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恐竜の召喚師  作者: 南雲一途
第三章 雷霆
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第29話 Look Up

「浮かぬ顔だな」


「当たり前だ。プルガーさんを助けるために、俺は...」


「命は量が大切だと今更気づいたか?」


 人を馬鹿にした悪魔の笑い顔に腹が立つ。


「どっちも大切に決まってるだろ」


「そう睨むなよ。まだ犠牲になっちゃいねぇんだ。まだ救うことだってできる」


「どうすればいい」


「ムィレフ。アイツを殺せ。それでチャラだ」


「...それ以外にはないのか?」


「よせよ。敵にも同情するのか?いや、殺せないだけか?どちらにせよお前さんらしい。だが世の中そう甘くない。何事にも代償が必要だ。何か選択をした時、必ず他の選択肢が犠牲になるように。犠牲に心を痛めているのなら、取り敢えず犠牲以上の命を救ったらいいんじゃねぇか?」


「質問をはぐらかすなよ」


「おいおい分かってるのかぁ?まずこの状況をどうにかしなきゃムィレフを殺すことも、誰かを助けることもできねぇだろ。早く目ぇ覚ましな。話はその後だ」




 ーーー




 洞窟の中に作られた牢屋の中で、足を抱えるようにして座りながら寝ていたトーチが目を覚ました。

 トーチの腕には手錠がはめられている。


「起きたか」


 トーチの檻の前にいた魔族の男は檻の鍵を解き、扉を開いた。


「囚人番号2、4...6...ん?何番だ?まぁいい出ろ」


 トーチは立ち上がりながら魔族の男の方を向き、呟くようにして吐き捨てる。


「俺はトーチ・アザーレだ」


「名前を覚えるのが苦手でな。それにお前のような奴等の名前などわざわざ覚えていられられない」


「アンタにも名前はあるだろ?名前は?」


「俺はマチス。こんな名前、忘れてくれて構わない」


 マチスは体の向きを変える。


「着いて来い」


 トーチはマチスの後ろを歩き、静かで誰もいない牢屋の前を進んで洞窟の外へと出た。

 洞窟を出たトーチの目には、大きな木々が生い茂る森が映る。

 ちらほら紅葉した木もあるが、見渡す限りのほとんどが緑。


「どこだよここ...」


 呆れた様子でトーチは小さく呟いた。


 時折、森の奥からは木が倒れる音が響く。

 洞窟の外では早朝にも関わらず、老若男女関係なく大勢の人々が大木を運ばされていた。

 最も多いのは白髪に黒い肌、尖った耳が特徴のダークエルフと呼ばれる種族。

 その次に魔族が多く、ごくわずかにトーチと変わらないような見た目の人達が重労働を強いられている。


 その隣を歩き抜け、マチスとトーチは何もない開けた場所に出た。

 この一帯だけは全ての木々が伐採されており、木の根っこが掘り起こされた後が残っている。

 その真ん中に、1人の人間が立っていた。


 耳が尖っているわけでも、肌がピンク色のわけでもない。

 見た目はマーロン王国にいる人間。

 ただ、真っ直ぐで綺麗な長髪は、真っ黒な毛と真っ白な毛が入り混じっている。

 黒を基調としたその服装は、全力で走ったり、戦ったりしても問題ないくらい動きやすそうだが、どこかのお姫様が着ていても不思議ではないほど煌びやかなものだった。


「彼の方がサラマンダーだ」


「サラマンダー?」


「この世界で最も偉い」


 サラマンダーはトーチに近づき、屈託のない笑顔で挨拶をする。


「初めまして」


「初めまして」


 トーチは警戒しながらそう返した。


「マチス、手錠を」


 サラマンダーの命令に従い、マチスはトーチの手錠を解く。手錠が外れたトーチは手首を触る。

 その間、マチスがしゃがみ込み、右手で地面に触れた。


circulus(キルクルス)


