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人間は醜悪である

始まりの国に到着!

第一章の幕開けです!

長い銀髪を揺らしながら魔女は海を歩く。

海を凍らせてその上を歩く。

魔女は振り向きもしない。

魔女は後ろも過去も見ない。

魔女にとって過去は前にあるものだからである。

リオンは前を見つめる魔女を追う。シオンも黙って後を追う。

「なんで凍るんだよ」

「ん?そりゃあね、海なんて少し前までは氷の塊だったんだから。」

当然のように肩を竦めていうものだから目の前の少女が本当はもっと年は上なのかと思った。

海が氷の塊だった、というのはいつの話なのか。聞いたことが無い。

「まぁ、関係なく凍らせることくらいは出来るけどね。しないよ。いや、どっちの方が都合がいいのかなぁ。」

ぼんやりと太陽を見ながらあまねは手をかざした。

シオンも真似て手をかざす。

リオンは前を見る。

水平線に黒い影が見えた。

「……嵐が来るのか?」

「いや、あれは島だね。なんて言う国があるのかな。」

「方角的にはエトゥフェだな。」

「近隣では有名な閉鎖国家だよね、貿易もしてないしメディアにも出ない。」

有名な話だ。

エトゥフェの王様は変わり者で国を閉鎖し、平民制度を無くした。

王族、貴族、後は奴隷。

極端だが、身分がハッキリしていてわかりやすい。

あまねはエトゥフェを見て目を細めながら眉をひそめた。


港に着いた瞬間に囲まれた。

が、思っていたものとは違った。

てっきり戦闘態勢を取られると思っていたが兵士たちは恭しくあまねに頭を下げている。

あまねはその辺の兵士の頭を小突き、ご苦労様、と声を掛けた。

「は、あんたこの国の出身?それとも王族?」

「違うよ、私は」

「あぁ、あああああああああ!お帰りなさいませ!魔女様!あぁ、魔女様は約束を果たしに来てくださった!ようやく、ようやくだ!ようやく永遠の命が手に入る!」

見るからにでっぷりとした風格の男が出てきた。付き人が後ろを転がってくる。あまねが水平線に見えてからこの体で無理をして走ってきたのだろう。あまねはその様子を見て眉を寄せる。

「約束?」

「魔女様!我々は約束を果たしました!今度は魔女様の番です!魔女様への献上物は用意できています!」

「……あぁ、そんな話もあったっけな。忘れていたよ。何世代前の王だったかな……ねぇ、シュヴァインは貴方の祖父?」

少し禿げてきた頭が太陽に反射していた。

多分だがあまねはその王、ポルクスの顔を見ていない。多分、いや、間違いなく禿げているところを見ている。何故かは知らない。

だが、場違いにも笑いそうになってしまった。

大の大人が永遠の命だと騒いでいる。

当の本人、あまねはそれに心当たりはあるもののどうにもポルクスのは熱の温度が違う。炎と氷のように。水と油のように。

「シュヴァインはこの国の創設者です。もう500年前になりますよ。」

「おや、そんなに経ってしまったのかい。これはこれは。シュヴァインには悪いことをした。約束の魔女が約束を忘れるだなんて恥ずかしいね。」

嘘だ。あまねの目は笑ってはいない。

シオンが身震いをしてリオンの陰に隠れた。

シオンは気配に敏感だ。武道に役立つ程に敏感で、殺気どころか視線すらも感じ取る。

そのシオンが怖がるのだからただじゃおかないと1歩、また1歩とリオンは下がった。

「献上物は?」

「魔女様の遺跡でございます!ここでは魔女様は神と同然!いかがでしょう!」

「なるほど。地位に地位で返したか。うん、悪くない。おい人間。これにて精算完了としてやる。今後は私を恐れ、敬うように躾ろ。」

じゃあ、とあまねは国の中心部へ向かう。

思っていたのと違う現実にシオンとリオンはあまねの後を追う。

慌てたのはポルクスだ。

永遠の命が手に入ると思っているのだからそうだろうと少し哀れに思った。

「な、何故です!?あなたも約束を果たして頂きたい!」

あまねは前を向いたまま答えた。

「私が約束を結んだのは貴様ではない。シュヴァインだ。500年前シュヴァインは私と約束を結んだのだ。私の力と成る代わりに絶対的な地位と金をくれ、とな。その代償を貴様が払わされた、ということだ。理解したか?」

