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ルナンの道

 冒険者(アーフェ)たちの朝は早い。

 ダンジョン攻略には時間がかかるため、日帰りをしようと思うと朝早くから始めざるを得ないからだ。

 もっとも、潜る階層によっては一日で終わるわけもなく、その場合はダンジョンに寝泊まりするための準備が必要になる。


 俺は欠伸を噛み殺しながら、ギルド内の休憩スペースに腰を下ろし、頬杖を突きながら依頼ボードに群がる冒険者(アーフェ)たちを眺めていた。

 良い依頼は取り合い、果ては喧嘩に発展するが、冒険者(アーフェ)同士の喧嘩など日常茶飯事のため、誰も止めようとしない。


「ルミレーナさんは本当に来るんですかね?」


「さあ~来るとは思いますけどね~」


 俺の体面に座るミリィは、ちゅーっとストローでジュースを飲みながら間延びした声で答える。

 ちなみに、今のミリィはいつもの制服姿ではなく私服だった。

 つまり完全にプライベート。

 なぜ休日のミリィが朝早くからギルドに顔を出しているかというと、ルナンにギルドでルミレーナを待つことを提案した手前、もしそれが徒労に終わってしまったら申し訳ないからせめて話し相手ぐらいは努めよう、ということらしい。

 そのわくわくしたような目を見ると、どこまでが本音なのかわからないが。


「あ、来ましたよ!」


 その言葉で、俺は入り口のほうへと視線を移した。

 そこには腰から剣を挿した、見覚えのある女性が立っている。


 ルミレーナは、混みあっている依頼ボードのほうを見るとため息をつき、踵を返してギルドから出ていった。


「って、ちょっと待って!?」


 慌てて俺は荷物を取り、ルミレーナを追いかけてギルドを飛び出す。

 左右を見渡すと少し離れたところにルミレーナの姿が見えた。


「ルミレーナさん!」


 俺が呼びかけると、ルミレーナの肩がぴくッと震え、振り返る。

 一瞬訝しげな目で俺を一瞥すると、すぐに納得したような表情を浮かべ手を叩いた。


「シードから紹介された少年か。何か用か?」


「...俺に...」


 俺は、次の言葉が見つからなかった。

 さっきまでは教えを乞おうとしていた。

 だが、ルミレーナを前にして言葉が出てこなくなった。

 強くなりたい。ならなければいけない。

 それは間違いない。

 だが、「そんな方法はない」と切り捨てられた。

 そもそも、もし仮に強くなれる方法があったとして、恥もなく教えてくれと言えるのか?

 ()()()()()()()()()()()()()()


「俺に、なんだ?何も用がなければ行くが」


 そうしてルミレーナは再び背を向けようとする。

 俺は待ったをかけた。


「俺と闘ってください」


「...なんだと?」


「俺と決闘してください、と言いました」


「...君は自分が何を言っているのかわかっているのか?」


「...はい」


「レベルはいくつだ?」


「昨日、レベル(ワン)になりました」


「...一応聞くが、私がレベル(フォー)だと知っていて言っているのか?」


「...もちろんです」


「ふむ...」


 ルミレーナは、一瞬考え込むように俯き、顎に手をやった。

 そして、顔を上げて口を開く。


「下からの挑戦を断ってはいけないのは、冒険者(アーフェ)のルールだ。その決闘を受け入れよう」


 こうして、俺とルミレーナの決闘が決まった。


 ★★★★★★★★★★★★★★


 決闘とは、昔から冒険者(アーフェ)たちの間で行われてきた儀式のようなもので、互いに望みをかけて勝負を行い、勝ったほうの望みが叶えられる。

 勝負の内容は、ギルド職員が立会人となり、双方の合意をもって決定する。


「それで、ミリィさんが立会人になってくれるんですか?」


「当たり前ですよ!こんなおもしr...大切なこと他の人には任せられません!」


 一瞬変な言葉が聞こえた気がしたが、進んでやってくれるというのであればありがたい。

 俺は意識を切り替える。


「それで、君は何を願うんだ?」


 ルミレーナが俺に問いかける。


 俺たちは今、ギルド内の訓練場にいた。

 普段は文字通り冒険者(アーフェ)たちの訓練に使われる場だが、十分な広さがあるため決闘の場として使われることも多い。


「俺が勝ったら、俺の師匠になってください」


「君の師匠に...?ふ、ふふふ、ははっ」


 俺の言葉を聞くと、ルミレーナがこらえきれないといった様子で笑いだした。

 その目には涙まで浮かんでいる。

 第一印象では、その鋭い目つきからキツイ印象を受けたが、その印象がだいぶ和らぐ。


 こんな顔もするのか。


「君の願い、了解した。であれば私の願いは、君が二度とダンジョンに潜らないこと、にしよう」


「...え?」


「聞こえなかったか?ならばもう一度言ってやろう。私が勝ったら、君は二度とダンジョンに潜ることができない、そう言ったんだ」


 ルミレーナに負けたら、二度とダンジョンに潜ることができない?

 つまり、二度とエラリス達に会えない...?


「どうした?怖気づいたか?」


 黙りこくった俺を見て、ルミレーナが問いかける。


「俺、どうしてもダンジョンに潜りたい理由があるんですよ」


「...だろうな。だから強さを求めているんだろう?」


「まあ、そうですね。そして、早く強くならなきゃいけない。可能な限り、早く」


 でないと、エラリスたちに再会できる可能性がどんどん低くなる。

 今こうしている間も。


「......」


「多分、あなたに師事するのが俺の取りえる手段の中で最速なんだと思います。だから、あなたに勝てなかった時点で俺の望みは潰える。あなたに挑んだ時点で、()()()()()()()()()()()()()


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