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悲報

拙作ですが、楽しんでいただけると幸いです。

 迷宮(ダンジョン)都市フロムナード。


 人々に様々な恩恵をもたらすダンジョンを中心に据え、冒険者(アーフェ)冒険者(アーフェ)を相手に商売する鍛冶師や商人、それらを管理するギルドなど、その手に栄光を掴まんとする人々の欲望が渦巻く大都市だ。


 たとえ夜であってもダンジョン資源により明かりが絶えることはなく、人々が酒やらなんやらで顔を赤らめ人生を謳歌しているのだと唾を飛ばすなか、とある用事でギルドを訪れていた俺は茫然とした。


「は...はは。どうやら俺は急に耳が悪くなったらしい。ごめん、ミリィさん。もう一度お願いします。ギルドマスターは...エラリスさん達がどうなったって?」


「ダンジョンから満身創痍で帰還したラグナさんが報告してくれました...。【金色の双翼(アウルムデゼル)】は、50階層の攻略に失敗し...全滅したと...」


「...ラグナさんは?」


「ギルドにいた治癒士たちが手を尽くしたのですが...先ほど亡くなりました――え、ルナンさん!?」


 気づけば俺は駆けだしていた。

 背後でミリィさんが何か言っていた気がするが、無視した。


金色の双翼(アウルムデゼル)】の拠点へと戻った俺は、愛用の短剣と、初級回復薬(ポーション)などの必要最低限の準備だけしてギルドを飛び出る。

 他の人たちはギルドマスターのエラリスさんとともにダンジョン攻略に行っていたため、ルナンに声をかける者はいない。

金色の双翼(アウルムデゼル)】は所属メンバー20人の小規模なクランだ。

 他の有名なクランには3桁を超える所属員を抱えているところも多く、それらのクランと比べると圧倒的に人数が少ない。

 だが、【金色の双翼(アウルムデゼル)】が他のクランよりも劣るかというとそんなことはなく、クランとしての貢献度、総合力を基に算出されたランキングでは常に5位以上に入っており、個々の能力が高い選りすぐりの精鋭たちであると言える。


 まあ、その中に俺は含まれていないが。


 ルナンは昔、訳あって死にかけていたところをギルドマスターのエラリスに救われ、見習いとしてギルドに身を寄せていた。

 そんなルナンからして正メンバーはみな憧れの英傑達であり、彼らが失敗することなど想像すらしていなかった。

 たとえ今回の出征の目的が未踏の階層、50階層(フロア・フィーゼ)の攻略であったとしても。


 拠点からダンジョンの入り口にたどり着いた。

 ダンジョンの入り口は、淡い青色の燐光を輪郭にまとい、神秘的な様相を呈している。

 その内側は黒一色で中の様子は一切窺い知れない。


 入口の脇に二人の門番が立っていた。

 ダンジョン内では常に死の危険が付きまとうため、ギルドの許可を得たものしか入れないようにしているのだ。

 入口の門番に白色の通行証(ライセンス)を見せると、いいぞ、と道を開けられる。

 俺は入り口に飛び込んだ。


 ★★★★★★★★★★★★


 ダンジョンの外から内部の様子がわからない理由として、ダンジョンの入り口を通ることによりどこか別の場所へと転移させられているからだ、という説が一番有力だとされている。


 それを根拠づけるように、俺は一瞬の浮遊感ののち、ごつごつとした岩肌に囲まれた洞窟の中に立っていた。


 ダンジョンに一人で潜ったのはこれが初めてだ。

 俺が潜るときにはいつも誰かが付き添いをしてくれた。

 でも、今は誰も助けてくれない。


「【敏捷上昇(アジリティアップ)】、付与(エンチャント)


 俺の体が淡い緑色に包まれる。

 支援魔法が成功した証だ。

 地面を駆ける力がいつもよりも強く、景色が早く流れる。


 冒険者(アーフェ)達に、最も()()()()()()職業は何か?と問うと、10人中8人は支援術士と答えると思う。

 ...ごめん少し見栄をはった。多分全員支援術士と答えるだろう。

 俺もできることなら戦闘職と呼ばれる戦士や魔術師がよかった。

 だが俺の適正が支援術士しかなかった。それだけの話。


「だめだ、集中しないと」


 とりとめもない思考がどうしても脳裏にちらつくのは、単独攻略が初めてだからだろうか。

 なぜダンジョンに来たのかも、これからどうするのかもわからない。

 俺はただ、感情のはけ口を探していた。


「...ゴブリン」


 ダンジョンの定番と呼ばれるモンスター。

 身の丈は俺の胸ぐらい。

 子供のような体躯で、知能が低くそこまで恐れるほどのモンスターではないが、筋骨隆々と言った身体から放たれる一撃は重く、決して油断していい相手ではない。


 俺は腰に挿した短剣を軽く撫ぜる。

 ひんやりとしたなじみのある感触は、熱が侵食しようとしていた俺の心を落ち着かせる。


「【隠密性(ステルス)】、付与(エンチャント)


 ゴブリンの手にあるこん棒は俺の短剣よりも長い。

 俺が攻撃するためには、ゴブリンの間合いに入らないといけないということだ。

 こちらが先に発見できたのは幸運だった。


 自身に付与した魔法により、足音が小さくなる。

 それを利用し、音もなく俺はゴブリンに忍び寄った。

 ある程度まで近づくと一気に加速する。

 さすがに短剣が届くほどの間合いまで近づくと、ゴブリンにも気づかれるが、お構いなしに俺は短剣をゴブリンの首に突き刺す。


「グエエ...」


 喉が裂けたからか、ゴブリンは消え入るような断末魔だけ残すと、力なくその場に倒れ伏した。

 そして、体が分解されるように光の粒子に変わり壁や地面に吸収されていく。

 そしてその場には小さな結晶が残った。


 ダンジョン内で倒されたモンスターは光の粒子になり、ダンジョンに吸収され、結晶を残す。

 それは魔結晶と呼ばれ、街の明かりなどをはじめとして町中の様々な動力として使われている。

 冒険者(アーフェ)達がダンジョンに潜る目的の一つである。


 俺はゴブリンの魔結晶を手持ちの小袋に入れ、さらにダンジョンの奥へと駆け出した。


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