あまねは首だけ振り返った。その目は笑っていなければ、シオンとリオンを前にして朗らかにおどける姿もない。

魔女というより悪魔と言った方がいいかもしれない。

「な、なぜ、何故!?何故私が結んだ約束では無いのに!私が代償を払わねばならんのだ!小娘が!いい加減にしろよ!!私を誰だと思っている!」

「そもそも。『約束』とは契約だ。必ずしも本人が支払う必要は無い。ただし、一度『約束』を結べばその代償は必ずし支払われる。そう、貴様らの運命に刻み込まれるのだ。別に、私がここに来ずとも代償は支払われる。大したものでは無いがな。」

あまねは今度こそ前を向いて歩いていく。その後ろ姿の風格に思わず鳥肌が立った。

リオンたちも1歩間違えればあまねに消されてしまうのだろうか。

聡い二人にはわかった。ポルクスをあまねは殺さない。いや、殺せない。ポルクスが支払う代償。それが命では無い限り、それが国民のあまねという神への信仰、畏怖である以上、あまねがポルクスを殺せば反感を買う。代償が支払われなくなってしまう。もし献上物が畏怖だけであったなら。ポルクスの頭はあまねの手の上に転がっていたことだろう。

その場にはポルクスの絶叫と、呪詛が響いていた。

自分勝手な大人を前に子供達は育っていく。

あんなデブに何を学べというのか。

醜い肉の塊など見えないかのようにあまねは国の内部へと歩みを進める。



「なんというか、普通の街ですね。」

シオンの言う通り、見た目は普通の街である。

どうも村人の服装が少し華美な気がするだけでなんの違和感もない。ただ、貴族を冠する者たちが平民と同じように、少し華美に暮らしているだけ。

「見えているものは極一部だね。国土に対して街が小さすぎる。この分じゃあ貴族よりも奴隷の方が多そうだ。」

それに、味も酷いと道に噛んでいた肉を吐き捨てた。

リオンに渡して自分は違うものを見に行く。

一口食べてみたが確かに酷い味だった。

「………何の肉だ、これ。」

「どれどれ………???」

シオンも首を傾げている。残った肉を食べようとは思えずその辺のゴミ箱に捨てることにして、あまねを追う。

あまねが次に手にしたのはりんご飴だった。

真っ赤な宝石様なりんご飴をあまねは牙のついた口で噛み砕いた。

バリバリと飴が砕ける音がする。

シオンはその様子を唖然として見ていた。

その姿がまるで猛獣が獲物を狩る姿のようで、ただ、美しいと思ってしまった。

「……うん、普通のりんご飴かなぁ。はい。シオンあげる。」

殆ど食べないままあまねはシオンに残りを渡した。今度はシオンがかぶりつく。

シャリシャリと林檎が音を立てた。

「あ、おい」

リオンがシオンに手を伸ばすも時既に遅し、後ろから衝撃を受けてシオンは前のめりにコケる。

りんご飴は宙を舞い、あまねの手に落ちた。

衝撃の正体は小さな子供で、その手には赤く染ったナイフを持っている。

シオンが刺されたと理解するのに時間は必要なかった。

「………誰?」

あまねは子供の髪を鷲掴みにし、持ち上げた。その際にナイフは落ちる。

ブチブチと子供の髪がちぎれる音がした。

背中から刺されたシオンをうつ伏せにし、上着を脱いで止血する。

「……!……、!魔女め!あんたが、あんたのせいで私たちは!!」

「逆恨みか。」

いや、逆恨みではないだろう。間違いなく元凶はあまねだ。

魔女との約束のせいで自分たちが奴隷であるという考えは間違っていない。実際そうだからだ。

とはいえ、恨みの感情は契約には無い。約束の通りであればこの国の者たちはあまねを信仰しているはずだ。

「で、なんでシオンが刺されなきゃいけないの?」

辺りが冷えた気がする。

あまねの手を中心に子供の髪がパキパキと音を立てて凍っているようだ。

あまねの目は笑っていない。どう考えてもあまねは怒っている。即殺されなかっただけ子供は幸運だ。

今日のあまねの機嫌がよかった。それだけ。

