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恐竜の召喚師  作者: 南雲一途
第一章 兎角亀毛
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第11話 死霊使いの聖地

 砂埃が落ち着き始め、段々と崩れた建物の残骸が見え始める。

 その瓦礫の上には一つの人影がある。

 青年だ。

 お世辞にも綺麗だとは言えないような服装の青年。

 老人ではない。

 夜、キントの城で話かけてきた奴とは違う。


 青年は凄まじい存在感を放っていた。

 おそらく魔力だ。

 魔力のコントロールができるようになったおかげで、他人が出す魔力を感じられるのだろう。


 青年がこちらに顔を向けてきた。


 肌は薄いピンク色。真っ黒で乱雑に伸びた髪は、水に濡れているかのようにウェーブがかかっている。

 長い前髪の間から見える目は、白目であるはずの部分が黒く、黒目の部分が黄色い。

 魔族だ。

 魔族については詳しく知らないが、この青年こそが魔族だろう。


 青年は瓦礫の上から歩きづらそうに下り、瓦礫から飛び降りた。そのまま青年はこちらに近付いてくる。


「いやぁすみません!」


 魔族の青年は、その暗そうな雰囲気からは想像できないほど溌剌とした声で話しかけてきた。


 予想外の言葉だ。

 それに軽い。

 すみません?

 簡単な言葉で片付く問題なのか?


 この世界の常識がまだ掴みきれない俺は、ヤブラとハッチさんの返答を待つ。


「貴方、キントにも居ましたね?」


 魔族は少し考えてから口を開く。


「淫らな町のことですか?それならいましたね」


 やけに礼儀正しい。

 キントは淫らな町なんて呼ばれ方をしているのか。

 そういえば、まだ町はちゃんと見たことがない。

 まぁシュブルの城があるような町だ、想像はつく。


「名前は?」


 ハッチさんの質問に魔族は迷うことなく答える。


「ハムサ・サンクエルです」


 何も隠そうとしない。

 良い人とそうとすら思えてくる。

 前髪と、その前髪から見える目が怖いけど...。


「私が彼を知らないとでも?」


「こう見えて僕は5属性の魔法を使えるんですよ?五属性の魔術師ハムサ・サンクエルとは僕のことだと思うんですけど...。違いました?」


「真面目に名乗るつもりがないなら着いて来てください。話を聞かせてもらいます」


「知らない人には着いて行っちゃ駄目なんですよ?ハッチさぁん。子供にちゃんと教育してないんですかぁ?」


 空気が変わった。

 明るかった話の空気がどっしりと重くなる。


「...なら、ここで話を聞きましょう。何をしてたんです?」


「ここには盗みに。でも思うようにいかなくて...。壊しちゃったのは本当にすみません。じゃ」


「話はまだ終わっていません」


 立ち去ろうとした魔族が立ち止まる。


「そもそも話す話さない関係なく僕を捕まえる気でしょ?それくらい馬鹿な僕でも分かりますよ。もう逃げなきゃ」


「逃げる?」


「そりゃ逃げますよ。捕まるのは嫌ですから。僕は自分の心に素直なんです。馬鹿は自分に嘘をつけないってね。それじゃ」


「そんな理由で私が逃がすと?」


「僕にも分かるように言ってくださいよ。聞き流すんで」


 魔族の話す言葉は掴みどころがないというか、不真面目というか...。

 ただ、魔族は1人でこちらは3人いるのに焦っている素振りがない。

 只者ではないことだけは分かる。


 ハッチさんは満面の笑顔になって答える。


「面白い」


 その瞬間、鳥肌が立った。

 隣にいるハッチさんから強い魔力を感じたのだ。

 何が面白いのかは全く分からないが...。


「想定外も!緊急事態も!異常事態も!!!

