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花は次の種を残して咲き代わる

土人形の正体は両親の意識を土の器に埋め込んだもの。

抜け殻になった本体に用はない。

それで死ぬことはないが、栄養の供給はもうずっとしていない。

人として死んでいるだろう。

彼岸は俯いて口を噤んだ。

「……追えば?」

「……」

「あまね様、追えば?」

どこか気まずそうに真人が声を掛けた。

意味がわからず顔を上げる。

いやほんとになんでそんな顔してるんだ。

思わず我に返ってしまう。

照れくさそうに顔の下半分を手で隠しながら真人はそっぽを向く。

龍もうんうんと頷いているあたり二人には共通の認識があるのだろうが、何故???

「いや、ほら……その……」

「……なんでそんなに照れてんの?」

つい、口にまで出してしまった。

龍がパンと手を叩いて楽しそうに揺れる。

「パパとママを殺すって格好つけて息巻いたのに、本体はもう死んでるってなって恥ずかしいんだよねぇ。」

「龍!!うるせえええ!」

真人が屋根の上から龍に飛びかかる。

きゃーと笑いながら真人に転がされ、着物を汚す。

「……まぁ、なんだ。月の華花魁、あまね様に殺される前に追いかけた方が…い、んじゃ…ねーの。」

段々と小さくなる声。

自信なさげに口にするそこ声はまだ恥ずかしさを隠しきれていない。

「余計なことまで語っちゃったから余計恥ずかしいねぇ。」

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!もう黙れよ!!」

恥ずかしいと思っていることを龍に暴露されて真人は限界に達し、ワイヤーで龍を吊るし上げる。

人程度ふれるこおもできないワイヤーだが鬼人である龍にはこの程度の硬度では意味がない。

じゃれ合う二人を見てもう、彼岸に対する敵意は無いのだと察した。

「……私、魔女を殺すかもよ?」

「あぁ?」

ピタリと手を止めて真人が彼岸を見る。

元凶を吊し上げたからか恥ずかしさの色は消え、怪訝そうな顔色を浮かべている。

「仮にお前があまね様を殺すことができたとして、俺は構わない。」

「は?」

「俺にとって大事なのは龍だけだからな。あまね様が死のうが、他の誰が死のうがどうでもいい。命の価値は平等ではないと言ったのもあまね様がいるからだ。あまね様よりも命に価値のない生物はいない。あまね様は死なないからな。殺す、という言葉に一番歓喜するのはあまね様だぜ?そんなやつにとって死が同等のものであると思うか?」

彼岸を見つめる真人の後ろで口を塞がれていた龍がもがき、やっとの思いで口を出す。

「まぁたそんなこと言っちゃって。カッコつけて格言ぽいことを話すとあとから黒歴史になるよぉ。」

「…………いい加減黙れ。」

そしてまた龍を吊し上げる作業に戻ってしまう。

目の前の馬鹿な二人を見て彼岸は察した。

あぁ、この2人、本当に私に興味がないんだ。

これ以上二人を気にしても仕方がない気がするので彼岸はあまねが歩いていった方向に身体を向け、姿が見えなくなったあまねを追って走り出した。


彼岸の姿が見えなくなったころ、漸く真人も龍を吊るし上げる手を止める。

「行ったか。」

「行っちゃったねぇ。」

「そうだねぇ。」

「「ん?」」

龍と真人は思わず顔を見合わせる。

最後の肯定は二人のものではない。

辺りを見渡すと真人が先程までしゃがみこんでいた屋根の上、銀髪を結び直しながら上品に佇む幻想的な美女、否、あまねの姿があった。

「は!?」

「あまね様、いつからそこに…?」

「んー、なんだっけ、命の価値は平等じゃな「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」

ケラケラとあまねも笑いながら屋根から飛び降りる。

先程彼岸が走っていった方向とは違う方向から姿を現したあまね。

龍がワイヤーを抜け出すのを手伝いながら話し始めた。

「いやさ、途中で引き返してきたんだよ。だってね?一度吹っ飛ばされてるわけじゃない?また行ったところで同じでしょ?都合のいい何かを利用したいなーと思ってさ。で戻って来てみたらさっきの子が深刻そうな顔してるじゃない?深刻な雰囲気って私苦手。私が入ったら絶対その雰囲気壊れちゃうもの。だから、隠れて様子を伺っていたんだけど……よし、取れたよ。」

