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能力確認

「【敏捷上昇(アジリティアップ)】、付与(エンチャント)


 次の瞬間、俺は風になった。

 十歩以上の距離が一瞬でゼロになる。


「ぷるっ?」


 ゴブリンと対を成す序盤モンスターのスライム。

 身体の99%が液体でできており、可愛らしい見た目に反して顔に取りつかれると窒息させられることもあり、なかなか侮れないモンスターだ。

 スライムの弱点は中心にある核である。

 核自体は脆くすぐに砕けるのだが、周りを覆う液体がかなりの粘性を帯びており、生半可な攻撃では核まで到達できない。

 俺も、倒すのにはそれなりに苦労するモンスターだった。以前までは。


 俺がスライムに肉薄しても、スライムは反応できていない。

 そのまま短剣を突き刺すと、僅かな抵抗感の後にパキンッと乾いた音が響く。

 核を失ったスライムは、元からただの液体であったかのようにどろどろと形を崩していくと、光の粒子となった。


 速度とは力であると、俺は痛感した。

 膂力自体は低くとも、速度があればそれは必殺の一撃となる。


「ふぅ、ちょっとずつだけど慣れてきた」


 今俺は3階層にいた。

 眼前には下層への階段がある。


 ここに来るまでに、飛躍的に向上した能力値(ステータス)の確認をしたが、筋力、敏捷、耐久...全能力値(ステータス)が倍以上になっているようだ。

 当然魔力量も上昇しており、ここまでかなりの魔術を使ってきたが、いつもであれば魔力欠乏による頭痛などが来るタイミングであってもまだ余裕がある。


 そして何より実感したのが、【付与魔術(エンチャントマジック)】の効果倍率の上昇。


 今までの上昇倍率が大体1.2倍だったところが、今は1.5倍ほどまで上昇している。

 だからこそ、能力の向上と相まって自身の身体を操るのに苦労しているのだが、使いこなせれば強力な武器になりそうだ。


 途中からずっと練習していた甲斐もあり、【敏捷上昇(アジリティアップ)】を付与した状態でも思った位置で停止するぐらいはできるようになったが、まだまだ慣れが必要そうだ。


「よし、最後にアレだけ確認して出るか」


 あともう一つだけ確認したいことがあったため、適当なモンスターを探してうろうろする。

 二つ通路を曲がると、ちょうど欠伸をしている無防備なゴブリンに遭遇した。


「【敏捷下降(アジリティダウン)】、付与(エンチャント)


 グギャッ?とゴブリンが緩慢な動きで振り返る。

 いや、ゴブリンにとっては最速の動きなのだろうが。


「おっせぇ...0.5倍くらいか?」


 ちんたらと振られたこん棒を歩いてかわし、観察する。

 多分、普段のゴブリンは目の前のゴブリンより倍ぐらい早いと思う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事実に背筋が震えた。


