第23話 焔焔に滅せずんば炎炎を如何せん
2頭のサーベルタイガーは、ヤブラを中心に回りながらゆっくり歩く。2頭は常にヤブラを挟み、歩調を合わせる。
サーベルタイガーが通路に沿って一直線になった時、ヤブラは2頭の間を走り抜けて狭い路地へと向かった。
サーベルタイガーはそれをすかさず追いかける。
ヤブラは背負っていた長槍を走りながら手に取って横に持ち、槍の両端を建物と建物に走る勢いそのままにぶつける。
壁にぶつかって一瞬固定された槍を使って逆上がりをすると、追ってきている先頭のサーベルタイガーの頭上を飛び越えながらその背中に槍を突き刺す。
槍が刺さった瞬間にヤブラは手を離し、2頭目のサーベルタイガーの目の前に着地。すぐにしゃがみ込んでサーベルタイガーの懐に入り込み、右手で引き抜いた腰の短剣を2頭目のサーベルタイガーの左脇腹に刺しながら懐から脱出。そのまま広い方へと走って逃げる。
2頭のサーベルタイガーは逃げるヤブラを追いかける。
槍が刺さっていようが短剣を刺されようが召喚獣の動きが鈍ることはない。
ヤブラは追われている途中、左側にあった建物の壁を数歩歩いてから蹴飛ばし、空中で後ろ回転をしながらサーベルタイガーに刺さっている槍を掴んだ。回転の勢いを使い、空中で槍を引き抜く。
着地と同時に槍を構え、強化魔法で身体能力を底上げ。
先程まで槍が刺さっていたサーベルタイガーの横腹に目にも止まらぬ速さで突っ込む。
槍はサーベルタイガーの体を貫通。
サーベルタイガーは勢いよく建物に叩きつけられ、ぶつかった建物は音を立てながら完全に崩壊した。
残るサーベルタイガーは1頭。
残された1頭がヤブラに向かって襲いかかる。
ヤブラは長槍を魔法で操作し上空に飛ばすと、腰に着けていた短剣2本を両手に持ち、襲いくるサーベルタイガーに向かって走り出す。
ヤブラは加速してサーベルタイガーの攻撃を避けながら腹の下に潜るよう滑り込む。
ヤブラは滑りながら持っていた短剣でサーベルタイガーの腹部を切り裂く。
滑った勢いのままサーベルタイガーの懐から抜け出すと、今度は建物の窓穴を利用して軽々と屋根まで登った。
ヤブラは屋根から飛び降りながら先程飛ばした長槍を掴む。
空中で体を最大限逸らし、その力を利用してサーベルタイガーの背中に思い切り長槍を刺す。
槍はサーベルタイガーを悠々と貫き、地面にもヒビを入れて刺さった。
ヤブラは表情一つ変えず、地面に刺さった長槍を抜き、ニワーカーブ東部へと向かう。
ーーー
トーチはハッチに追いつくとプテラノドンを急降下させ、地上に降りた。
鳴らない指鳴らしをしてプテラノドンを消し、ハッチの後ろを強化魔法で追いかける。
しかしその時、突然現れたムィレフがトーチを蹴り飛ばした。
トーチは壁に打ち付けられる。
次はハッチに攻撃を仕掛けるムィレフ。
トーチを心配する暇もなく、無数の炎の塊がハッチを襲う。
ハッチは炎の塊を避けながらムィレフとの距離を詰め、ありったけの魔力を使った炎魔法を至近距離で放つ。
ムィレフもまた炎魔法でそれを向かい撃つ。
凄まじい爆発音が鳴り響き、熱風が起こった。
トーチはその間になんとか立ち上がり、召喚魔法を使おうとする。
その瞬間、数発の炎の塊が勢いよくトーチを襲った。
トーチはなす術もなく町の中を流れる川に落ちた。
ハッチはムィレフの攻撃を何度も避けながら攻撃を試みるが、残り魔力の少ない彼にはもう決定打になるものがなかった。
ハッチは息を荒くしているが、ムィレフに疲れている様子は全くない。
そして、ムィレフの元に最後の1頭のサーベルタイガーも駆けつける。
ムィレフはサーベルタイガーを残し、ニワーカーブ東部へと向かおうとする。
