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花は花を咲かせる時迄も

あまねは真人と龍の心配をしていない。

あの程度なら2人が死ぬことは無いと判断しているからだ。

あまねの考えは甘かったりする。

あまねは死ぬことがない。怪我をしても直ぐに元通りになるためその辺の判断が適当なところがある。

あまねの認識はどれだけ怪我をしても死ぬことはない、である。

生きてさえいればどうとでもなる。

故にあまねは振り返ることはしない。

飛ばされてきた道をただ戻るだけである。

飛ばされる前、月の華花魁にあまねは何かの力で吹き飛ばされた。

視認することは出来なかったがダメージは少ない。

力の消耗も少ない。

というよりはこの空間では魔女の干渉権限はないため魔女の力を阻害しているという認識の方が正しいだろう。

傷の治りも少々遅い。

あまねは月の華花魁に会って納得した。

生命の数が合わない矛盾。現実の齟齬。

それは月の華花魁がその腹にこの空間の主を孕んでいるからだ。

男の体で子を宿せば本来産まれてくる筈のない子供が産まれる。

胎児は一体ではないのだろう。

その存在にあまねは心当たりがあった。

『天狐』

繁殖に長ける種族である。

他種族に種を植え付け、自身が死ぬと同時に必ず四、五体の子を孕ませる。

そしてその母体に性別は関係ない。

能力として神通力を持っているため、その力で母体の体内を無理やり作り替えるからだ。

それでも上手く育つかどうかは別物のはずで特段男を体を母体に選ぶことはないはずだったがあまねには心当たりもある。

天狐はねずみ算式に増えていく。

そして増えすぎる。

そのため適度に魔女達は天狐の母体を見つけては処分する。

時折神の子を宿すと言われる娘がいるのは相手が神通力を持つ天狐だから。

母体から生命力を吸い取って母体が死ぬと腹を食い破って産まれてくる天狐。

その妊娠期間はおよそ10年にまでのぼる。

男の体を選んだのは魔女の目を欺き、無事10年を過ごすためだろうとあまねは考えた。

別に母体を生かす必要は無い。

この村は天狐の支配を受けた時からその運命を終えている。

この村の者がどうなろうと大した問題では無いのだ。

ただ、見つけたからには天狐は処分しなければならない。

あまり気は進まないが、母体ごと処分するためあまねは月の華花魁の元へと歩いていく。


「ごめんね。もう片方の腕をちぎられたくなかったら諦めて。私は魔女を殺さないと。」

心底悲しそうに彼岸は眉を寄せて表情を作り、パパを撫でた。

龍の腕を貪ったパパは嬉しそうにニヤニヤ笑っている。

「んー、諦めることはねぇな。あまね様は死なねぇし、別にもう引留める理由もないんだどさぁ。なぁ、龍。」

「殺れって言われた。だから、殺る。」

「片腕を無くして、どうするのよ。もう片方もちぎってあげようか?」

龍は自分の右腕をちらりと見ると着物を再度変形させて爪を生成し、元通りの形にする。

中身がないので強度はそこそこだが不便はない。

「それで戦うつもり?あんたのその体のサイズで片腕をなくして、その……しゅ…け……え、ちょっと待って。」

「漸く気づいたか?」

彼岸は混乱した。

確かに腕は引きちぎった。

パパがこれを貪った。

だが一滴も血が出ていない。

引きちぎったときですら血は一滴もでていなかった。

地面に血痕もない。

「そもそも義手なんだから、何も惜しくはないよね。」

平然と言ってのけた。

龍の右腕は元より義手である。

あまねの元に来る前からその腕は切り落とされ、存在していなかった。

あまねが設計した電子回路を電子神経として再設計し、繋げて脳波を電気に変換。それと同時に心臓で発電をして義手を完全に自由に動かせるものにした。

説明したところで真人はもちろん龍も、当然機械音痴であるあまねにもよくわかっていない。

あまねが無茶苦茶な設計をしてそれを国の技術者が造りだす。

技術者は脳の回転速度を操作できる能力者なのだが、本人曰く、『あまね様の設計を実現するには脳の回転速度をほんの300倍にすれば事足ります。』とのこと。

あまねの脳が300倍で稼働しているのではなく、常人が300倍の速度で稼働させてあまねの機械音痴に追いつく、ということだ。

自分では電話に出ることも出来ない程の頭に追いつくのに300倍とはなんとも情けない話である。

「だからって、私が負ける理由にはならない!」

パパの体が崩れ、土塊がママの体と一体化していく。

巨大な土人形が形成され、その巨大な足で龍を踏み潰す。

その光景の中顎に手を当てて真人が思ったことは

パパとママの融合って事は、あれは何になるんだ?