 すべて私の大好物!!!!!」


 初めて聞いたよ、そんな大好物のラインナップ。

 戦いになるとハイになるのか、ハッチさん。

 いつもの雰囲気と違いすぎて怖い。


「始めましょう!」


「始めません」


 魔族の青年が首を横に振りながら早口でそう言った。

 どう見ても悪役はハッチさんだ。

 狂ってて怖い。


 魔族はハッチさんから目を逸らすことなくゆっくりと後退りして距離を取る。


 ハッチさんは服の内側から取り出した金色のナイフを数本宙に放って投げ捨てる。


「働き蜂は働いてなんぼ!!!」


 そう叫んだハッチさんは右手の指を鳴らした。


「そうでしょう?」


 ハッチさんがそう言いながらニヤッと怪しく笑った。

 すると、突然ハッチさんの周りにミツバチの大群が現れる。

 クマバチとは違い、大きさはミツバチそのものだ。

 たくさんのミツバチの羽音が不気味で不快な音を出している。

 威嚇しているのだ、魔族を。


 その時、墓荒らしをしていた少年が逃げ出した。それを魔族は見逃さない。


 魔族は墓荒らしの少年がいる方の手、左手を少年に向ける。

 すると、ボッという低い大きな音と共に少年が魔族の元へ飛ばされた。

 風魔法だ。

 逃げる少年の前で風魔法を発動し、その風圧で少年が飛ばされたのだろう。


 魔族は、自分の元に背中側から飛んできた少年を受け止め、右腕で首を絞めると、こちら側に向き直した。

 それと同時に腰の辺りから出した短刀を左手で持ち、青年の首元に当てる。

 人質だ。


「召喚した蜂、消して欲しいんですけど...。お願いできません?」


 ハッチさんは黙ってまた指を鳴らす。


八連金(はちれんきん)


