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恐竜の召喚師  作者: 南雲一途
第二章 剣
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第17話 Sword

「君がトーチ君?」


 肩まである長い髪の男が話しかけてきた。

 右手に2本の木の剣を持っている。


「はい、そうです」


「僕はプルガー・パラディース。レドバドさんとオーネスさんから君に剣術を教えるよう頼まれた。よろしく」


「よろしくお願いします」


 物腰の柔らかい人だ。それに思っていたよりもかなり若い。リスキーさんと同じくらいの歳だろうか。

 急にオーネスさんに呼び出され、剣術を教えてもらうことになった時からどんな怖い人が来るのだろうと身構えていたが、その心配の必要はなさそうだ。


「今日のことオーネスさんからなんか聞いてる?」


「いや、中庭で待てとしか...」


「そっか。それじゃ早速始めるけど、まず君の腰の刀を置いて、この木の剣を持って」


 腰の刀を城の壁に立てかけ、プルガーさんから木の剣を受け取る。

 手渡された木の剣は、想像していたよりもずっと重い。


「取り敢えず僕に攻撃を当てて。実戦だと思って。遠慮なく攻撃してくれていいから」


「わ、分かりました」


 遠慮なくって言われても...。


 プルガーさんは右手で剣を握り直した。

 動作が美しい。

 ただ木の剣を右手で持ち直し、剣先を地面に向けながら突っ立っているだけ。

 それたけで、剣術の素人である自分でもプルガーさんが実力者だということが理解できる。


 俺は木の剣を両手で構え、プルガーさんに剣先を向けた。


「どうぞ」


 プルガーさんの言葉を合図に、俺はただ棒のように突っ立っているプルガーさん目掛け、速さを意識しながら力一杯剣を振り下ろした。


 ガチンッ


 どこからともなく現れたプルガーさんの剣に攻撃を弾かれた。


 なんというか重かった。

 手が痺れるように痛い。


 こっちは両手だぞ?

 体格も筋骨隆々とかそういう感じには見えないのに、片手で剣を弾く?

 冗談じゃない。


「強化魔法使わないの?」


「強化魔法?」


「あ、記憶無くしてるんだっけ。あの、あれだよ。力を底上げする魔法」


 そう言いながら、プルガーさんは地面に手のひらくらいの魔法陣を映し出した。


「これが強化魔法の魔法陣ですか?」


「そうだよ」


「さっきはこれを使いながら片手で剣を弾いたってことですか?」


「いやさっきのは使ってない」


 嘘でも使ってたって言って欲しかったな。


「まぁまずは強化魔法を覚えて、後は実戦あるのみだね」


「力をつける訓練とかはしなくていいんですか?」


「トーチ君は魔力があるから鍛える必要ないよ。それに強化魔法を使ってても力は自然に付くし。まずは強化魔法を覚えれば良いと思うよ」


「なるほど。それであの魔法陣ってどう使うんです?」


「どう使うって?」


「あの魔法陣を出すだけで力が強化されるんですか?」


「あぁそういうことか。ちょっと他の魔法と違うんだけど、さっきの魔法陣を体に張り巡らせる感じで使う」


「め、巡らせる?魔法陣をですか?」


「そうそう。細かい魔法陣を体の中にたくさん作る感じって言えばいいのかなぁ。強化魔法の効果はその魔法陣の量で決まるんだよね」


 特殊だ。

 全く想像がつかない。


「まずは足の中にこの魔法陣を作って飛び跳ねてみて」


「足って、足全体ですか?」


「そうそう」


 言われた通りさっき見た魔法陣を思い出し、両足の腿と脹ら脛に魔法陣を作る。合計で4つだ。


 魔法陣の模様は召喚魔法のと比べればかなり簡単だけど、何個も作るとなると4個くらいが限界。


 自分の足を見ると、魔法陣を両足の作った腿と脹ら脛がうっすら光っている。体の中から光っているので血管が見える。


「それで魔法陣に魔力を込めて、飛び跳ねる瞬間に魔法を使う。魔法陣が破裂するようなイメージ」


 プルガーさんにそう言われ、魔法陣に魔力を流し、魔法陣を破裂させるイメージで力一杯ジャンプした。


 ...ん?


