」
デゼルは小さな笑みを浮かべ、皮肉るような言い方でそう言った。
「いいから時間を稼いでくれ。魔法の都合上、死霊使いの術を解く」
「どれだけ耐えればいい」
「お前が死ぬまで」
ゼノは目を開け、悪戯な笑みを浮かべながらデゼルを見上げる。
「言ってくれるね〜」
デゼルは笑顔を浮かべながらそう答えた。
そしてその瞬間、まだ壊れずに動いていた全ての骸骨が同時に崩れ落ちる。
シュブルにハッチ、そしてまだ戦えるマーロンの魔術師達が一斉にゼノとデゼルの方を向く。
「やめてくれよ。照れちまう」
デゼルはそう言って地面に触れる。
すると、地面が波のように揺れ始めた。
マーロンの魔術師達は揺れる足場にのせいで足止めを喰らう。
前に進むことも、その場に立っていることも難しくなった魔術師達。
足場が揺れ続けるなか、魔術師達はなんとか魔法が放てそうな機会を見つけ、その場から様々な魔法をデゼルとゼノに向けて撃つ。
「よいしょ〜」
デゼルは、地面に触れていた手で地面を掴み、絨毯を捲り上げるように持ち上げて壁にした。
この時、地面の揺れも止まる。
自らの手で作り出した壁で全ての魔法を防御しきると、デゼルはまた地面を掴んだ。
今度は両手で地面を持ち上げると、地面から地面を引き剥がすようにようにしてそれを引っ張った。
そして、それを魔術師達にぶつけるようにして勢いよく横に打ち振る。
「sable」
デゼルが掴み、布のようになっていた地面が砂に変化して魔術師達に降りかかる。
砂になったことで広範囲に攻撃が及び、全ての魔術師達の視界を奪う。
その間にデゼルは自分の周囲にたくさんの小さな石の塊を作り出し、それを魔術師達に向けて撃つ。
ほとんどの魔術師達が怯む中、怯むことなく距離を詰めるハッチとシュブル。
その時、魔法陣をようやく完成させたゼノが目を開く。
「侵略」




