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恐竜の召喚師  作者: 南雲一途
第一章 兎角亀毛
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第15話 栄光に包まれて

 回復術師の治療によりトーチの傷は完治、式典は通常通り行われた。


 ロンカ霊廟で魔族を退けた4人の内の1人として、今まで無名同然だったヤブラの名前は瞬く間に広まる。

 しかし、ヤブラの名前を国民の頭から追い出す勢いでトーチの名前が広まった。

 マーロン王国2人目の召喚師、ロンカ霊猫の一件、前日の魔族襲撃を犠牲者無しで収めた功績、そのどれもが英雄と呼ばれるにふさわしいものばかり。

 マーロン王国は新たな英雄の誕生に盛り上がった。

 しかし、魔術院の魔術師に休む暇はない。


「もう行くのか?」


 王都リマウンクージュの中心に聳え立つ城、リマウンクー城。その中庭が見える廊下で、オーネスはレドバドを呼び止めた。

 レドバドは振り向いてから喋り始める。


「理由もなくここに長居はできないでしょう」


「見張り役だろう?お前がいなきゃ誰があのトーチを止められるんだ?」


「彼は今日から歴としたこの国の魔術師。もう見張る必要はないでしょう。では」


 そう言ってもう歩き始めようとしたレドバドを見て、オーネスはため息を吐いた。


「あのマドロを捕まえたって言うのにもう仕事か?せめて今夜のパーティくらいは...」


「マドロ?昨日の魔族の名前ですか?」


 マドロという名前に引っかかったレドバドがオーネスの話を遮る。


「あぁ。マドロ・イニツリ。そっちの界隈じゃ有名人だ。知らないのか?」


「戦場じゃ常に戦場の情報しか入ってこないですから。それでは失礼します」


 オーネスはまた大きく溜め息を吐きながらレドバドを見送った。




 ーーー




 リウマンクー城の大広間までの廊下は大きくて広い。

 天井が高いとやっぱり特別な場所にいる感じがする。


「トーチ・アザーレ。良い響きじゃない?」


 ヤブラの表情が読めるようになってきた今なら分かる。

 今のヤブラは上機嫌に違いない。

 周りから見れば、ほんの少し微笑んでるようにしか見えないだろうけど...。


「揶揄ってる?」


 俺は笑顔でそう言い返すと、ヤブラは軽く口角を上げて小さく笑った。

 本当に小さく。


「なんでヤブラは名字がもらえなかったの?」


死霊使い(ネクロマンサー)は名字を持たないから」


「え、そうなの?」


「国のために尽くすことの証明として、死霊使いになる時に名字を捨てるのが決まり」


「魔術師とか召喚師はいいんだ」


「昔は死霊使い1人で戦局が変わるような時代だったから。召喚師はまだ数も少ないしよく分からない」


「へぇ」


 たしかに霊廟にいた魔族の死霊使い1人に苦戦させられたし、その状況をひっくり返したのも死霊使いのレドバドさんだもんな。


「じゃあヤブラは名字の代わりに何を貰ったの?」


「魔術院の魔術師になった。見てなかったの?」


「いや、緊張してそれどころじゃなくて...」


 俺は苦笑いしながら、人差し指で頭を掻いた。


「そんなにすごいの?魔術院の魔術師になるって」


「かなり。普通に暮らしてたんじゃまずなれない。まぁ私の場合はちょっと特別な理由でだけどね」


「特別?」


「最近魔術院から大勢の死霊使いが消えて、私はその空席になった死霊使いの枠で任命された。霊廟の褒賞と結びつけて」


「なるほどね。でもヤブラはよく普段通りでいられるね。あんなに有名になったのに」


「私だって有名になるのは嫌。でもやっと一人前の魔術師になれたし、トーチのおかげでそこまで目立たなかったしね」


 ヤブラが俺の方を向いてくる。

 やめて欲しい。


「それより、貴方こそ大丈夫なの?あんなに大々的に召喚師になっちゃって」


「別にそんな問題ないでしょ。元々召喚師になるのが目的だったわけだし。まぁだいぶ想像を超えてたけど、これでこの世界でも暮らしていけるようになったからね」


 ヤブラが黙ってこっちを見てくる。


「え?」


「別に」


「いや、今のは絶対なんかあった」


「馬鹿にしてただけでしょ。まさか本当に言う通りにするなんて思わなかったから」


「それは、それ以外方法がなかったからで...。でももうあれか、ヤブラは俺を利用して魔術院の魔術師になれて、俺は召喚師になって生活できるようになったから、もう契約解消か」