 そして、すぐに地面に着地した。


 ...ん?

 高く跳べた...のか?

 ただ力一杯ジャンプしただけにしか感じなかったけど。

 なんか思ってたのと違う。


「できてる!」


「え?」


 何ができたんだ?

 ただその場でジャンプしただけなんだけど。

 飛び跳ねることを覚えたばかりの子供じゃないし。


「今のが強化魔法。今のよりももっと小さい魔法陣をもっと大量に作ってさっきみたいにやれば、見て分かるくらいの効果が出る」


「4個じゃ駄目ってことですか?」


「駄目ってわけじゃないけどほとんど効果は無いよね。数えたことないから詳しい数字は分からないけど、数十から数百くらいないと効果ないかな」


「数百ですか...」


 慣れるしかないな。




 ーーー




「相変わらず光ってるなぁ」


 座り込んでいるプルガーさんがそう呟く。


 自分の両足が内側から光り、血管がよく見える。なんか不気味だ。

 魔法陣の光は白いが、体に流れる血のせいで足が赤く光っている。

 でもこれは無数の魔法陣を足の中に作れている証拠。

 俺は足の中に作ったたくさんの魔法陣を破裂させながらその場で思いっきりジャンプした。


「おぉ」


 プルガーさんの口から感嘆の声が出た。


 高い!

 自分の身長を軽々越すくらいは高く跳べている。

 ここ3日間で1番高く跳べた。


「良いじゃん!」


「ありがとうございます!」


「後はそれを瞬時にできるようにするのと、足だけじゃなくて体全体で使えるようになれば完璧。それより足、筋肉痛になってるんじゃない?ほら、座りなよ」


「すみません」


 俺はプルガーさんの隣に座って足を休める。

 プルガーさんが言うように俺は筋肉痛になっていた。

 まぁ3日間ずっと飛び跳ねてれば筋肉痛にくらいなる。

 それを察してくれるプルガーさんは本当に優しい人だ。


「すごいね、いつも黙々と練習して」


「そうですか?」


「文句の一つも言わないし。嫌じゃないの?」


「嫌じゃないですよ。魔法を少しずつ覚えていく感じはすごい新鮮です」


「新鮮かぁ」


 転生した俺からすれば魔法なんて夢物語の世界だ。

 でも、元々この世界で生まれていたら魔法が日常的に思えて練習とかもつまらなく感じてたのかな。

 いや、この世界に生まれてなくても、いつかは魔法が当たり前に感じて何とも思わなくなるのかもしれないか。

 でも今のところ、当分はそんなことを思いそうにない。


「プルガーさんは魔法の練習は嫌なんですか?」


「好きではないよ。でも戦わなきゃならないから」


 大人な考え方だ。


「君も戦うのは好きじゃなさそうだけど」


「そうですね。魔法は好きですけど戦いは...」


「じゃあ辛いね。戦いから逃れられない人生は」


「僕がですか?」


「え?...本気で言ってる?」


 プルガーさんがわざとらしく眉に皺を寄せた。

 少し口元はにやけている。


「え?」


「桁外れの魔力を持って、召喚魔法が使えて、おまけに今は国の英雄。嫌でも戦うことになるでしょ」


 たしかにそうだ。

 ...そう、だよな。


「ま、逃げ出したいんなら逃げちゃえば?」


「え?」


「戦う理由があるなら仕方ないけど。記憶もないんでしょ?自由に生きるなら今のうちだよ」


 たしかに俺はもうこの世界のことが全く分からないわけではない。

 この世界で生きるためにもうヤブラと一緒にいる必要もたしかにない。

 でも、どこに行けばいいんだ?

 戦いたいわけではないけど、今ここにいるのが最善な気がする。


「でも行く場所もないですし...。今楽しいですから」


 プルガーさんは少しの間黙ってから、優しく笑って答えた。


「それならいいね」


 そう言うと、プルガーさんは立ち上がった。


「じゃ、明日からは剣を持とうか。強化魔法を体全体に使うことを意識しながら、戦いに慣れてこう」


「はい!」




 ーーー




「一旦やめにしよ」


「はぁ...はい...」


 どれだけの時間剣を振ってたんだ?

