表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

決意

 心地よい温かさに身体が包まれている。

 どうやら、死後の世界というのは思ったよりも安らかなものであるらしい。

 死んでいるのに思考ができているというのもおかしな話だが。


 後悔はない。

 単独でフロアボスの討伐に成功しただなんて、1ヶ月前の自分が聞いても信じないだろう。

 ダンジョンで死ぬなんて、冒険者(アーフェ)にとって本望中の本望に違いない。

 だからこれでよかったはずだ。


 それなのに、この気持ちの良いまどろみに永遠に浸っていたいはずなのに、いつまでも俺の意識は解れない。


 ............んッ!


 .....ナンさんッ!!


 ...ルナンさんッ!!!


 無性に、返事をしなければいけない気がした。


 ★★★★★★★★★★★★★★


「ん...うん...」


 初めに飛び込んできたのは、見覚えのある天井。

 そして、泣いている女の子の顔だ。


「ルナンさん!...よかったぁ...!」


「...ミリィさん...ここは...?」


「...冒険者ギルドの医務室です。昨日ルナンさんがフロアボス部屋で倒れているところをシードさんが運んでくれて...。ルナンさん、丸一日寝てたんですよ?」


「おーう、起きたのか坊主。治癒術士の話じゃあ生死の境をさまよってるって聞いてたが、案外大丈夫そうだな。根性あるじゃねえか」


 ようやく頭が回りだしてきた。

 どうやら、ゴブリンリーダーを倒した後にその場でぶっ倒れていた俺を、シードが連れ帰ってくれたってことか。


 でも、なんでレベル(スリー)であるシードが5階層にいたのだろうか?

 シードの普段潜る階層は20階層以上のはずだ。

 一度でも到達したことがある階層にワープできるダンジョンで、シードが5階層に来る意味がない。


「なんで俺が5階層にいたのか聞きたそうな顔をしているな。まあ、泣いてる可愛い女の子にあんな一生懸命頼まれちゃあ、男は断れねえよ」


「ちょ、ちょっとシードさん!?」


 ボンっと音が聞こえてきそうなほど、ミリィの顔が一瞬にして赤くなる。

 シードの暴露に対して怒りを表しながら、ちらりと俺に視線を向けたミリィは、コホンと一つ咳払いをして居住まいをただした。


「ルナンさんが心配だったから...私の声も届かず走って行っちゃうし、一人でダンジョンに潜ったっていう報告まで来て...無事で...よかった...」


「...ごめん、ミリィさん。心配かけて、ごめん。...ありがとう」


「本当ですよ!今度何か奢ってください!」


 目に涙を浮かべながら、それでも晴れやかに笑うミリィは、とても可憐だった。


「せっかく連れ帰ってきた俺としても、お前が目覚めてよかった。...で、これからルナンはどうすんだ?治癒術士が、生死の境目を彷徨っていたお前が目覚めるかどうかはルナンの生きたいという思いがどれだけ強いかだと言っていた。で、お前は目を覚ました。何かあるんだろ?生きたいと思った理由が」


「そうですね...あります、俺のやり残したこと。俺にしかできないこと」


 俺は仰向けの状態から体を起こして、二人のほうを向く。


「俺は、金色の双翼(アウルムデゼル)を復活させます。そして戦力を揃えて、エラリスさんたちを探しに行く」


「...エラリスは最強の冒険者(アーフェ)の一角だった。無論その他のメンバーもだ。そんなあいつらでさえできなかったことをお前はやろうってのか?」


「はい。俺が、最強の冒険者(アーフェ)になります」


 自分で口に出した瞬間、目の前に道が開けた気がした。

 なんで、エラリス達の攻略失敗の知らせを聞いて、すぐにダンジョンに潜りに行ったのか。


 最初は死に場所を求めたんだと思った。

 自分の心がわからなかったから。

 でも、違った。

 こうして死に損なって、ようやく気付けた。

 俺はみんなにもう一度会いたいのだ。

 どうしようもない俺に、家族のように接してくれたみんなに。


 エラリスは俺から見ても最強の冒険者(アーフェ)だった。

 憧れだった。


 そして今、憧れは、超えるべき目標に変わった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