第22話 栄誉魔術師
明朝、リマウンクー城。
「君達のような若い魔術師に頼るしかないのは私の力不足だ。本当にすまない」
オーネスは申し訳なそうにトーチとヤブラに謝った
トーチの腰にはリスキーから貰った刀が、ヤブラは背中に長槍を背負っている。
「2人の武運を祈ってる」
「どうも」
ヤブラはそう言ってオーネスと握手をしてから、トーチが召喚したプテラノドンに跨る。
「それでは」
トーチはそう答え、オーネスと握手した。
握手の後、プテラノドンに近づくトーチの元にミモザが駆け寄る。
「お気をつけて」
ミモザは笑顔でトーチを見送る。
「わざわざありがとうございます」
トーチは自分が召喚したプテラノドンに跨った。
そして、トーチとヤブラはお互いに目を合わせ、同時にプテラノドンを飛ばす。
地上では魔術院の魔術師達とお城で働く者達が見送る。
「ごめんヤブラ。ニワーカーブってどっち?」
「着いてきて」
高速で飛ぶプテラノドンに乗り、2人はニワーカーブを目指す。
ーーー
ニワーカーブでは至る所で火の手が上がる。
朝だというのにも関わらず、黒煙で空が薄暗い。
崩れた建物も多く、その被害は計り知れない。
逃げ遅れた人々は大きな建物に避難し、互いに身を寄せ合っていた。
音を立てないよう、子供の口を抑えながら親は子供を抱き抱える。
その時、古い木が軋むような音を立てながら、扉が開いた。
建物の中にいる人々は体を強張らせ、扉の方を恐る恐る覗く。
そこには煤まみれの男が肩で息をしながら立っていた。
リスキー・リスティだ。
魔族ではない魔術師だと分かり、避難していた人々は安堵の表情を浮かべる。
「貴方達が最後です。ここから近くの村まで護衛します。さぁ立って」
リスキーは笑顔でそう呼びかけた。
避難の最中に怪我をした男性を背負い、リスキーは逃げ遅れた人々と一緒に町の外を目指す。
リスキーは度々足を止め、慎重に慎重に足を進める。
その時、魔族のがリスキーの目の前に突然現れた。
長い黒髪を後ろで結んだ、若い女の魔族。
右頬には切り傷がある。
「お前は魔術院に所属しているか?」
リスキーは慎重に答える。
「リスティ家のリスキー。曽祖父の代から魔術院に属してる」
「ならお前はここに残れ。そうすれば後ろにいる人間を全員逃す」
瓦礫や建物の上、道の真ん中に大きなサーベルタイガーがどこからかやって来た。
4頭のサーベルタイガーはリスキー達を囲むようにして睨みつけている。
「分かった。言う通りにしよう」
リスキーは背負っていた男性を降ろし、後ろにいる人々に向けて小さく頷いてから魔族の方へ歩いた。
リスキーと共にここまで来た人々は、ゆっくりと歩き出し、4頭のサーベルタイガーに睨まれながらその場を立ち去る。
リスキーはじっとそれを見守った。
避難民が見えなくなると、サーベルタイガーの視線はリスキーに集まる。
「目的を聞いても?」
「人質」
「なるほど。餌じゃなくてよかった」
その時、魔族は何かに気づいた。
リスキーも遅れて人の気配を察知する。
建物の角から、召喚師ハッチ・ビーバッチが現れた。
「避難した人達は私の召喚獣が見てます」
リスキーはその言葉を聞き、笑みを浮かべながらハッチと目を合わせる。
ハッチも小さく笑みを浮かべた。
リスキーはすぐさま地面に両手を突き、ハッチは指を鳴らす。
次の瞬間、魔族とサーベルタイガーがいる位置の地面が隆起し、ハッチの周辺には大量のミツバチが現れた。
魔族とサーベルタイガーはその場を飛び退く。
「蜂熱地獄」
ハッチがそう言うと、大量のミツバチが1頭のサーベルタイガーに集まり、サーベルタイガーの体を覆い尽くす。
すると、ミツバチ達は一斉に振動し始めた。
