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vsゴブリンリーダー

 一番近くにいるゴブリンに向かって、投擲用のナイフを思いきり投げつけた。


 開幕早々遠距離攻撃が来るとは思っていなかったのか、グギャッ!?という間抜けな声を出しながらゴブリンがナイフを避ける。

敏捷上昇(アジリティアップ)】、【筋力上昇(パワーアップ)】は付与済み。

 隙だらけのゴブリンに俺は素早く近づき短剣を振る...おうとして慌ててその場を飛びのいた。

 そのすぐ後、俺がいた場所をブオンッとこん棒が通り過ぎた。


 こめかみを冷や汗が伝う。

 もし欲を出してゴブリンに攻撃を加えていたら直撃を受けていた。

 俺の貧弱なステータス&装備では、一撃で戦闘不能になってもおかしくない。


 ゴブリンリーダーは、観察するように俺のほうをじっと眺めていたが、やがてニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべた。


「グギャギャ!」


 こん棒を俺のほうに突き出し、ゴブリンリーダーが鳴いた。

 それを受けて、取り巻きのゴブリンたちがこちらに向かって突撃してくる。


 5階層(フロア・フィズ)のフロアボスであるゴブリンリーダーの最も厄介な点は、その指揮能力だ。

 初心者(ニュービー)にとって、ゴブリンが群れているだけでも十分に脅威なのに、ゴブリンリーダーによって意思統一までなされているのだ。

 その危険度は跳ね上がる。


 そのうえゴブリンリーダー自体も、ゴブリンより一回り強い。

 本来であれば、数人のパーティでゴブリンを各個撃破してからゴブリンリーダーに一斉攻撃するのがセオリーなのだが、生憎この場には俺一人しかいない。

 つまり、俺一人でこの危機的状況を打開する必要がある。


 ゴブリンリーダーとは、元来慎重な生き物だと聞いたことがある。

 その性格ゆえに数々の戦いを経て生き残り、ゴブリンリーダーへと進化するのだと。

 そんなモンスターが策もなく一斉攻撃を仕掛けてくるというのは、()()()()()()()()()と判断したからだろう。


「なめてもらっちゃ困る」


 俺は迫りくる一番手前のゴブリンに向かって掌を向けた。


「【敏捷下降(アジリティダウン)】、付与(エンチャント)ッッ!」


 支援術士の価値は、強化(バフ)をかける際の、「時間」と「倍率」で評価される。

 長く、高い倍率の付与を行える支援術士が優れているとされるのだ。


 そこで、俺はふと思った。

 1.1倍の強化(バフ)をかけられるのであれば、0.9倍の強化(バフ)...いや、弱化(デバフ)もかけられるのではないかと。

 以前ダンジョンに潜ったときにこっそり試してみたところ、1倍以下の弱化(デバフ)、さらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 大っぴらに使うのは初めてだ。

 弱化(デバフ)の【付与魔術(エンチャントマジック)】を使っている支援術士なんて見たことがないうえに、味方の前で使うと、「弱化(デバフ)をかけられるかもしれない」という要らぬ不安を生じさせることになりかねない。

 信頼関係が大事なダンジョン攻略において、それは致命的である。


 ゆえに、これは一人の時にしか使えない。

 今なら、気兼ねなく使える。


 俺の弱化(デバフ)を受けて、手前のゴブリンの速度が遅くなる。

 後ろに続いていたゴブリンは、目の前のゴブリンが急にゆっくりになったため、つんのめるように転倒する。

 さらに後ろのゴブリンも続けて転倒していく。

 唯一斜め後ろを走っていたゴブリンだけは被害を免れたが、横で大転倒をかました仲間たちを見て、思わず足を止めた。


 転がっているゴブリンは一旦無視し、立ち止まったゴブリンに狙いを定める。

 自分が狙われていると気づいたゴブリンは、慌ててこん棒を盾のように持ち上げた。


「【筋力下降(パワーダウン)】、付与(エンチャント)


 ゴブリンからすると、急に力が入らないように感じただろう。

 僅かにこん棒が下がり首元ががら空きになる。

 俺はそこに短剣を突き刺した。


「グエエ......」


 短剣を引き抜き、こん棒を支えにして立ち上がろうとしていたゴブリンのこん棒をけり飛ばす。

 支えをなくしたゴブリンは再度前のめりに転倒する。

 そうして隙だらけのゴブリンすべてにとどめを刺した。

 ちなみに、一番初めに弱化(デバフ)をかけたゴブリンは三体ものゴブリンの下敷きになり、俺がとどめを刺すまでもなく絶命していた。


 ゴブリンから短剣を引き抜くと、ゴブリン特有の青い鮮血が飛ぶ。

 その様子をゴブリンリーダーはニタニタと見ていた。


「仲間がやられたってのに余裕そうだな」


「グギャグギャ」


 俺の言葉を理解しているのかどうかはわからないが、ゴブリンリーダーは人をムカつかせる笑みを浮かべ、挑発するように指をくいっと動かす。


「ふぅ...いくぞッ!!」


 一度深呼吸をして、魔力の使い過ぎでずきずきと痛む頭を少しでもすっきりさせる。

 この戦いは短期決戦だ。

 でないと俺に勝ち目はない。


 俺は地面を蹴った。


「グギャギャ!!」


 ゴブリンリーダーが大きな声を上げる。

 するとどこにいたのだろうか、周囲から十体以上のゴブリンがぞろぞろと姿を見せた。

 ゴブリンリーダーが一際醜悪な顔で嗤う。

 これがゴブリンリーダーの余裕の正体か。

 たかがゴブリン五体ごときに手間取るような雑魚に勝ち目はないと。


 だから言ったろ?これは短期決戦だと。


「【敏捷下降(アジリティダウン)】【敏捷下降(アジリティダウン)】【敏捷下降(アジリティダウン)】【敏捷下降(アジリティダウン)】【敏捷下降(アジリティダウン)】【敏捷上昇(アジリティアップ)】【筋力上昇(パワーアップ)】......付与(エンチャント)


敏捷下降(アジリティダウン)】の五重がけ。

 ゴブリンリーダーにとって、一瞬時が止まったように感じただろう。

 俺は魔力不足により落ちそうになる意識を引っぱたきながら跳躍、ゴブリンリーダーの首を跳ね飛ばした。


 最後の力を振り絞った俺は受け身も取れず、ゴロゴロと転がる。

 頭部を失ったゴブリンリーダーからは青い血が吹き上がった。

 リーダーを失い周囲のゴブリンたちは一瞬固まるが、やがて怒りが沸き上がったのか、耳障りな鳴き声を上げながら群がってきた。


「ああ......もうむり」


 大量のゴブリンを相手にする力はもうない。

 ドロップアウトする意識の中、最後に何だか優しい光に包まれたような気がした。


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