クルクルとワイヤーを丸めて龍が立ち上がるのに手を貸す。

立ち上がらせると着物の裾を払って綺麗にした。

「まさか真人があんなことを言うようになっていたとはね。」

「もぉぉぉぉぉぉお!!黙れよ!!」

「はいはい。揶揄うのはこれくらいにして、これからどうしようね。」

「?月の華花魁を殺すって話ですか?」

「それなんだけどさ、月の華花魁は天狐の母体になってるわけ。天狐そのものとは言わないけど恩恵は賜ってるわけで、神通力が使えるのよ。それで吹き飛ばされたわけなんだけど……」

頬を搔いて斜め上をむくあまねに真人は察した。

つまり、あまねとは相性が悪いのだ。

真人と龍には天狐、神通力について詳しい話は分からないが聞いた限りではあまねを吹き飛ばす作用がある。それはあまねに干渉することができるということだ。

そしてあまねはこの空間に干渉することができないのだと真人は考えている。

世界の管理者として干渉する権限があるが、ここは神通力で空間をねじ曲げて作られた天狐の支配する空間なのだとして、世界とはまた異なるものであるのならばあまねの権限が機能しないのも頷ける。

魔女の力のお陰で元々扱える能力値が底上げされてはいるが、今のあまねは死なないだけの一般人。

体内に循環する魔力を使っても干渉することは出来ず、この世界を支配するのは天狐である以上いつも通りのパフォーマンスはできないのである。

神通力、恐らくはあまねの能力よりも発動が早い。

あまねの氷は氷を生成しているわけではなく、空気中の水分を使用する。

つまり凍らせる以前に一度冷やす過程が必要なのである。

魔女の力(以下を魔力の略す)のバフのお陰で1秒も要らない過程ではあるが、ノータイムでの攻撃が可能である神通力とは相性が悪い。

加えてあまねの氷の攻撃範囲は決して広くない。

触れることが出来れば脳に干渉し、内側から壊すことも可能ではあるが先程も言った通り難しい。

「さー、どうしようかな。」

ぺろりとあまねが舌なめずりをした。

どうしようかなと思いつつ、実際どうでもいいのだろうなと真人は思う。

龍も、真人も、彼岸も、月の華花魁とやらも。

あまねの視界にいるだけで意識されているのか怪しい。

逆にそれが楽ではあるのだが。


「え、無事…なの?」

「うん?うん。」

慌てて月の華花魁が住む城に駆けつけたはいいものの、ケロリと彼岸を笑って出迎える月の華花魁に拍子抜けしてしまった。

敷地に上がるように招き入れ、近くの禿に美味しいお茶と茶菓子を用意するよう、言いつける。

「さ、彼岸。美味しい茶菓子をこの間頂いたんだ。彼岸と食べようと思って取っておいたの。お茶はいつものでいいよね?最近入った禿がお茶を入れてくれるんだけど漸く飲めるくらいになってきたんだ。ちょっと飲んでやってよ。」

ぐいぐいと彼岸の腕を引く月の華花魁。

抵抗する気も起きずされるがままに中を案内されるが、こうして顔を見るのも数ヶ月ぶりだった。

避けているわけではなかったがどうにも、月の華花魁の腹が大きくなるにつれて外を歩かなくなり、姿を見せなくなったことで彼岸は自然と城から足を遠ざけたのである。

「最近来てくれてなかったもんね。寂しかったんだよ。ここにいても暇だから。」

「…………体調はどう?」

「ん?へーき!ココ最近凄く調子がいいんだ!お務めが終わったらまた二人で外を歩こう。」

ツキンと彼岸の胸の中で痛みが走った。

それと同時に違和感を感じる。

調子がいい?

今まで、その腹が大きくなるにつれて動くことすら億劫になるように、城内どころか自室から出てくることですら珍しいと言われるようになったのに?

