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人間とは惨めなものである。

「…………へぇ、能力者なんだ。そっちの君はお兄さん?」

「はい。心が読めます。読めると言っても会話のように聞こえるだけですが…必ずお役に立てると思います。」

「私は弟のような便利な能力はありませんが、知学に長けていると自負しています。医学にも多少の理解があります。」

リオンとシオンは真っ白な軍服に身を包み、軍の面接を受けていた。

シオンは能力者。加えて武道の嗜みがある。まず採用されるだろう。

問題はリオンの方で、能力も開花していなければ戦闘も出来ない。多少頭がいいだけである。人手が足りていれば採用する理由がない。

リオンは膝の上で拳を握りしめた。

「弟くんは採用しましょう。ただお兄さんは……」

きっちりと前髪を上げたロナウド少尉は難しい顔をしてリオンを見た。

やはりか。

リオンは笑顔に努め、朗らかに笑い、胸を張った。

「実は私も先日能力が開花しましてね、願書の提出には間に合っていなかったのです。」

シオンはリオンを見て目を丸くした。

嘘を突き通すしかない。でなければあまねに不要だと烙印を押されてしまうのだから。

「先程は能力は持っていないと言っていなかったかね?」

「えぇ、弟のような便利な能力はありません。私はただ一度読んだ文献は忘れない。それだけの能力なのです。使い道は色々ありますでしょう?地味な能力ですから、自覚がなかったのですよ。」

大丈夫。騙せている。

興味深げにこちらを覗いている目が物語っている。

こいつがいれば、こいつの、リオンの能力があれば文献を残す必要がない。

覚えるだけならリオン次第でできるだろう。と言った見解だった。

ここからはリオン次第。一度でも失敗すれば地に堕ちる綱渡り。

(躊躇うな。

案ずるな。

顔に出すな。

言葉にするな。

俺たちは俺たちの仕事を果たすだけだ。)

そんなリオンをシオンは心配そうに見ていた。


それから数週間が過ぎ、シオンは訓練場へ派遣された。大の大人でも心の読めるシオンに勝てる奴はそういないだろう。

当たらなければ負けはしない。

シオンはそう言って持ち始めたばかりの剣を持って走り回っていた。

一方リオンはと言うとまだバレずに過ごせていた。

最初の仕事は伝書鳩役。

文献を残す必要がないため一度文献に書き起こし、リオンが覚えると目の前で燃やされた。

これは覚えなくても問題はなかった。一語一句あっている必要は無い。どうせ相手方には文章を知っている者はいない。内容があっていればそれで良かったのだからあとはそれらしい文面にしてやればいい。

随分と古典的だが内緒話には持ってこいだ。証拠隠滅が不要ということはそれなりに重宝される。本当は誰でも出来ることでも、だ。

他の時間は図書館に放り込まれた。

書物が増えてきているため頭に写し破棄せよとの命令だった。

なんと勿体ない。貴重な文献が沢山あると言うのに。どうせ読み聞かせよと言われることは無いのだ。内容さえ把握していればそれでいい。とは言っても覚えるにしても把握するにしても一読は必要。相当根気のいる作業である。

「どうせなら、必要そうな物、重要そうな物から読むか。」

向こうから情報を寄越してくれるのだから滑稽な話である。

一先ず、種族図鑑を手に取った。

リオンは人間しか見たことはなかったがどうにも天使というものはいるらしい。

獣人、吸血鬼、妖狐、様々な種族がいる中の一つに天使があった。

天使を飼っているという話が言葉通りなら、天使について情報を持っておいても損は無い。

『天使』

掠れたインクで印刷された文字を指でなぞる。

ピンク色の翼の生えた人型の写真がそこに数枚載っていた。

頭の上に輪があるかと思っていたがそれは無さそうだ。

コンコンコン

窓をノックされ、顔を上げるとあまねが手を振っている。

鍵を開けてやろうと窓に近づくとひとりでにガチャりと窓が開いた。

(なんでノックしたんだよ。)

そう言おうともあまねはヒラヒラと手を振って窓辺に腰掛けた。

リオンが開いていたページを見てまた笑う。

「天使見たことないの?」

「当たり前だろ。俺たちの国は島国だ。人間で閉鎖された国で他種族はいないんだよ。」

どこか馬鹿にされたように感じて頬を膨らませる。

あまねはその頬をつつきまた笑った。

「天使というのはね、身体的特徴で言えばピンクの翼。再生能力に長けた種族だよ。」

「再生能力?」

「腕、足、目、何が欠けても即時再生される。彼らが天使と呼ばれる理由はそれなんだ。その秘密は彼らの血にある。血を飲めば分量によっては他人の傷も再生してしまうよ。丸々一体分あれば死者蘇生すら可能だ。厄介な相手だろう?彼らは絶滅危惧種だ。死者蘇生のために捕獲され、虐殺の歴史を辿った。」

頭を振ってあまねは残念そうに言った。

そして図鑑を手に取り、真っ二つに破いてしまった。

唖然とするリオンを横目にあまねは続ける。

「残念だ。残念だよ。私は天使が嫌いだ。天使どもは本当に望んでいる人のところには現れない。しかしこうして囚われている以上私は天使を解放してやるしかないんだ。これも仕事のひとつだからね。都合のいい話だよ、本当に。」

あまねは愛おしそうにリオンの頭を撫でて、撫でて、ずっと撫でた。

リオンはどうしてかその手を振り払う気にはなれなかった。


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