 かなりしんどい。

 でもプルガーさんは全然疲れてなさそうだな...。


「強化魔法がまだ固いね」


 俺は息を整えてから質問した。


「固いってどういうことですか?」


「今、トーチ君は腕だけにしか強化魔法を使えてないから動きが固いんだよ。剣を振るのに使うのは腕だけじゃあないでしょ?だから体全体に魔法陣を作って体全体を強化する。意識だけしてみて」


 強化魔法で体全体を強化しながら戦うのか。

 ということは体全体に魔法陣を作るってこと?

 頭がこんがらがる。


「いきなり魔法陣を作りながら戦うのは大変だよね。でも後は慣れだけだから」


「体全体、慣れ、ですね。分かりました」


 本当に分かったか?俺。

 久々に疲れてるなぁ。

 でも全力で体を動かすのも悪くない。


 体の中にたくさんの強化魔法の魔法陣をイメージし、体中に作る。

 体全体に...。

 張り巡らせるように...。


「体全体に魔法陣を作っても力んでたら動きが固いのは治らないよ。魔法陣を作るだけ。力は抜いて」


 プルガーさんの言葉を聞き、俺は深呼吸をした。

 ふと空を見上げてみる。

 青空だ。

 火照った体にそよ風が当たる。

 気持ちがいい。

 何やってんだっけ。

 あ、魔法陣体中に作ってんだ。

 あぁかなり疲れてるな。

 でも清々しいや。


 視線を空から戻すと、プルガーさんが微笑んでいた。


「できてたよ。体が光ってた。光ってると分かりやすくていいね」


「こんな感じでいいんですか?」


「完璧。自然な感じで良かった。その感覚だよ」


 この感覚か。

 大切なのはリラックスか。


「自分だけでも強化魔法の練習してるでしょ」


「え?」


「練習を苦に思わないってすごいね。飲み込みも早い」


 プルガーさんは微笑みながらそう言った。


「ありがとうございます」


 たしかに強化魔法の練習を苦に思ってないな。

 それだけのことだけで、俺でも早く上達できることがあるのか。


「ここまでできるようになったら、後はどれだけ使いこなすかだけだね」


「使いこなす、ですか」


「動きや用途に合わせて破裂させる魔法陣の数をコントロールしたり、強化魔法を使っている時は、常に体中が魔法陣で満たされるよう維持したり、強化魔法を使って消費した分の魔法陣をすぐに補充したり。理想は強化魔法を使っている間、今言ったこと全てを無意識に行える状態」


「難しいですね」


「まぁね。でも意識さえしていればいつの間にできるようになってるから」


「ずっと体が光ってるってことですか?」


「...」


 プルガーさんが無言で素早く数回瞬きをした。


「いや光らなくても平気だよ」


「え?」


 体には常に魔導陣があるようにするのに光る必要がない?