その時、空を引き裂くような轟音が段々と近づくのにムィレフは気づいた。
焼け崩れた建物の影から化け物サイズのクマバチが突如現れた。そして次の瞬間、クマバチはサーベルタイガーに槍のように大きな針を刺す。
サーベルタイガーは蜃気楼のように消えた。
すかさずムィレフはクマバチに向けて炎魔法を放つ。
その隙をハッチは見逃さなかったが、タイミングが悪かった。
ハッチは攻撃に動き出そうとした瞬間、ニワーカーブ東部から大きな魔力の反応を感じてしまい一瞬だけ動きが固まった。
ムィレフはクマバチを高火力の炎魔法で燃やし、一瞬固まったハッチの足元を炎魔法で爆破。
体制を崩したハッチに炎の塊による集中砲火を浴びせる。
先程までとは比べものにならない威力により、辺り一帯の建物も巻き添えになった。
集中砲火をまともに受けたハッチは最後の力を振り絞り、自ら川へ飛び込む。
ムィレフは川に飛び込んだハッチを追うことはせず、ニワーカーブ東部を目指す。
ーーー
ニワーカーブ東北部。
現地の魔術師達が集まってニワーカーブ西部を目指す途中で、魔族が道を塞いだ。
「どこに行く気だ?」
そう言って魔族は不敵に笑顔を浮かべる。
魔術師達はその魔族が出す魔力に圧倒され、体が完全に固まり冷や汗が溢れ出す。
「ハムサ・サンクエル...」
魔術師達は口々にそう呟いた。
「もしかして俺と戦うつもりか?だが残念。ここは戦場になんてならねぇよ。お前らの首が飛ぶだけの断頭台。遺言は残したか?かっちょいいヤツ考えとけよ、馬鹿野郎」
ーーー
傷だらけのハッチは川からトーチを引き上げ、濡れて重たくなった服を脱いだ。
息を整えながら腰を降ろし、隣に寝転がるトーチの胸に手を当てる。
すると、その手から薄く魔法陣が出現。トーチは水を吐き出して咳き込んだ。
安堵した表情を浮かべるハッチ。
そこに、やっとニワーカーブに到着したレドバドがやって来た。
ハッチは脱いだ服を持って立ち上がる。
「遅れてしまい申し訳ありません」
そう言いながら頭を下げるレドバド。
「無茶をしてここに来てくれたのでしょう?」
頭を下げる必要などないと諭すようにハッチはそう言った。
「私にはもう魔力がない。一旦ここを離れます」
そうしてハッチはレドバドとすれ違うようにしてその場から立ち去った。
びちょ濡れのトーチは黙って足を抱えて座り込み、下を向いている。
「お前もこの町を去るか?」
川を見つめるトーチの目には涙が溜まっている。
「俺には戦うなんてできません」
「それだけの力を持ってるお前が、人を助けず見殺しにするのか?お前はその力で救える命を何もせず見殺しにできるのか?」
「望んで手に入れたわけじゃ、ありません」
トーチは涙を堪えながらレドバドの目を見た。
「力を持ちながら、それを自分以外のために使えないなら獣と同じだ」
トーチは目を逸らしながら重たそうに口を開く。
「人だって所詮は獣です」
「戦えもしないお前が獣なのか?」
膝を抱え込んでいる腕を持つ手を思い切り握りながら黙り込むトーチ。
そんなトーチの胸ぐらを無理やり掴み、無理やり立ち上がらせるレドバド。
潤んだトーチの目が濡れた前髪の間からレドバドを睨みつける。
胸ぐらを掴んだまま、トーチを見下ろすレドバド。
「力や能力は何のためにある。自分のためか?力を持つお前は希望を託された。だから、ここにいるんだろう?それに報いる気がないのなら、今この場からさっさと消え去れ」
必死に涙を堪えるトーチ。
トーチの胸ぐらを掴むレドバドの手が、さらに強くなる。
「力を持つお前が、こんなところで何をしてる?お前はその力を誰のために、何のために使うんだ!!!」