それと同時にどんどん化粧は濃くなって、バレバレなのに、そうして隠せているつもりなのも。

こちらに希望を持たせるように言うのも。

わかっている。全ては月の華花魁の気遣いだ。

今日だって彼岸が久しぶりに顔を出したからそう取り繕っているだけなのだろう。

嫌でも理解する。

今の現状を。

「月の華花魁。」

ピタリと月の華花魁が足を止める。

彼岸の手を離してゆっくりと振り返った。

「……彼岸、俺のことは名前で呼んでよ。たった二人の兄妹なんだからさ。彼岸まで俺のことを月の華花魁だなんて呼んだら、寂しいじゃん。」

眉を寄せて本当に悲しげに言うものだから、彼岸は言葉を失った。

答えをくれない彼岸に対して気にもせず月の華花魁はまた前を向き、再び彼岸の手を引いて歩いていく。


「よぉ。」

「……………………なんの用。」

月が高く登った真夜中。

真人は彼岸の元を訪れた。

眠そうに目を擦る仕草を見せるも、本当は眠りについていなかったことを真人は知っている。

窓に腰かけ、冷たい空気を部屋に招き入れながら真人は彼岸の顔を覗き込んだ。

「月の華花魁は無事だったか?」

「…………えぇ、最近調子もいいみたい。」

「そうか。よかったな。」

「えぇ。この調子ならまた外に出られそうよ。」

「それが嘘だとしても良かったじゃん。」

思わず息を止めてしまった。

悟られないように真人の顔を見る。

真人はいつも通りの顔で彼岸を見ていた。

「どういうこと?」

「嘘だろ?調子がいいなんてさ。あんたに心配かけないようにしてるってことだろ?よかったな。愛されてるぜ。」

「……知ったような口を聞いてくれちゃってさ。もう話は終わったでしょ?次会う時はあなた達も殺すよ。」

「嘘くらい見抜けなくてあの人の付き人が務まると思うなよ。つか、まだそんなこと言ってんのかよ。あんたじゃ俺らは殺せないってわかったろ。」

ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。

真人も真人なりにあまねには思うところがあるのだろう。

どうにもあまねに対する尊敬の意を感じないが、立場を弁える程度の丁寧さはあった。

どこか投げやりな感じは拭いきれないが。

「次は殺せるわ。パパとママを強化する。」

「へぇ。龍の爪でも、俺のワイヤーでも切れないような硬度にするか?龍の体を砕けるように重量を上げるか?無理だな。人間の意識で操れる大きさはあの合体したサイズが限界だ。」

「人間じゃなかったら?」

「……どういう意味だ。」

「別に。根拠はないの。でも、人間じゃない者の意識ならどこまで操れるのかなって思っただけ。」

「さぁ。人間かどうかはあんまり関係ないと思うぞ。結局は意識の強さの問題なんだ。自己を保つ力の強さ。」

また恥ずかしいことを言う前に口を閉じておこうと真人は手の甲で顔を隠した。

彼岸には意図がバレたようでくすりと笑う。

結局笑われるならさっさと用事を済ませようと真人は彼岸に向き直った。

「月の華花魁について話が聞きたい。」

「答える義理はないよね。」

「ない。でも、あまね様の機嫌が変わる。」

ぴくりと彼岸が反応した。

あまねの機嫌次第ではこの空間は消滅するだろう。

今はまだなりを潜めてはいるが、もういつ癇癪を起こすか分からないのが現状だ。

真人としても無駄に人が死ぬのは避けたい。龍以外はどうなっても構わないが余計に人が死ぬのは寝覚めが悪いと思う。

なんでこうもあまねは時限爆弾のような存在なのだろう。

しかし彼岸の期待は別にあった。

あまねの機嫌次第では、月の華花魁を助けてくれるのではないか。

母体ごと殺そうというが一度吹っ飛ばされてきたことで対応を考えているのだろうと彼岸は考える。

ならば、彼岸の知る月の華花魁、若しくは自分には心を開き、容易に顔合わせができる自分は、あまねにとって無視できないほどの価値があるのではないか。

上手くやれば、自分を人質に月の華花魁を救うよう仕向けることが出来るかもしれない。

それは彼岸にとって十分な希望だった。

「……教えるわけないでしょ。月の華花魁を殺すって言ってる奴らに。」

「だよなぁ。まぁ、嘘でもいいからさ。どう?」

何がどう?なのか。

会話が上手く成立している気がしない。

目の前の嘘を見抜けると自称する少年を騙さなければ彼岸の望むものはやってこない。

彼岸の背中を嫌な汗が伝う。

「私に得がないもの。」

「それもそうだな…んー、俺があまね様に話をするよ。月の華花魁の命を助けるように。」

「……それは上手くいかないでしょう?あなたの発言権はそこまで強くない。いいえ、魔女は話を聞かないんじゃないの。」

「んーこりゃ手厳しい。」

真人は窓の縁から降りて彼岸の正面に胡座をかいて座った。

行儀が悪く肘をつき、なんとか考えを絞り出そうとする。

「……あなた、そこまで馬鹿では無いでしょう。信用出来ないわ。」

「あはは、ちょっとわざとらしすぎた?」

ぺろりと舌を出して真人は笑う。

行事悪い所作で堅苦しさを排除して話しやすい雰囲気を作ろうとしたのだろう。

お粗末な程に分かりやすい。

「何が聞きたいのかだけは聞いてあげる。」

「なんでもさ。月の華花魁のことに関することなら何でも。例えば…双子として生まれたのに、どうして月の華花魁が器として選ばれたのか、とかね。」

「……それは知らないわ。私だって、勿論月の華花魁だって、好きでこの立場にいる訳じゃない。片割れが月の華花魁だから、私も予備としてこの地位にいるの。決して自由ではないから、月の華花魁についてはあまり話せないかもしれない。」