 ハッチさんがそう呟くと、一瞬で全てのミツバチが消えた。

 しかし、魔族は突然少年を解放して後ろへ飛び退く。

 その瞬間、右下から4本、左下から4本の金のナイフが飛び出して少年の背後で交差する。


 一瞬だった。

 魔族が青年を掴んだままだったら、魔族に金のナイフが刺さっていただろう。

 ミツバチは陽動。

 敵の視線をミツバチに向けている間に金のナイフを地面スレスレで動かし、大回りをして魔族の両側に準備していたのだろう。


 金のナイフじゃ目立つだろ。

 正直そう思ったがもちろん声には出さない。


 俺は魔族から解放された少年に駆け寄り、肩を貸してその場を離れた。

 首を軽く絞められていた少年は少し咽せている。


 その間にも魔族はその場から逃げようとしていた。

 背中に背負っていた弓を構えたヤブラが逃げる魔族を狙い撃つ。

 ヒュンッという風を切るような音を出しながら矢は勢いよく魔族に向かって飛んだ。

 魔族は咄嗟に少しだけ体を逸らしたが、矢は魔族の左肩を掠った。

 掠った部分の服の布が裂けている。


「新品なんだけどな、コレ」


 魔族はそんなことを言っているが、服はボロボロだ。

 新品のわけがない。


 魔族は逃げるのを諦めたのかその場で立ち止まり、両手を広げ声を張る。


不死者の連なり(スケルトン・パレード)!」


 すると地面の至る所が盛り上がり、地面から骨が出てくる。

 辺りには土の臭いが充満した。

 バラバラの骨は地上で人間の形に戻り始め、あっという間に大量の骸骨が立ち並ぶ。

 前も後ろもどこを見渡しても骸骨が立っている。

 骸骨は土に塗れ、所々に草の根が絡みついるものもある。

 骸骨よっては腐り果てたような布が垂れていたり、引っ掛かっていたりするものも。


 思っていたより骸骨は歪だった。

 絵や本で見るような綺麗な骸骨ではないのが余計に生々しい。

 もちろん同じような形の骸骨など一つもない。


 昼間で良かったと心から思う。

 夜だったら耐えられる気がしない。


死霊使い(ネクロマンサー)?」


 ヤブラが小さくそう呟いていた。


「死んだ後でも人は踊れる。知ってました?」


 魔族は不敵な笑顔を浮かべる。


「ダンス」


 魔族がそう言った瞬間、骸骨がいきなり襲ってきた。


 ハッチさんは墓石を右手で掴み、持ち上げて振り回し始めた。

 墓石は平たく、掴みやすそう場所もない。

 どう考えても振り回しにくそうな形だが、ハッチさんにはそんなことなど関係ないようだ。

 右手で軽々と振り回し、動き出した骸骨を片っ端から叩き砕く。


「それは死者への冒涜じゃ...」


「死者の眠りを妨げているのは貴様だ!」


 死霊使い、実に業の深い存在だ。

 ハッチさんは狂人だ。


「眠りたいから死んだ奴なんてほんの一握りでしょ?死んだ後くらい好きに踊ってもいいじゃないですか」


 骸骨達の動きがさらに激しくなった。


 ヤブラは左側から来た一体の骸骨に右手を向ける。


「来て」


 すると、ヤブラは一体の骸骨のコントロールを奪った。

 ヤブラはコントロールを奪った一体の骸骨の骨を散らして飛ばし、襲ってくる骸骨にぶつけた。

 骨が砕け飛ぶ。

 かなり時間が過ぎており、骨が脆くなっているのだろう。

 俺は召喚魔法でアンキロサウルスを右前と後方に1体ずつ出し、尻尾で迫り来る骸骨を薙ぎ払う。

 バキバキバキッという音を立てながら骸骨が散っていった。


 それを見たヤブラはこちらに走ってきた。


「助かったありがとう」


「いやいいよ。それよりこれって...」


「死霊使いの術で間違いない。私には到底真似できないような術だけど...」


 魔族は霊廟の全ての死者を操っている。

 冥界の王と言われても疑いはしない。


 少年は足元に転がってきた長めの骨を拾って身構えた。


 後方のアンキロサウルスが左側から来る骸骨も振り払う。

 アンキロサウルスが尻尾を振り回して骨を砕くと、もう骸骨は動かなかった。

 壊してしまえばもう元には戻れず動けないのだろう。


 アンキロサウルスが大量の骸骨を壊している中、ハッチさんは墓石を振り回しながら魔族の元へとたどり着く。


「もう逃してよ」


 魔族がはそう言ってハッチさんに向かって右手を伸ばす。

 すると、魔族の背後にあった大きい瓦礫がハッチさんを襲った。

 ハッチさんの倍くらいはある。瓦礫では到底砕けないだろう。

 ハッチさんは墓石を両手で持って瓦礫を防ぐ。

 ゴンッという鈍い音を上げて墓石と瓦礫はぶつかった。

 そのままハッチさんは後方のアンキロサウルスの元まで瓦礫に押し込まれる。


「まとめていくよ」


 魔族がそう言うと、大量の骸骨がこちら側に勢いよく向かってきた。

 その骸骨の大群を前方のアンキロサウルスの尻尾が一掃する。


「すご。なら追加で」


 魔族はそう言って背を向けた。

 逃げるつもりだ。


 さらに大量の骸骨がこちらに向かってくる。


 それでも結果は目に見えている。

 アンキロサウルスがまた尻尾を大きく振り、襲って来た骸骨を再度一掃する。

 無数の骨バキバキッという音を立てて空中に散った。


 キンッ


 バキバキっという音の中に、金属同士がぶつかり合うような音が聞こえた気がした。


 その瞬間、魔族の声が聞こえる。


復活(レザレクション)


