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人間はチョロいものである

あまねの背中に矢が突き刺さり、リオンの顔にも血が飛び散った。

あまねは仰向けに倒れ、血溜まりが広がっていく。

それを合図にしていたかのようにゾロゾロと軍営が飛び込んできた。

「魔女の始末に成功しました。」

『ご苦労。魔女の死体を余の前に持ってこい。』

ゴーグルをかけた軍員が無線機で恐らくはポルクスに連絡を入れている。

左手に弓を持ち、右手を前に掲げるとその手には矢が生成された。

(能力者……)

ほかを見渡すと弓を持っているのは目の前の男だけ。能力者にのみ飛び道具が与えられているようだ。

末々は頭を抱えて縮こまり、震えている。

奴隷軍のリーダーである末々が死ねばもう奴隷たちに戦う意思は無くなってしまう。矢を装填する間にリオンはあまねの背中に触れた。

深々と矢が突き刺さり、心臓に達していることは明確。あまねの首に続けて手を這わせるとひんやりとした肌に触れる。

脈はなかった。

ピクリとも動かないあまねから少しずつ離れ、末々の首に手を回す。

矢の先がリオンに狙いを定め、ジリジリと引かれていく。

強いて言えば、窓が開いていたことが幸いした。矢が放たれる瞬間、末々を抱え込んで窓から飛び降りた。

こうして戦争の鐘は鳴った。


何故自分は生きている?

何故誰も追ってこない?

何故、ポルクスはあまねの死体を探すために軍を使役している?

リオンの頭を疑問が埋めつくした。

飛び降りて約一日。

いくら待っても魔女の首が掲げられることは無く、軍員が、探しているものはリオンではなくあまねであった。死体が消えた。

国家反逆は同時進行で処罰されているようで奴隷が120人程捕らえられ、死んだ。

数がわかったのは広場にそれだけの数の首が並べられていたからだ。

軍員はあまねを探すことに必死でリオンの隣を素通りしていく。だから難なく広場で首の数を数えることができたのだ。

今リオンが拠点としているのはあの廃墟の教会である。

あちこちにある廃墟に奴隷たちは身を寄せ合っていつ来るかもわからない軍員に怯えている。

その最前列で末々は煙草に火をつけた。

「あぁ、リオンサマ。また5人の首が追加されたそうだ。……魔女様を探すために軍員はこの教会まで来る余裕はないようだ。魔女様は一体どこに行ってしまったのやら。」

「……生きていると思うか?」

「……さぁ、どうだろう。あの方が矢の一本で死ぬはずもないと思うが。」

「いや、脈がなかった。確実に。俺はこの手で確かめた。」

脈がなく、冷めきったあの肌をリオンは覚えている。人間の肌とは思えない冷たさを。

(あいつは人間じゃあなかったけど。)


時間にしてまるっと一日前。

場所は図書室。

シオンは重い扉を開き、いつもリオンが座っている席を目指した。

足元には軍員の死体が転がっている。

数にして20。

あまねを殺すべく差し向けられた能力者率いる軍員であった。

窓の下で血にまみれたあまねがゴーグルを掛けた軍員の心臓に氷の刃を突き立て、グリグリと抉っている。

「……何をしているのですか?」

「んー?」

あまねは手を止めてシオンを見た。

シオンもあまねを見る。

目の前にいるのは間違いなく、先程背中に矢が突き刺さり、その鼓動を止めて息絶えたはずのあまねである。

「欲しいものがあってね。」

「いえ、そうではなく。僕は魔女様が死んだと聞いているのですが……」

あまねはキョトンとしてシオンを見た。

心底分からないと言った顔でこちらとしては納得いかない。

「なんて報告を受けたの?」

「……背中に矢が刺さり、それは心臓に達して魔女様を殺害。脈はなく、肌は冷めきっていたと。」

「…………間違ってはないけど…確かに脈は無いけど。死んですぐ冷たくなるわけなくない?」

確かにその通りである。

あまねならそういうこともあるかと割り切れそうではあるものの、あまりにも早すぎた。

「ですが、血は流れるのでしょう?脈がないというのは……」

「あぁ、ほら。」

あまねは血塗れの手でシオンの手を取り自身の胸に宛てがった。

布越しのそこに確かに鼓動は感じない。

「私の血は私の魔力が具現化したものだ。この体である以上血液という電力は必要だからね。心臓がなくても血液は流れるのさ。」

「心臓が、ない?」

あまねは再び男の体をえぐりやがて赤い歪な形の石を取り出した。赤色のそれは不気味な輝きを放っている。

「心臓は、取られちゃったんだ。魔女になった時に。」

「それは、返して欲しいですね。死んでいるのと大差ないように感じます。」

あまねが石を月にかがげ、中を確かめるように転がすのを見ながらシオンは言った。

鼓動がなくても血は巡る。

心臓がない。それが意味することの意味をシオンは知らない。

あまねが返した言葉は予想外のものだった。

「別に。心臓があったところで何も変わらないさ。魔女が死ぬ方法はたった一つなんだから。まぁそれが心臓を握りつぶすことであるのなら話は別だがね。」



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