だった。

巨人の足の下から無数の鞭が伸びて足を切り刻む。

バランスを崩した巨人は家屋に倒れ込みそうになるも体の土を移動させて再生し立て直す。

クレーターの中から龍が顔を出すがその額から血が流れていた。

口元に流れた血をペロリと舐めると額からにゅっと角がまた出てくる。

「あー、ちょっと血が出たな。大丈夫か?」

「ん、へーき。」

鬼人は食人種に分類される。

人を食って糧とする種族だが元々ドールである龍は後天性の鬼人であり、特異な体質を持っている。

龍は突然変異種に分類される特性をもっている。

人の肉を食わずとも普通の人と同じ食事で同じだけの栄養を得ることができる。

そのせいか血を舐めると鬼人の特性が濃く出るため角が自然と姿を現す。

「さあ、続きと行こうか。」

彼岸は冷や汗をかきながらそれを悟られぬよう、真人に目を向ける。

「龍ばっかりで真人は何もしないの?」

「あ?あまね様に殺れっつー命令を貰ってんだ、龍の仕事なんだよ。俺は余分なのを巻き込まねぇよう、バリゲートを作って龍の援護をするだけ、だ!」

ぶん!と腕を大きく振るうと無数のワイヤーが彼岸を吊るしあげた。

体が切れない程度の硬度で調整されたワイヤー。

巨人なら引きちぎることくらいは容易いだろうが、龍がそれをさせない。

軽く足を上げてパンと一度巨人の足を蹴るとそこが強い衝撃にあったかのように砕け散る。

次に軽く飛び上がって巨人の首目掛けて回し蹴りを放った。

頭がもげた巨人は土煙を上げながらその場に倒れる。

「とは言ってもなぁ。土塊相手じゃキリがねぇな。」

「同感。全くもって脅威を感じない。彼岸、弱いね。」

心から、本音から、憐れむような顔をする龍に彼岸は脳の血管が何本もちぎれる音を聞いた。

こいつだけは、こいつだけはこいつだけはこいつだけは!

何があっても倒さなければならない。

自分たちの今までを無駄にするような事があってはならない。

「あんたらに……何がわかるって言うのよォォォォォオ!!」

これまでとは全く違う速度で巨人の体が再生していく。

いや、それどころか何倍にも大きくなり、下半身は地面に埋もれたまま、上半身が膨れ上がっていく。

最初の巨人の10倍はあるであろうサイズに龍は見上げて首が痛くなったのか首をコキコキと鳴らした。

ワイヤーごと取り込んだ彼岸は巨人の顔に埋もれた状態で真人と龍を睨みつけた。

「デカさが強さに繋がるとは限らねぇぜ?」

馬鹿にしたように笑う真人。

こいつらは本当に腹が立つことしか言わない。

自分の神経を逆撫でされるような感触に彼岸は目の前が赤く染まるようだった。

「あんたらだけは!生かしておかない!!」

「そんなに頑張るのは、月の華花魁のためか?」

振り上げた拳が一度停止する。

欠伸混じりにそういった真人。

興味なさげに、眠たげに目を半分閉じながら彼岸に問いかけた。

「多分、月の華花魁はあんたの家族なんじゃないか?姉妹かな。月の華花魁を犠牲にしてこの町の人間を守ってるのか?だから兄弟かだの龍を取るか多数を取るかだの聞いてきたんだろ。月の華花魁が犠牲になるって決めたんなら、それで町の人が救えるのなら?ふん。馬鹿らしい。」

「あんたに。何がわかるってのよ。」

「トロッコ問題に答えを求めるなよ。馬鹿が。そうだな、俺から言えることは、命の価値は平等じゃない。」

真人はその場で足を崩して口元を覆うようにして肘をついた。

その視線の先にいるのは彼岸ではなく、血を流しながらキョトンとした顔で真人を見ている龍。

そこから視線を逸らすことはなく、真人は少し間を置いた。

「………人の命の価値を決めるのは他人だ。命その物の価値は同じ。だが、人によってその人の価値は変わる。彼岸か、龍か、と言われれば俺にとっては龍の方が価値が高い。他の人よりも価値をつけてやる、それが人を大事にするってことなんじゃねぇの。」

龍を見つめたまま、真人は口を閉じた。

これで終わりかと思ったがあ、と思い出したように真人は続けた。

「そうそう、このままだと月の華花魁死ぬぜ?」

「……あんたらを殺して、魔女も殺す。」

「まーだ言ってんのかよ。無駄だろ?俺らの目的は帳尻合わせ。多分月の華花魁が関わってんだろうな。あまね様を吹っ飛ばせるやつなんてそういねぇ。月の華花魁に、あまね様は容赦しねぇよ。」

「そしてそれを僕らは止めやしない。月の華花魁が死んでもどうでもいい。あまね様の指示に従うだけ。僕らに彼岸を殺す理由はない。」

「は?」

「パパとママを殺れって言われたんだ。だからそっちは殺させてもらうが、彼岸はどうでもいいんだよ。こっちは。つーわけでその土塊人形のタネ、教えてくんね?」

漸く真人は顔を上げて彼岸を見た。

うお、でけぇな、と間抜けな声を上げて真人は笑った。

龍も笑う。

十中八九あまねの命令には彼岸も含まれているが、そこは屁理屈でどうにかしてくれると言っているのだろう。

土塊と龍の能力では相性が悪い。

戦うだけ無駄なのは彼岸も分かっているが引くに引けなかった。

月の華花魁が、弟が、命をかけて10年守ってきたこの町を好きなようにはさせてはいけないと思ったから。

弟の大事なものが彼岸は大事だ。

町の人も月の華花魁と名乗る弟を崇め、敬い、感謝を述べる。

弟はそれに応えようと必死になった。

ボロボロになっても笑顔を絶やさない弟の居場所を奪ってもいいものか。

「あんたにしか大事に出来ないもんも、あんじゃねぇの。」

弟を、躊躇なく神に差し出し、ペラペラと口を回す母。

それを止めもせず、見て見ぬふりをして返ってこなくなった父。

昔はこうではなかった。

仲のいい家族だったはずなのに。

神に心酔し、口だけでものを言う母と見たくないものを見ようともしない父の目と口を奪って土人形に変えた。

本体は彼岸の部屋の襖の奥で繋がれている。

意識を土人形に移して月の華花魁を守る壁として使ってやった。

「………本体なんか、ないわ。多分もう死んでるもの。」








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