シードの紹介
「で、おまえはこれからどうするつもりだ?」
「...ダンジョンに潜るつもりです。すぐにでも」
俺の言葉を聞き、シードは目を細めた。
「...死ぬぞ?」
「それでも...他に方法がありません。俺は支援術士だから、パーティを組んでくれる人もいないだろうし、モンスターを倒して力をつけるしか...」
「あほう。お前みたいな支援術士が一人で潜ったって犬死するだけだ」
「でも俺は、単独でゴブリンリーダーを――「倒したってか?」」
俺の言葉を断ち切るように、シードは言葉をかぶせた。
「確かに、単独で、それも支援術士がゴブリンリーダーを討伐したのはすげえ。快挙と言っていい。だが、ダンジョンは6階層からが本番なんだ。ゴブリンリーダークラスのモンスターなんかごろごろいる。断言するが、今のお前じゃ6階層すら抜けられねえだろう」
「......だったらどうすればいいって言うんですか?」
「最強の冒険者になるなんて諦めろ...と言いたいところだが、一つ考えがある」
もったいぶるように、シードは顎を撫でた。
その様子に俺は少しイラっとしたが、堪えて先を促す。
「...考えというのは?」
「ふふん、聞きたいか?...ずばり、先人に教えを乞うことだ」
「先人...?シードさんが戦い方を教えてくれるってことですか?」
「いや、俺にお前を教えることはできない。職業が違うからな。戦士には戦士、魔術師には魔術師、支援術士には支援術士だ。俺の知る限り最も優秀な支援術士を紹介してやろう。なんとそいつはレベルⅣだ」
シードが自慢気に指を四本立てる。
俺は驚き目を見開く。
レベルⅣの冒険者は、全体でみて上位三割に入る。
支援術士でみれば間違いなくトップクラスだ。
そんな人を紹介してもらえるだって?
そんなのもちろん受けるに決まっている。
「是非!!」
「おお...急に大声を出すんじゃねえ...。まあ、まずはその怪我を治すこったな。話はそれからだ」
「わかりました!」
「急に聞き分けがよくなりやがって...現金な奴め」
「ふふ...まあルナンさんが元気になってよかったじゃないですか。私はお医者さんを呼んできますね」
とてとてとミリィが部屋から小走りで出ていくのを見送ると、シードはこちらを振り向く。
「...前に、ダンジョンで行方不明になったとされていた奴が、三年越しに帰還したというニュースを聞いたことがある。だから、そう焦るな」
シードはそう言うと、俺の額を人差し指で小突いた。
その勢いに抗えず、俺は枕に頭を預ける。
「早く寝ろ」
シードは少し照れ臭そうに、部屋から去っていった。
★★★★★★★★★★★★★★
「ここか...シードさんに紹介してもらった人が住んでるっていうのは...本当か?」
ゴブリンリーダーを倒してから三日経ち、傷の癒えた俺は、シードの紹介で少し...いや、かなり街外れの場所を訪れていた。
「ルミレーナ...ここだな」
少し古びれた家屋にぶら下がっている表札と、シードから聞いた名前が一致する。
ここに目当ての人物がいることは間違いなさそうだ。
俺は、一つ深呼吸をして扉をノックした。
「ルミレーナさん、いますか?」
ノックして数秒後、キイッと扉が開かれる。
中から出てきたのは、端正な顔立ちをしており、少し吊り目がちな瞳からは冷たい印象を受けるが、とても美しく若い女性だった。
思わず見惚れそうになるが、そんな場合ではないと気を引き締める。
「...誰だ?」
「支援術士のルナンと申します。シードさんから紹介を受けて来ました」
「ああ、お前が...」
「俺に...強くなる方法を教えてください!!「そんなものはない。以上だ。早く帰れ。バタンッ」...え?」
勢いよく下げた頭を上げると、そこには閉まった扉があった。
★★★★★★★★★★★★★★
「という感じで取り付く島もなかったんですが...」
「だっはっはっは!!やっぱりそうか!」
あの後再び扉越しに呼び掛けてみても反応がなかったため、一度ギルドに戻ってきてシードに話してみると大笑いされた。
なんでも、シードから見てもルミレーナは気難しい性格らしく、恐らくルナンは相手にされないだろうと予想していたらしい。
「笑い話じゃないんですけど!?」
「はは、悪い悪い。ルミレーナは確かに気難しいが、悪い奴じゃない。あいつの心を開けるかどうかはお前次第だ」
「...どうやったら心を開いてくれますかね?」
「んなもん、俺だって知るかよ。だがまあ、お前ならいけると思うぜ。なんせお前らは似た者同士だからな」
「...どういうことですか?」
「まあそのうちわかる。ほれ行った行った。これはお前が何とかするしかないのさ」
シードからギルドを追い出された俺は、途方に暮れる。
「あ、そうだ。教会に行くのを忘れてた」
俺は行く当てもなく動かしていた足をくるりと回し、教会に向けて歩き出した。