これは本音だ。彼岸だって、月の華花魁が選ばれた理由は知らない。

むしろ知りたいとさえ思う。

彼岸は寝ることを諦めて布団から這い出て真人と向き直る。

化かし合いの始まりだ。

しかしこちらが正座をすれば律儀に真人も正座をするあたり、やはり違和感を感じる。

あのあまねの元で育ったとは思えないのだ。

龍もそうだ。

あまねの元で育ったにしては、と思うところがあった。

彼岸は重い口を開く。

「…………魔女の機嫌はどう?」

真人は肩を竦めて答えた。

「お気遣い?そりゃどうも。今は安定してるよ。あの人、情緒不安定に見えるけど実はそうでもないんだよ。気まぐれな所は否定しないけどさ。機嫌損ねないに越したことはないんだけどね。いつ機嫌が変わるか分からないからこっちとしても答えて欲しいんだよねー。」

「…………機嫌によってはどうなるの。」

「どう、とは?死ぬ人数が変わるだけさ。なるべく死ぬ人は少なくしたい。俺たちはあまね様のストッパーの役割もあるからね。」

「とても本音とは思えないわね。」

「そうでもない。俺たちはそれぞれの願いがあってあまね様に命を預けている。その結果、死ぬとしてもそれを変えることはありえない。」

それから真人はたっぷりと間を置いた。

彼岸が話を始めるのを待っているのかと思うほどの長さだった。

それでも彼岸は待った。

まだ話は続いていると思ったから。

「俺の願いは、『これ以上人を殺さないこと。』」

真人は自分の手を握って開いてを繰り返す。

その手が少し震えているのは演技だろうか、それとも必死に隠そうとしているが故に握りこもうとしては開いているのだろうか。

「……だから龍は俺が人を殺すことを許さない。俺は人間になったんだ。殺すこと、人が死ぬことに抵抗はない。でも、人が死んでもいつも通り過ごせるのなら、それはもう人間じゃないと思うんだ。」

最後にぐっと握りこんで、額に当てる。

その姿は祈っているようにも見えた。

しばらくその体勢でじっとしたあと、漸く拳を下ろす。

彼岸を見つめる瞳は月光に反射して赤く、キラキラと輝いた。

「……誰も死なせない、なんて言えない。きっと、ゼロにするのは無理だ。でも、ゼロを目指したい。いつだって、それを可能にするのはあまね様なんだ。あまね様次第で未来は変わる。彼岸、俺に力を貸してくれ。」