 いつの間にか立ち止まっていた魔族が吐き捨てるようにそう言い放つと、空中に散った一部の骨は砕ける前の動きを続けながら元に戻っていく。


 砕けていない骨があったのだ。

 襲って来た半分の骸骨達が数歩分の距離を進んだ時、体の形は完全に元通りになった。

 勢いそのままに戻った骸骨達はこちらに向かってくる。


 アンキロサウルスの攻撃が時間稼ぎにもなっていない。


 魔族の狙いはアンキロサウルスではなく、それを召喚した俺だった。

 ヤブラは目をつぶって両手を前に出し、大きく息を吐きながらゆっくりと目を開ける。

 すると、襲い掛かってきた骸骨の動きが一体、また一体と止まっていく。


 近くで見たら分かった。

 よく見ると骨は灰色っぽい。

 これは人骨ではなく金属。

 通りで砕けないわけだ。

 人骨と比べ、骨の形があまりにも整っている。

 それに他の動いている骸骨と違って土が草の根が絡まっていおらず綺麗すぎる。


 魔族は金属の骸骨に気付かれないよう、骸骨の大群に紛れ込ませたのか。

 それも襲撃する骸骨の量を増やしただけだと思わせて...。


 ハッチさんが声すらなっていないような叫び声を上げながら止まった骸骨に全力で殴りかかる。

 墓石で。


 バゴォン


 骸骨はバラバラになって飛び散った。

 しかし、飛び散った瞬間にまた金属の骨は集まり始め、形を取り戻すとまた動き出した。

 それをヤブラがまた止める。


「すまない!」


 ハッチさんが叫んだ。

 ただ、ヤブラにはもう返答する余裕がない。

 額には一筋の汗が流れ、歯を思い切り食い縛っている。

 力の入った腕は震え始めていた。

 限界がすぐそこまで来ていることは誰の目から見ても明らかだった。


 魔族の魔力が少しずつ遠ざかるのが分かる。

 それに気付いたハッチさんは魔族を墓石で殴りに向かった。

 しかし、すぐに金属ではない骸骨に囲まれ道を阻まれてしまう。


「トリケラ!!!」


 俺は声を張り上げ、ハッチさんの目の前にトリケラトプスを召喚。

 トリケラトプスを骸骨の大群に突っ込ませ、ハッチさんの道を開けようとする。


 しかし、敵の量が多過ぎた。

 道が開けたと思った瞬間に道が潰されていく。

 あっという間にトリケラトプスは骸骨の大群に飲まれてしまった。

 ハッチさんは骸骨を砕きながら進もうとするが、ハッチさんを襲うのは金属の骸骨ばかり。何度叩いて分解しても瞬く間に元に戻る。


 空だ。

 空なら骸骨の手は届かない。


「プテラ!!」


 俺は空中に魔法陣を出し、そこからプテラノドンを出現させて、その右足を右手で掴んだ。

 その瞬間、右手に火の玉が飛んできた。

 俺は思わずプテラノドンを掴んでいた手を離す。


 魔法を使うと体の中に流れる魔力が一瞬溢れてしまう。

 魔力を大量に使う召喚魔法なら尚更だ。

 その変化を魔族は見逃してくれなかったらしい。


 プテラノドンを上に向けて飛ばした。

 上空で宙返りさせ、再度地上に近付けるためだ。


 その時、俺の目に崩れた瓦礫の上に立つ魔族が入った。


 魔族は突然上着を脱ぎ出し、「見てろよ?」と言わんばかりの顔をしてこちらを向いてきた。

 両手に持った上着をバサバサと上下に振り始める

 すると、上着を振る度に大量のコウモリが現れた。

 次第に増えるコウモリが空を占領していく。


 大量のコウモリでプテラノドンを見つけるのもやっとだった。

 やっと見つけたプテラノドンは無数のコウモリがぶつかられ、飛んでいるのがやっとの状態。

 空への逃げ道も塞がれてしまった。

 空にはコウモリが乱れ飛び、地上は骸骨が溢れかえる。


 ハッチさんは進むことができないまま、金属の骸骨を墓石で薙ぎ払い続けている。

 アンキロサウルスは前方で骨を壊しているが骸骨が減る気配がない。


 どうすればいい。

 どうすれば。

 打つ手が思いつかない。

 いや、一つだけある。

 ティラノサウルス。

 いや、ダメだ。

 目の前ではヤブラが金属の骸骨達の動きを止め、俺の近くでは墓を荒らしていた少年が骨を持って周りを警戒している。

 ハッチさんの姿は骸骨達のせいで見えないが、ハッチさんもいる。

 他の人達を巻き込んでは意味がない。

 でも、このままではこちらの身が持たない。

 どうすれば。


 その時、ヤブラの腕の力が一瞬だけ緩んだ。

 ヤブラの限界が来てしまった。


 止まっていた金属の骸骨が動き出す。

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