第27話 剣を向けた先
部屋からリスキーさんが出てきた。
「お、トーチか」
「プルガーさんの様子は?」
「やっと起きたよ。今、丁度軽食を取り終わったところ」
「一日中寝てましたから」
「本当極端な奴だよ。一日中走ってここまで来て。その後一日中寝てるなんて」
「走ってニワーカーブまで来たんですか?」
「土砂崩れで道が塞がれたところまでは馬で来たらしいけどな。まぁそれでも普通は走る距離じゃねぇけど」
夜通し走った後に戦ってたのか。
「それじゃ、俺は一足先に町はずれの村に寄ってから王都に戻るよ」
「気をつけて」
リスキーさんはそのまま行ってしまった。
俺はプルガーさんのいる部屋の扉を2回叩く。
「どうぞ」
声は元気そうだ。
よかった。
扉を開くと、ベットで体を起こしているプルガーさんがいた。
手元には木の器がある。
器の中には木のスプーンだけ。
本当に今食べ終わったばかりなのが分かる。
「トーチ君か、おはよう。あ、こんにちはの方が合ってるかな?」
トーチさんはいつも通りの笑顔でそんなことを言っている。
「怪我はもう大丈夫なんですか?」
「食事が少し大変だったけど、この通り無事食べ終わった。問題ないよ。ご心配どうも」
「いやそんな...」
少し間を置いてから、気になっていたことを聞いてみる。
「その、アカシアって何ですか?プルガーさんが気を失う前にそう言ってたのが気になってて」
「そんなこと言ってたの?アカシアって?」
プルガーさんは笑いながら聞いてくる。
「えぇ。アカシア、とだけ」
「なんか恥ずかしいな。そのアカシアっていうのは人の名前だよ。仲が良かったんだ」
仲が良かったか。
悪いこと聞いちゃったな。
「その仇が今回来てたムィレフでね。ムィレフの仕業だって聞いたらいてもたってもいられなくなって...」
一息置いてからプルガーさんは話し始める。
「アカシアが死んだ時、戦場にいなかったんだ。負け戦だと判断した父に止められてね。別に父が悪いわけじゃない。父の判断は正しかった。あの時僕だけが間違えたんだ。後悔が残る選択をしてしまった僕だけがね」
後悔が残る選択...。
「すみません、辛いこと聞いちゃって」
「いや、いいよ」
プルガーさんは微笑みながらそう答えた。
「それじゃ」
俺はそう言って逃げるようにして扉を開く。
「あ、トーチ君!」
プルガーさんの声に呼び止められ、足を止める。
「助けてくれてありがとう。君は強いよ。大丈夫」
俺は一瞬だけ振り返り、笑顔を見せてから部屋を出た。
プルガーさんの顔を見ることはしなかった。
いや、できなかった。
ーーー
魔族によるニワーカーブ襲撃から2日が経過し、魔術院では今回起きたことによる様々な問題について、会議が活発に行われ始めた。
そして、警備が手薄になったリマウンクー城で事件が起きる。
王都で起きた魔族によるトーチ・アザーレを狙った襲撃事件。
トーチとレドバドの活躍により捕まった襲撃犯の魔族マドロ・イニツリが監禁されている城の地下にある独房。
その独房の扉が今開く。
「あなたがマドロで合ってる?」
「誰だ?」
マドロは入って来た人物を睨むようにして見上げる。
「ミモザ・イゴンソイ。新入りの話聞いてないですか?」
「あぁ君が虎を召喚できるっていう。名家のお嬢様だって聞いてたから、どんな派手な格好をした奴なのかと思えば。案外好感が持てそうだ」
ミモザはいつもの服装とは全く違い、王国魔術師の1人の格好をしていた。
いつもは見事に結ばれた金髪も今は後ろでただ結んであるだけ。その結ばれた髪を襟元から服の中にしまい、襟を立てて長い髪を隠している。
「男装は得意で」
ミモザは得意気にそう言いながらマドロの手錠を外す。
「見張りになりすましてここまで?」
「いやまさか。今見張りには寝てもらってますよ」
「そんなことまでして大丈夫なのか?」
「問題ないですよ。この国じゃ死霊使い以外の魔術師はみんな男。私に疑いの目が向くことはないですから」
「なるほど」
「さ、それじゃこれを羽織って。城の外まで魔力を消してこの国の人間のふりをしてください」
そう言ってミモザは持っていた王国魔術師の上着をマドロに手渡す。
マドロは受け取った上着を羽織り、魔力を消して肌を薄橙色にする。
「魔族を逃すなんてもう立派な叛逆者だな」
「でもそうは見られない」
ミモザの言葉を聞き、マドロは小さく笑う。
「ミモザか気に入った」
そう言って準備ができたマドロは独房を出る。
2人はミモザを先頭にして歩き出す。
明らかに襲撃を受けたであろう見張りが所々に倒れているのを見たマドロは苦笑いだ。
2人は人通りの少ない場所から城を出た。
「それじゃ私はここまでです」
「一緒に来ないのか?」
「一つ頼み事をされてて。それを片付けてから私も向かいます」
「なるほど。君がいれば心強かったんだが。それじゃ、私は行くよ。感謝してる」
「お気をつけて」
「君もな」
1週間後、ミモザはマーロン王国から姿を消した。
それと同時にトーチ・アザーレも王国から姿を消した。
この2つの事実を受け、王国に住む多くの者はこれをトーチによる誘拐事件だと見て取る。
王国を混乱の渦が飲み込んでいく。




