第16話 死の魔女
英雄が使っていたとされる剣。
それは数多の栄光と勝利を象徴した誰もが憧れる宝だろうか。
それとも数多の命を手にかけた罪を象徴する英雄の隠すべき汚点だろうか。
そもそもその剣は本物か否か。
答えはあまりにも単純だ。
見た目で決まる。
気がつくと、冷たい石の床の上に倒れ込んでいた。
爆発に巻き込まれたせいだ。
私は立ち上がって爆発が起きた方を向くと、そこにはトーチが立っていた。
召喚魔法の登場により、死霊使いの時代は終わりを迎えた。
理由は単純、死体では召喚獣に太刀打ちできない。
死霊使いは死者の体を操っているだけにすぎず、召喚獣に死体を壊されては為す術がない。
難しい術を使って死体を操るよりも、召喚獣に直接魔法をぶつける方が効果的だと分かると死霊使いは激減。私が死霊使いになる頃には死霊使いを目指す人などもう誰もおらず、私以外の死霊使いはみんな高齢の魔術師だった。
そんな不遇の時代になっても、死霊使いとして立場を築いてきた魔術師達は死霊使い続けた。
私は魔力量のせいでこれ以外の道が無かっただけ。充分な魔力を持っていたなら死霊使いなど選びはしない。
死霊使いは衰退の一途を辿り、完全に落ちぶれてしまっていた。
そんな死霊使いの元権力者達は自分達の立場を守るため、死霊使いの復権のため、召喚師への対抗策を考えた。
金属で人骨を作る。これもその中の一つだ。
召喚獣に何度形を崩されても壊れることはなく、魔法で骨の操作さえできれば何度でも兵士として動かせる。
召喚獣と張り合うには良い案だった。
しかし、費用の問題で大量生産は叶わず、金属の骨はロンカ霊廟にだけ配備されただけ。
結果は死霊使いの復権には程遠かった。
追い詰められた死霊使い達は、魔法の研究に懸けることになる。
召喚獣には物理的な攻撃より魔法による攻撃が効果的。
そうなると、死体を操り攻撃するより、魔力消費の激しい強い魔法攻撃に軍配が上がる。
しかし、この時もまだ死霊使いを突き通している者達にそんな恵まれた魔力量はない。それだけの魔力を持っているのなら、とうの昔に死霊使いを辞めている。
そもそも、死霊使いが普通の魔法を使っては死霊使いの名誉挽回にはならない。
そんな八方塞がりの中、1人の死霊使いがある仮説を立てた。
死者を蘇らせ、その死者の魔力で魔法を使うことができたら...
魔力で魔力を作り出すことはできない。
これが理由で、魔力を持つという性質を持ったヒトという生物を再現することができず、召喚師が持つ実物のイメージをそのまま再現しなければならない召喚魔法ではヒトを召喚することができない。
死者を復活させることができ、その魔力で魔法を使えるのならば、死霊使いとして召喚師と対等に戦えるかもしれない。
そもそも、死者を蘇らせるということ自体が奇跡。
死者の魔力がどうこうなどは関係なく、死者を蘇らせることができるという唯一無二の役職として死霊使いの価値が上がるに違いない。
死霊使い達は死者を蘇らせる魔法の研究に没頭した。
しかし、死霊使いは結局のところ死体を魔力で操作しているだけ。
この操作をするために緻密な魔力の操作と様々な種類の魔法を使っているだけで、死者の魂を使って動かしているとか、死体に新しい魂を憑依させているとかではない。
死霊使いと呼ばれていても死者の召喚魔法なんてものに全く理解はないただの魔術師。
完全に未知の魔法陣を、何人もの死霊使いの魔力を使って組み上げるなんてことは、子供の魔法遊びとさして変わらない。
何も考えずに魔法陣を組んでも、もちろん魔法が発動することはない。
なんの進展もないまま、夜が何度も訪れては去っていく。
しかしある時、そこに1人の男が現れて事態は動き始める。
三十代と見られる比較的若い死霊使い。
魔法が好きで、死霊使いの術に興味があったというだけで死霊使いにもなったかなりの変わり者。
その男が中心となって大きな魔法陣を組み立て、私を含めた死霊使い達はロンカ霊廟で死者の召喚を試みることになる。
私は隠居しているおばさん以外の死霊使い達とほとんど面識がなかったが、死霊使いの行く末が懸かっているからという理由で呼ばれ、一応手伝いに霊廟へ向かった。
全員で魔力を魔法陣に流し込み、数十人分の莫大な魔力で魔法陣を展開。
次第に魔法陣はこの世のものとは思えないほど眩しい光を放ち始めると、魔法陣は暴走した。
幾重にもなった魔法陣が霊廟を傷つける中、高名な死霊使いが1人、また1人と姿を消したのを私はこの目ではっきりと見た。
そして、爆発が起きた。
私が起き上がると、魔法陣の中心部だった場所にはトーチが立っていた。
周りを見渡すと、何十人もいた死霊使い達の姿は消えており、残された衣服だけが爆風で散乱していた。
生き残りは私だけ。
そして、目の前には桁外れの魔力を放っているトーチ。
私は固まって動けなかった。
トーチはその場から走り去ろうとしたその時、彼の頭上に瓦礫が落ちてきた。
私は思わず残りの魔力を振り絞ってトーチに風魔法をぶつけた。
幸いトーチに瓦礫がぶつかることはなかった。
私は倒れたトーチを肩に担ぎ、おばさんの家へと戻った。
トーチは今時珍しい優しくて良い人間だ。
他の世界から来たという話は本当なのかもしれないほどに。
私がありのままを話せば、自分のせいで大勢の命が消えたことを悔やむだろう。
私は彼を利用しているが、彼を困らせたいわけでも不幸にしたいわけでもない。
ただ、私には魔力も地位もなく、おまけに女だ。彼を利用する他に一人前の魔術師になる道がない。だから利用する。
彼からすれば、私は魔女といったところだろう。
ただ、私には分からない。
あの時、なぜ彼を助けたのか。
並外れた魔力を垂れ流す彼を私は充分警戒していた。
優しさ?甘さ?それとも私は本気で最初から彼を利用できると思っていたのだろうか。
私程度の少量の魔力で、召喚されたトーチが私の命令を忠実に聞くと本気で思っていたのだろうか。
どんな理由だったにせよ、こんなことを考える必要がないことだけは分かっている。
真実に意味なんてない。
重要なのはどう見られ、どう見えているのかだ。