 地響きを鳴らしながら地面が盛り上がり、3人を囲む円形の土壁が出現した。

 円形の闘技場。逃げ場はない。

 サラマンダーは笑顔を浮かべ、トーチを見る。


「ここから逃げる?」


「え?」


「君は自分の行動を自由に選択できる。力があれば君の望んだ結果が得られ、望んだ通りにならなかったらそれは力が及ばなかっただけ...。単純でしょ?」


 状況が飲み込めずにいるトーチをよそに、マチスが口を開く。


「私は何もしませんよ」


「いいよ。それで」


 サラマンダーは改めてトーチに話しかける。


「始まりの合図とかはないよ?」


 サラマンダーは笑顔でそう言い終わった直後、トーチの体を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ばされたトーチは鈍い音と共に壁に叩きつけられる。

 トーチは呼吸もできないまま、苦悶の表情を浮かべて痛みを耐える。

 壁に俯くようにしてもたれかかるトーチの前には、どこからともなく現れた悪魔が立っていた。


「ありったけの強化魔法を使って筋肉を固めたか。よく反応したな」


 その声を聞き、トーチは悪魔の存在に気づくが顔は上げられない。

 苦しみながらも声を出すトーチ。


「悪魔...?ここに?...」


 トーチの横に、悪魔はしゃがみ込む。


「上向け。目を逸らすな」


 トーチはなんとか顔を上げ、サラマンダーの方を見る。


「また負けるのか?今度こそ死んじまいそうだな」


 声を必死に絞り出すトーチ。


「俺は、生きて、ここを...出る」


 トーチが立ち上がったのを見届け、悪魔は姿を消した。

 一連の流れを見ていたサラマンダーが不思議そうな顔でトーチに質問をぶつける。


「今のは?」


「俺にもよく分からない」


「なるほど」


 サラマンダーは笑顔でそう言った。


「ディノニクス」


 トーチの目の前に現れた2体のディノニクスが、サラマンダーに向かって走り出す。

 ディノニクスは素早く両側から飛び掛かるが、サラマンダーは目にも止まらぬ速さで動き、一体ずつ殴り飛ばした。

 2体のディノニクスは壁に叩きつけられて姿を消す。

 強化魔法を使ったサラマンダーの攻撃は尋常ではない。


 サラマンダーはトーチに視線を戻し、凄まじい速さでトーチに向かって突撃する。


「トリケラ!」


 トーチは瞬時に手を伸ばし、トリケラトプスを召喚してサラマンダーを行く手を阻む。

 サラマンダーはその勢いのままトリケラトプスを殴ったことで、大きな鈍い音が辺りに響いた。

 トリケラトプスが少し後退するほどの威力だったが、サラマンダーが全力で殴った様子はない。


「これがトリケラトプス...。重いね」


 その時、トリケラトプスの後ろからさらに12体のディノニクスの群れがサラマンダーに向かって飛び掛かる。

 トーチはこの間に手を空に向け、プテラノドンを召喚。

 プテラノドンの足に掴まりここからの逃走を試みる。

 しかし、そう簡単には逃げられない。


 ディノニクスを片っ端から殴り飛ばすサラマンダーが、ふと空を見上げる。

 サラマンダーがプテラノドンに気付くと、自分に襲いかかるディノニクスを蹴り飛ばし、プテラノドンに向かって勢いよく飛び跳ねた。

 流星のような速さでプテラノドンに接近するサラマンダー。

 サラマンダーは空中で通りすがりにプテラノドンの首を掴む。

 その勢いに負けたプテラノドンは上空に引っ張られ、体勢を崩す。


 異変を察知したトーチは急いでプテラノドンから手を離し、地上に飛び降りた。

 着地したトーチが空を見上げる。

 サラマンダーに翼を折り曲げられながら落下してくるプテラノドン。

 トーチはすぐさまその場を飛び退いた。

 その瞬間、プテラノドンが地面に落ち、砂埃が舞う。

 砂埃の中からサラマンダーが現れたが、プテラノドンの姿はもう消えていた。


「それじゃ足りない」


 サラマンダーが微笑むようにしてそう言い終えた瞬間、トーチはサラマンダーに腹部を殴られて吹っ飛ばされていた。

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