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人間は立ち上がるものである

あまねが死んでから1日と半日。

いや死んでいなかったのだから襲撃に遭って、と言った方がいいだろう。

あまねは何事もなかったかのように教会にやってきた。

「やぁ、どれくらい死んだのかな?」

「200と少しだな。」

「おや、随分とペースが早いね。ではこちらも動かなくてはいけないようだ。」

リオンは口をパクパクさせてあまねを指さした。

当然のように話をする末々は教会の奥へと消えて1人の女の死体を持ってきて床に放り投げる。

心臓部に穴の空いた死体。まだ腐っていない新しいものだ。

あまねはあの歪な赤い石を取り出してその穴に埋込み、何やらブツブツと唱えた。

するとみるみるうちに傷がなくなり、女は目を開けて何度か瞬きし、ゆっくりとした動作で起き上がって周囲を見回した。

その女にあまねは声をかける。

「おはよう。調子はどうかな?」

「…………不思議な感じです。私、死んだはずでは……」

「うん。大丈夫そうだね。上手く機能している。では君には仕事を手伝ってもらいたい。いいかな?」

女は困ったように頷いた。

まるであまねに頷かされたように女はあまねから目を逸らせなかった。

末々は壁によりかかり、煙草に火をつけた。

そこにやってきたシオンが何かを女のそばに置いた。

黒い、細長い、歪なもの。

銃である。

「!これ、銃!?なんで」

「そう。銃。これを増やして欲しい。君の能力で。できるね?」

怪しく笑うあまねに促されるまま、女は左手で銃に触れ、右手を上に向ける。

戸惑う女を他所にあまねは肩に手を置き、目を細めた。

瞬きする間にその右手には左手と同じ銃が握られている。

(!弓矢の能力者と同じ能力……いや、あの能力者の能力なのか?)

あまねは満足気にその銃を手に取ると女の頭を撫でた。

「うん。できるね。これをもっと頼むよ。」

女はどこか夢現で曖昧に頷くとシオンにつられて奥へと消えていった。


そもそも女は人間とは少し異なる人種であった。

ドール

それが女の正体である。

ドールとは世界を管理するなかで予定外に死んでしまった者の代わりとして成り変わるものである。

本体が予定外に死ねば徐々にドールは同化を始め、世界の秩序を元に戻していく。

つまりは魔女の都合のいい道具である。

他人の能力に順応できたのもドールにとってあの歪な赤い石は人格そのものだからである。脳は変わらないのだから記憶は引き継がれ、その記憶によって人格を上書きする。

生き返ったというよりは全く同じものを持った別物である。

女にコピー能力の石を埋め込み、あまねが力を込めることでその体は息を吹き返し、あまねが剣から作った銃を量産させる手筈であった。

火薬が発達した、といってもこの国は何百年も前から鎖国状態にある島国である。

当然火薬どころか銃器はない。貴重な能力者の飛び道具が弓矢でったことがその証拠であるとあまねは踏んでいた。

「どうすれば戦争は終わると思う?」

椅子にどかりと座って手と足を組みふんぞり返って高らかに。

その姿はまるで女帝。異常と言える威圧感にリオンは冷や汗が流れるのを感じた。

負けてはいけないと強がってあまねを睨みつける。

あまねは姿勢を直してじっと前を見据え、首を傾げて口を開いた。

「ポリクスが死ぬか、私が死ぬかだ。だから正確には戦争は始まっていない。ポリクスから見れば私は死んでいて戦争はもう終わったことになっているかや。これ程の絶好の機会はあるか?」

未だ正面を見据えているあまねの視線の先をリオンは追う。

そこには呆然と立ち尽くすシスター服の男、末々の姿があった。

あまねが末々に意見を求めている。

あまねの爬虫類ような瞳に見つめられて末々は身の毛がよだつのを感じた。

求められているものを答えなければ殺されると全員が直感した。

末々はその場に膝をつき、祈る姿勢をとってあまねの言葉を肯定した。

「おっしゃるとおりで

「何?聞こえない。」

チャンスを与えているのだとわかった。

肯定の言葉などあまねは求めていない。リオンを含めたその場の全員が唾を飲み飲んだ。

爬虫類ような瞳で、瞳孔を細めて末々を見つめるあまね。

もし、あまねが末々を殺そうというのなら、間に入って止めなければならないと決意させるだけの気迫だった。

末々は喉を震わせながら絞り出すように口を開いた。

「恐れながら申し上げます。魔女様、我々では軍に勝つことは不可能です。」

あまねは黙って末々を見ていて口を挟まなかった。

一先ず話は聞いてくれるのだと解釈をする。

どう言われようと、不可能だとしか言いようがない。

能力者に天使、覆さなければならない要素はあまりにも大きい。

一方であまねも言いたいことを理解はしている。

そしていいしれない感情があまねの中で沸き上がる。自分の圧に対してよく言ったものだと末々を評価する程に。

硬直した空気の中、控えめに手を挙げる存在があった。

先日軍を抜けてきたシオンが何故か目を輝かせる。

「僕は軍の隊列を把握しております。作戦体勢もある程度でしたらわかります。魔女様、僕達はまだやれます!!」

シオンが危惧したことは見捨てられる事だった。何も出来ないと悟られればあまねはこの国を捨ててすぐにでも出ていってしまうだろう。

ただの人間であるシオンとリオンを連れていくことは無いと悟ったシオンは自身の価値を示すように情報を述べた。

じっとシオンの話を聞いていたあまねはシオンの話を終えるのを待ってから立ち上がって末々の方へと歩いていく。

「天使は私が何とかしよう。」

末々の頬に手を添えて、顔を覗き込んだ。

銀色の髪が末々の顔に掛かり、カーテンのように広がる。

細い髪が一本また一本はらりと影を落とした。

光のないあまねの目は末々の中を覗くように、催眠に落とすように、不気味に語りかけた。

「指揮はあなたが取りなさい。私は死ねないから、貴方が代わりに命を掛けるのよ。」

有無を言わせぬ物言いに末々は頷くことすら出来なかった。

音も立てずに末々から離れるとリオンの頭に手を置き、何か言おうと口を開きかけるも直ぐに閉じて協会から出ていってしまう。

暫く誰もその場を動く事が出来なかったがその中で突如手を鳴らす者があった。

「さぁ!作戦会議をしましょう。魔女様は待ってはくれませんよ!」

シオンは満面の笑みで皆の肩を叩いた。

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