姿勢を正して、両手を揃えて前に置き、精錬された仕草で頭を下げた。

彼岸はなんと言っていいか分からず、真人の差し出された旋毛を見つめた。

嘘だろうと思った。

魔女の仲間がそんなことを言うはずがない。

でも、嘘だと思いたくない。

真人の理想は夢物語だ。

たらればの幻想。

目指すだけ無駄の、妄想。

ここで頷くだけでは真人の思う壺だということはわかっていたから、はいはいと、頷くつもりは毛頭なかったが、どうにも真人の扱いに困ってしまった。

「私に、どうしろというの。」

どうして欲しいの。

どうしたらいいの。

私は、何ができるの。

一言零れた言葉は真人に対する言葉ではなく、彼岸の悲鳴のようなものだった。

「一緒に来て欲しい。」

顔を上げた真人は真っ直ぐに彼岸を見つめた。

赤い瞳がランランと光って暗闇に浮かび上がる。

返す言葉に迷っていると真人は窓に足を掛けて手を差し出した。

言葉はない。

文字通り手を取れとその目で語りかけてくる。

ここで手を取ればあまねのところへと案内されるのだろう。

あまねを殺そうとする者を易々と近づけても良いものかと思うが、きっと真人は連れていく。

関係ないと言い切って。

彼岸はその手を見つめ、勢いよく握った。


「おかえり。人たらし。」

街を抜けた森の中にある洞窟にあまねは姿勢を正して座っていた。

龍の姿はない。

開口一番がとんだものだった。

一瞬彼岸が言われたのかと思ったがどうも違うらしい。

真人がむっと顔を顰めてあまねに不快さをアピールしる。

「随分な物言いですね、貴方には言われたくありませんよ、あまね様。」

「んふふ、いいわねぇ、その顔。生憎、私は人たらしではないよ。」

「どうだか。」

肩を竦めてみせるとあまねはまた笑う。

どうにもあまねには反抗的な行動を好む習性がある。

あまねが真人を傍においているのもそのせいだと真人は思っていた。

しかし、あまねは子育てというものが向いていない。

そもそも、子育てをしない。

自分たちを引き取った時も、多くのことは教えてくれなかった。

だから、小鴨のようにあとを必死になってついて行った。

「あまね様には苦労させられます。」

「え、そんな苦労させたっけ。」

本人に自覚がないときた。

あまねは真人の悩みの種なのだろうな、と彼岸は思う。

「ただいま戻りました。」

ひょっこりと龍が外から顔を出した。

その手にはスマートフォンが握られている。

真人たちも持ってはいるがカバーの付けられていないそれはあまねの物だ。

あまねは絶望的に機械が使えない。

しかも持ち歩かない。

真人たちが持たせなければあまねのスマホはどこかへ旅に出てしまうのだ。

時には玄関マットの下

またある時には救急箱の中

敷地内にあればいいが、一番探すのに苦労したのは街の噴水の中にあったときだ。

「また無くしたんですか。」

「いやいや、まだ無くしてないよ。龍にスマホが繋がるか確認して貰ってきたの。」

「まだって……無くす予定があるんですか…やっぱり普段わざとどこかに置いてきてます?」

「そんなわけないじゃない。きっと妖精さんよ。」

人差し指をピンと立てて力説を語る。

ニコニコと見ている龍に対して真人は冷めた視線を送った。

「うちの国に妖精はいないじゃないですか。」

「え、いるよ。」

「え、まじですか。」

まさか本当に妖精の仕業というのだろうか。

純粋な心の持ち主しか見えない妖精がいると言うのか。

まさか、龍には見えているのかと真人は恐る恐る龍に助けを求めたがぽかんと口を開けて同じように真人に助けを求める龍と顔を合わせることになったので真人と同じことなのだろう。

「あの、そろそろいいかな?」

控えめに右手を上げ、彼岸はあまねを睨む。

話に入るタイミングを失い、放置されればいい加減腹も立つ。

あまねは悪びれることなく龍に視線を向けた。

「で、どうだった?」

「この辺りはダメですね。空間の端ならあるいはと行ってみたのですがいつの間にか戻ってきていました。」

ピコピコと龍が自分のスマホを操作すると真人の懐で真人のスマホが震えた。

真人がスマホ取り出し、確認すると

『位置情報探索送信中』

の文字が。

龍がスマホの画面をあまねに向ける。

そこには真人のスマホの位置情報が映っており、おにぎりのアイコンがプルプルと存在を主張するように揺れている。

「この空間の中では問題なく使えます。完全に隔離空間のようですね、中と外を電波で繋ぐことは出来ないようです。」

「なるほどなるほど。中の者の助けは呼べるけれど、外からの助けは呼べないわけか。んー、参ったねぇ。」

「……魔女のあなたならどうにでもなるんでしょ。」

皮肉を込めて言うもあまねには伝わっていないようであまねは立ち上がってぐっ、と伸びをした。

数秒伸ばしたあとぱっと手を離し、今度は肩を回す。

「そろそろ帰らないと、他の子供たちが心配だからね。」

真人は他の兄弟を思い浮かべる。

自由気ままで大きな翼持つ兄達

愛らしい耳を生やした寂しがり屋の弟達

嫉妬深い上に素直になれない妹

それなりの数に増えた兄弟。

それぞれみんな言ってしまえば暴れん坊で、それでいて少々難ある子達だ。

あまねは子育てをしないので各々あちこちに預けられていることになっているがある程度育てば自由に国を歩き回る。

あまねが暫く帰ってこないとなったら何をしでかすか分からないと真人は重くなる頭を抱えた。

あまねが国にいないことは当たり前だがここの時間が外の時間とズレている可能性はある。

数日過ごしたのが実は数ヶ月というようなものになるやもしれない。

「……焦っても進まないもんね。1つずつやっていこう。」

あまねは空に浮かぶ月を眺めて呟いた。

龍は懸命に頷くが、彼岸は

あなたはもっと焦った方がいいと思うけどな

と喉まででかかったが舌を噛んで何とか飲み込んだ。







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