 少し寂しいな。


「いや、まだ利用させてもらうけど」


「...え?」


「え?」


 利用されるなんてたまったものじゃないが、悪い気は全くしなかった。

 よく考えてみれば、今まで利用されたというよりも助けてもらってばかりだったし。

 それに楽しかった。


「ほら、エスコートして」


「え、何?エスコート?」


「右腕曲げて」


「こう?」


 直角に曲げた右腕に、ヤブラが腕を絡めてきた。

 急にドキドキする。


「えっ、何?」


「男がエスコートするのはマナーでしょ」


 あ、恋人のふりは続くのか。

 パーティだもんな。

 そういう格式があるようなのはやっぱり緊張するな。

 前はそういうのと無縁の生活だったし。

 今、隣にいるヤブラがドレスを着ているのもなんか非現実的な感じがする。

 それに、今回集まるのは国の要人ばかり。

 そんなところに俺が出席するなんて...。


 大広間に着くと、パーティが始まっていた。

 人の数がとにかく多い。

 道化師のような者がいたり旅芸人のような人もいる。

 圧巻だ。


 改めてこの世界に来れて良かったと思う。

 ここは前の世界に負けず劣らず分からないことだらけだけど、確信できることが一つある。

 この世界では人が生きている。

 生きてるって言うと変だけど、ここではそんな風に感じてならない。

 王都を歩いていた時も思ったけど、そんな気がする。

 何でそんな気がするのかはよく分からない。


 大広間は、夕暮れ時にも関わらず昼間と変わらないような明るさ。

 至る所で蝋燭が灯り、天井にはシャンデリアがある。

 火がついた蝋燭が何十本も立てられた本物のシャンデリア。

 き、緊張してきた...。

 大広間に入ると、視線が一気に自分に集まった。

 俺は夜まで持つだろうか。


「おぉ、やっと来たか」


「オーネスさん!」


 知ってる人がいるとちょっとホッとする。

 ほんのちょっとだけだけど。




 ーーー




 最初こそオーネスと一緒に行動していたトーチだったが、国の魔術師や貴族達に揉みくちゃにされながら、次第に壁の方へと逃げていた。

 そんなトーチに最初に声をかけたのはリスキーだ。


「おい大丈夫か?まぁ知らない人ばっかりだもんな」


「いや僕は元気ですよ。このお城すごい綺麗だなぁって。キント城も綺麗でしたけど」


「滝の町は行ったことは?」


「滝の町?ないです」


「あそこの城はすごいぞ。城の中で水が湧き出ててるし、すげえ綺麗なんだよ。ホワイトキャッスルって呼ばれてる」


「へぇ。行ってみたいなぁ。白いんですか?」


「いや、別に」


「え...」


 トーチの頭に疑問符が浮かぶ。


「リスキーさんは魔術院繋がりでここに?」


「もちろん。魔術院の人はほとんど来てる」


「レドバドさんとハッチさんは?」


「2人共忙しいんだよ。本当尊敬するね」


「なるほど」


「ま、無理はするなよ」


 そう言ってリスキーは盛り上がっている人の輪に臆することなく入っていく。


「ありがとうございます」


 リスキーは手を軽く振って応えた。


 トーチは2杯目のワインを持ち、壁に寄りかかりながら周りを見ていた。

 オーネスの周りでは落ち着いた雰囲気の人が集まり、難しそうな話をしながら酒を飲んでいる。

 ヤブラは特にいつもと変わらない様子で周りを見ながら上手く他人の会話に合わせいた。

 視線を感じたヤブラは壁の隅にいるトーチの様子を見て、馬鹿にするようにほんの少しだけ笑った。

 トーチもそれには苦笑いだ。


「おいおい、今日の主役がこんなところで何してる?」


 トーチは声のする方を向くと、そこにはパンを齧っている白髪の老人がいた。

 背筋はしっかりと伸び、逆立ちや全力疾走も難なくできそうな立ち姿。老人なのは間違いないが、その姿はあまりにも若く見える。


「え?」


 顔がはっきりと分かるのは今回が初めてだが、その声でトーチはこの男が悪魔だと分かった。

 トーチは困惑した。悪魔と呼んでいた男が城のパーティにいることに。


「いやぁやっぱ城の飯は美味い。味付けが違う」


 トーチの目には警戒心と困惑が入り混じっている。


「まだそんなこと気にしてんのか?何者かは関係ないって言っただろ。悪魔でいい」


「は?」


「だから隠す必要は無いって言っただろ?お前さんの頭の中は筒抜けなんだから。いいか?大切なのはお前さんが何を思い、どうするかだ?」


「え?」


「今、お前さんが目立たないでどうする?別に疲れているわけじゃないだろう?知らない人ばかりだから気を遣ってここにいるだけ。そんなこと気にするな。今はここにいる誰もがお前さんに気を遣う。気にせず行け、お前さんはそれだけのことをした。栄光を噛み締めろ」


 悪魔はそう言ってトーチの背中を力強く押した。

 ヤブラとリスキーは歓迎する様子でトーチを待っている。

 トーチは人の輪に引き込まれるように歩き出す。

 オーネスは少し遠くからその姿を微笑んで見守り、悪魔は少し暗い壁際からそれを眺める。

 トーチは盛り上がる人だかりと広間の明かりの中に消えていく。

 名声に包まれながら。

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