 わけが分からない。


「いや、もちろん光りたかったら光ってていいけど」


「いや、光りたくないです」


「なら光らなくて大丈夫」


「え?」


「え?」


「光らずにどうやって魔法陣を体の中に維持するんですか?」


「え?...ん?」


 プルガーさんの眉間に皺が寄る。


「あっ!もしかして魔法陣を光らなくさせられるって記憶もない?」


「光らないようにできるんですか!?」


「うん、できる」


「どうやって!?」


「無駄な魔力を使わないように、使う魔力を最小限に抑える」


「それだけですか?」


「それだけ」


「これはどうです」


「どうって何が?」


「今、僕の体の中に魔法陣があるはずなんですけど」


「いや、分からないよ光ってないから」


「光らないと魔法を使ってるかどうかって分からないんですか?」


「分からない」


「魔法陣の魔力を感じたりは」


「魔法陣にした時点で魔力は魔法になってるから感じ取れないよ。っていうか強化魔法ができてるかどうかを分かりやすくするために魔法陣を光らせてたんじゃないの?」


「いや光っちゃってただけです」


「あ、光っちゃってたんだ。記憶が無くなるって大変だね」


「今教えてもらったのってそんな当たり前なことなんですか?」


「子供でも知ってるし、できる」


「......記憶喪失って怖いですね」


「怖いね」




 ーーー




 プルガーさんに向かってひたすら木の剣を振る。

 プルガーさんはそれを難なくいなす。

 最近覚えたばかりの強化魔法をすぐに使いこなせはしない。

 プルガーさんだってそんなことは分かってる。

 仕方ない。後は慣れるしかないのだから。

 でも今は強化魔法については完全に忘れる。

 プルガーさんの剣は重いし速い。

 他のことを考える余裕もない。

 少しずつプルガーさんの動きに目が慣れ、攻撃にも反応できるようになってきた。

 プルガーさんが片手で振る剣に合わせ、こちらも剣を振り当てる。

 でも、腕はビリビリするし手のひらは痛い。


「もっと柔軟に」


 俺の攻撃を捌きながらプルガーさんが話し始めた。


「柔軟?」


「剣で切ることに執着しすぎ。もっと剣の見方を変えなくちゃ」


 プルガーさんは話を続けるが、お互いに攻撃を止めることはない。


「剣は敵を傷つけるための危険な武器に見える一方で、見方を変えれば攻撃から自らを守るための武器でもある。その性質は全く違うように見えるけど、どちらも剣であることに変わりはない」


「なるほど!」


 つい言葉にも力が入る。

 プルガーさんは余裕そうだ。


「トーチ君は僕が振った剣にわざわざ剣をぶつけるようにして攻撃を防いでる」


 次の瞬間、プルガーさんが攻撃を仕掛けてきた。

 プルガーさんの剣を振りを見て、その剣にぶつけるようにして攻撃を防ぐ。


「ほら、今も」


 たしかにその通りだ。


「別に間違ってるわけじゃない。ただ、君は攻撃的すぎる。守りの側面も引き出せればもっといい。相手を斬るだけが剣じゃない。敵の攻撃を剣で受け止め受け流すのも剣の使い方の一つ。君が持ってる刀ってのは特にそれに長けてる」


 そう言いながらプルガーさんは俺の攻撃に真っ向から剣をぶつけることなく、剣で攻撃を受け流す。


 なるほど。

 たしかに剣に剣をぶつけることばかり意識してた。


「敵を斬る時は、迷いなく自らの意思で剣を振る」


 ガチンッ


 かなり重い攻撃だ。

 その衝撃が剣から手のひら、そして腕まで伝わってくる。

 剣を持ってる手が痛い。


 俺は攻撃を防いだ後、反撃に転じる。


「自分を守る時は自分の頭を空にし、敵の動きの流れに敢えて身を任せる。敵の呼吸に合わせるように」


 プルガーさんは攻撃を避けたり、受け流したりを繰り返す。

 まるで音楽に合わせて踊りを踊るように軽々と。


「まずは剣で攻撃されることの恐怖心を無くすところからだね」


「恐怖心、ですか!」


 返答する余裕なんてこっちにはない。

 口からでる言葉にも常に力が入る。


 プルガーさんの攻撃が激しくなった。

 反撃する余地がない。


「攻撃的になる理由も色々あるが、その1つに恐怖心がある。攻撃をしている間は自分が攻撃しているから攻撃はされないって安心できるんだよ。攻撃は最大の防御とも言うし」


「たしかに」


「でもそれじゃあ余裕がない。余裕がないのは戦いにおいて致命的。常に余裕を持ち、時に相手のペースに合わせながら」


 そう言ってプルガーさんはいきなり攻撃を止めた。

 そして、その瞬間俺は反撃に出る。


「隙を突く」


 しかし、俺の反撃は読まれており、プルガーさんは攻撃を躱したのと同時に俺の首元に木の剣を当てた。


「まぁ戦いの最中に余裕を持てるのは強者の特権だけどね。君はそっち側だからもっと余裕を持っていい」


 プルガーさんはそう言って剣を下ろした。


「今更だけど、剣を学ぶ理由を聞いても?」


「理由ですか?」


 なんか俺、試されてるのかな。

 まぁなんにせよ正直に答えておこう。


「僕は召喚魔法しか使えなくて、相手に近付かれると何もできないんです。それを見たレドバドさんが自分の身を守るためにも剣術を学んだ方がいいって。まぁ僕が直接言われたんじゃなくて、オーネスさんからそれを聞いたんですけどね」


「あの人は忙しいからね」


「みたいですね」

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