 俺は相棒の短剣を一閃し、ゴブリンの首をはねる。

 魔結晶を回収し、その場を後にした。


 ★★★★★★★★★★★★


 ダンジョンから出ると、少し肌寒い風が俺を出迎えた。

 すっかり陽は暮れており、宵闇が我が物顔で街を包み込み、遠くから酔っ払いたちの喧噪の音が聞こえるなか、俺は魔結晶を換金するためギルドへと向かった。


 ダンジョンにつくと、数人が受付に並んでいる以外は人がいない。

 他の者たちは既に酒場へと繰り出しているのだろう。


 数分後、俺の番が来る。

 受付担当はミリィだった。


「あ、ルナンさん。魔結晶の換金ですか?」


「はい、これお願いします」


 冒険者(アーフェ)がギルドへ来る理由なんて限られている。

 俺が魔結晶を入れた小袋を差し出すと、要領よく確認を進めていく。


「はい、確認しました。ゴブリンが八体、スライムが三体で銅貨が三枚と鉄貨が四枚ですね」


「ありがとうございます」


 俺は手渡されたお金を愛用の財布に突っ込む。

 すると、ミリィがそういえばと口元に人差し指を当てた。

 その目は好奇心で彩られている。


「ルミレーナさんの件はうまくいきましたか?」


 俺が後ろを振り返ると、そこには誰も並んでいなかった。

 前を向くと、ミリィ以外のギルド職員の姿も見当たらない。

 この時間にやってくる冒険者(アーフェ)は少ないため、一人で十分回るのだろう。

 ミリィは暇をつぶしてくれる話し相手が欲しいのだと、俺はすぐに理解した。


「いやぁ、取り付く島もないといった感じで...明日もう一度ルミレーナさんの家に行ってみようと思っているんですが、扉を開けてくれるかどうかも怪しいですね」


「あら、そうなんですね...。あ、そういえばルミレーナさん、明日はダンジョンに潜ると思いますよ?」


「え、そうなんですか?」


「はい。通行証(ライセンス)の期限が明日までなので」


「ああ...なるほど」


 冒険者(アーフェ)には、ダンジョンに潜ることが許可されている証として、ギルドから通行証(ライセンス)が発行される。

 通行証(ライセンス)は持つ者によって材質が異なり、鉄、銅、銀、金、ミスリルの五種類が存在する。

 これらはダンジョンの到達階層に紐づいており、0~9階層は鉄、10~19階層は銅、20~29階層は銀、30~39階層は金、40~49階層はミスリルといった具合だ。

 通行証(ライセンス)には、冒険者(アーフェ)が都市の発展に貢献しているとして様々な特権が設けられている。

 例えば、銅の通行証(ライセンス)を持つ者は宿泊施設の利用料が半額になったり、金の通行証(ライセンス)を持つ者は都市間の移動が無料になったり様々だ。


 ただ、通行証(ライセンス)には期限があり、期限内に冒険者(アーフェ)としての活動を行わないと通行証(ライセンス)が剝奪されるのだ。


 ミリィが言っているのは、明日でルミレーナの通行証(ライセンス)の期限が切れるため、ルミレーナはダンジョンに潜る必要があるということだった。


「じゃあ家に行っても無駄になるかもしれないな...」


「だったら朝一でギルドに来てはどうですか?」


「ギルドに?」


「はい。ダンジョンに潜る前に、依頼ボードを見ていかれる方も多いですから」


 ミリィはそう言い、入り口すぐ横に立っている大きなボードを指さした。

 依頼ボードとは、都市に住む人間が冒険者(アーフェ)に対して依頼したいことを紙に書き記し、依頼書として張り付けているボードのことである。

 依頼内容は様々で、指定した条件の魔結晶が欲しいだとか、指定した階層まで護衛してほしいだとか、モンスターのドロップアイテムを入手してほしいなどがある。


 基本的に、ダンジョンに潜るついでに達成できそうなものは依頼を受注してからダンジョンに潜ることが多いため、ダンジョンに潜る前にギルドに顔を出すだろう。

 朝一で待っていれば、会える可能性が高い。

 俺はなるほどと一つ頷いた。


「じゃあそうします!アドバイスありがとうございます」


「いえいえ、お役に立てたのならよかったです。また明日お待ちしていますね!」


 俺はミリィにお礼を言いギルドを後にする。

 時間があれば、今日消費した回復薬(ポーション)などを補充しようと思っていたが、もう夜遅いため明日買うことにした。

 多分店も閉まっているだろうし。


 慣れ親しんだ道を歩いてクランまで戻る。


「ただいま!...ってそっか、誰もいないんだっけ」


 いつも賑やかだったクランハウスは、なまじ大きいためより一層の静けさを感じさせる。


「よし、明日に備えて寝よう!」


 俺は、寂しさを紛らわすため声を出し、眠りにつく。

 思ったより疲れていたのだろうか、数分で意識は沈んでいった。


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