「あんたが…!」

「うるさい」

あまねは子供の口をなぞった。

すると子供の口はまるで縫い付けられたように開かなくなってしまった。

聞くだけは聞くが話を聞くつもりは毛頭ないのだ。あまねはただ自分の所有物を傷つけられておこっているだけ。その怒りを収めるのに何人殺すのだろうか。きっと子供を殺すのは、最後になる。それまで片手間に人を殺しその様子を見せつけるのだろう。

人混みを掻き分け、あまねから子供を奪い取る手があった。

随分と質素な格好をした女。

「申し訳ありません!魔女様!!どうか、どうか!お許しを!」

子供を後生大事に抱えてあまねに許しを乞う。

リオンはその様子を見てゾッとした。

あまねの顔が、酷く歪んでいたからだ。

「……覚悟があって、私の所有物に手を出したのではないの?」

あまねは指をパチンと鳴らす。

その音と共に子供の頭が膨れ上がり、やがて破裂した。辺りに血が飛び散り、母親の顔を赤く染めていく。頭1つ分の血液と脳の破片、髪の毛一本一本が辺りを汚した。その中心でそれらの影響を受けず、血の一滴も浴びることなく立っているあまねの異様さが際立った。

母親は呆然として腕の中の子供を見つめ、やがて叫び声を上げた。

「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

あまねは女を小突き、後ろに倒す。

「あ。」

女が声を上げると同時に全身が捻れ上がり、目玉が飛び出し血を噴きながら石畳の通路に転がった。

真顔に戻ったあまねの表情は動かないまま、ただゴミを見るように見下ろし、蹴り上げてからシオンのところへ戻った。

「……死ぬの?」

「……、死なせるものか!絶対、死なせない!」

「どうして?」

どうして、だと?

シオンが刺されて怒っているのでは無いのか。

あまねはもうシオンに興味は無くなってしまったというのだろうか。

止血していたせいで赤くなった上着を剥ぎ取り、傷口をなぞった。

既にシオンの目の光は失われつつある。

誰がどう見ても出血が多すぎた。

「………ナイフ。」

「は」

「刺されたナイフがあるでしょ。取ってきて。あと、広がった血を誰にも踏ませないで。」

あまねはシオンの背中に手を添えた。

リオンは慌ててナイフを取ってきてあまねに渡した。今思えば浅はかだったと思う。

あまねがナイフでシオンにとどめを刺すかもしれない。しかし、あまねにはナイフなど必要ない。だから

きっと必要なことなのだろうと信じて疑わなかった。

それぐらい、リオンは焦っていた。

あまねはそっとナイフをシオンの傷口に刺していく。

シオンは動かなかった。

全く同じところにそっと、鍵穴に差し込むように、慎重に。

あまねの右目が怪しく光ったかと思うと新しいを同じ光が包み、まるで逆再生のように、血がシオンの中に戻っていく。

そっとナイフをあまねが引き抜くと同時に完全に血はシオンへ戻り、傷口も塞がった。

「ん、……ん?」

ゆっくりとシオンは目を開けて辺りを見渡した。

あまねはナイフをその辺に投げ捨て、シオンの頭を撫でながらリオンを見た。

「なぁに。その顔。」

「お前……本当に魔女なんだな。」

「え、うん。そうだよ。え?言ってたよね?あれ言わなかったっけ」

「いや、聞いてた。……けど……」

「あら?あららららら?リオンどうしたの、どうして泣くの?」

リオンは大粒の涙を流してあまねに飛びついた。










この第一章であまねの人格をよくわかってもらえたらな、と思います。

私の中でもあまねの人格像はハッキリしていません。

はっきりしていないというのが人格像なのかもしれませんね。

魔女であるあまねは残酷でなければと思います。でもきっとあまねは、人間らしくいたいはずなんです。

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