集まっていたミツバチが分散すると、そこにいたはずのサーベルタイガーはミツバチ達の熱にやられ消滅していた。
これを見た魔族は炎魔法で全てのミツバチを焼き払う。
ミツバチが燃えながら雨のように地面に落ちて消えていく。
その隙に、リスキーとハッチはその場から走って撤退する。
「助かりました」
「状況は?」
「今いる3頭は昨日召喚された召喚獣です。3頭も出してますがおそらく魔力は完全に回復してるかと」
「なるほど。貴方以外の魔術師はどこです?」
「土砂崩れで足止めを食らった後、僕だけ状況を伝えるために先にここへ来たんです。現地にいた魔術師達はほとんどが戦闘不能。一部の魔術師達は少し先にある村で避難民の救護に当たってるというのがニワーカーブ西部の現状です」
「東部は?」
「全く分かりません」
「どちらにせよ援軍は期待できそうにないですね」
「土砂で足止めを食らった魔術師が一部来るかと...。でも人数は期待できません」
「魔術院の狙いはこの町の奪還です。敵はムィレフ1人ですか?」
「確認したのは彼女1人だけです」
「なるほど。それでも敵があのムィレフとなるとかなり厄介ですね...」
「想像以上ですよ」
その時、走る2人の前に1頭のサーベルタイガーが現れる。
「さっきの召喚魔法で私の魔力はかなり使ってしまいました」
「僕はもう空っぽです」
「じゃあ私がムィレフを...」
ハッチは何かを見つけ、言葉が止まる。
その様子を見たリスキーはハッチの視線の先を辿る。
「ハッチさん!それにリスキーさん!」
「トーチ!?どうしてここに!?」
「要請が掛かったので、プテラノドンっていう空飛ぶ召喚獣に乗って急いでここに来たんです」
「やはりお2人にも声が掛かっていましたか」
「栄誉魔術師が3人も...ってことはレドバドさんとバトリーさんにも声が?」
「おそらく。でもバトリーさんは応じないでしょうね」
リスキーとハッチが話している横で、トーチはヤブラに小さい声で質問する。
「栄誉魔術師って何?」
「簡単に言えば実績を残した強い魔術師のこと。今は私とトーチとレドバドさん、ハッチさん、バトリーさんの5人だけ」
「なるほど。ありがと」
トーチは小さく感謝の言葉を述べた。
「ニワーカーブの西部は住民の避難は終わったけど見ての通り町は壊滅。東部は全く分からない。分かってることは昨日召喚された3体の召喚獣がまだ残ってることと、ムィレフがさっきまで西部にいたこと」
「トーチさんとヤブラさんは私と一緒にムィレフの元へ。リスキーさんには東部の人達の避難と護衛を任せてもいいですか?」
「分かりました。ご武運を」
そう言ってリスキーは、強化魔法を使い風を切るようにしてニワーカーブの東部へと向かう。
「それでは私達も行きましょう」
「あれは?」
ヤブラが指差す方向には、1頭のサーベルタイガーがいた。
サーベルタイガーは3人の様子を伺っている。
「ムィレフという魔族が出した召喚獣です。あそこにいるの以外にあと2頭います」
「サーベルタイガーがあと2頭も...」
そう言いながらトーチはサーベルタイガーを見つめる。
「召喚獣は召喚師を殺しても召喚時に使用された魔力量が尽きるまでは動き続けます。いずれは消えますが、倒せるようだったら片っ端から倒してください。これ以上の被害は見たくない」
「ならここは私が」
「では任せます」
ハッチはそう言い残し、先程来た道を凄まじい速さで戻っていく。
そこに、もう1頭のサーベルタイガーがやって来る。
それでもヤブラの表情は変わらない。
「これくらいなんの問題もない」
ヤブラはトーチに向かって少し笑みを浮かべながらそう伝えた。
トーチはプテラノドンを召喚し、上空からハッチの背を追いかける。




