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花は枯れるとしても逞しい

この町は歪んでいる。

この町に入って最初に感じ取ったことだ。

明らかに異空間というまともとは言えない状況に居ながら、皆は笑って過ごしている。

かと思えば心の内で投げやりな部分を見せる。

何かがある。

この形になった原因が。

「面倒だな、この空間ごとぶっ飛ばせたらいいんだけど……」

「それはやめて欲しいな。」

明らかな男の声。

しかし辺りに男の影はない。

「盗み聞きだなんていやらしいじゃないの。」

「よう言うわ。自分がどこにおるのかも理解できてへんのか。」

あまねが立っているのは街で1番大きな屋敷の玄関である。

その玄関であまねを出迎えるように白髪を煌びやかな飾りで横兵庫と呼ばれる髪型に、まとめあげた赤い瞳の美女。いや、少年。

少年とわかったのはその喉元に確かな膨らみがあったからである。

「来るのが遅かったね。」

「まぁね。色々試してたんだよ。」

「そう。何か収穫はあった?」

「そうだね、結果としてはダメだったという収穫を得たかな。この町は私が干渉できる権限がない。だから、こうして、親玉に会いに来た。」

あまねの能力に時間を操る類いのものがある。

しかしそれは能力のではなく、魔女の権限に当たる。

世界の理を司る約束の魔女。その権限としてあるもの。

しかしあまねが管理する本に齟齬が出た、ということはこの空間はあまねの管理下にあることは確か。

ここに来るまでの間この空間でできることを確認していたわけである。

「あー、そういう事ね。じゃあちゃんと俺は役目を果たせているわけだ。」

男はそっと腹に手を回す。

あまねはその様子を見て視線を鋭くする。

「あなた、その腹に何を孕んでいるの。」

男の目が怪しく光ってあまねを見下ろした。


「どうして?」

「?そう言って欲しかったんじゃないの。」

首を傾げる彼岸に対して龍も首を傾げた。

龍の耳は異常発達している。

心音を聞きとるほどに。真偽を聞き分けるほどに。

個々の音が独立して聞き取れるほどに。

何かを聞き取って彼岸が求めているものを答えたのだろう。

真人は考える。

彼岸が求めているのは恐らく、一人と多数。一人と言って欲しいのではなく、一人を選ぶ理由を求めているのだろう。

トロッコ問題。有名な話だ。

結局答えは出ないまま、人類は永遠にこの問いに答えを出すことは出来ないのだろ。どれだけ学者が答えを追い求めても、結局は個人の見解に過ぎない。

「……真人を選ぶんだね。私とは違うや。」

「彼岸は多数を選ぶの?」

「うん。」

「そりゃあ彼岸にとって真人は他人だし、普通じゃないの。」

真人は苦笑する。

そういうことではない。

まだまだ幼い龍には難しいようだ。

その時、パッと龍が顔を上げた。

「……」

龍が彼岸を抱えて飛び退く。

真人も状況を察して同じように飛び退いて屋根の上に着地した。

たった今まで3人がいた場所に何かが落下する。

凄まじい音と共に土煙が上がり、のそりと人影が立った。

銀髪に爬虫類のような左右異なる目。

右腕に包帯をチラつかせた苛立ち気味の少女。

紛れもなくあまねである。

「チッ」

舌打ちをするあまね。

見つからなかったあまねを見て呆然とする真人。

彼岸を放り出して漸く会えたあまねに飛びつく龍。

放り出されて悲鳴をあげる彼岸。

「あまね様!どこに行っておられたのですかぁ!」

ぴょんぴょんとあまねの周りを飛び回り、全身で喜びを表現する龍。

あまねは漸く小さな存在に気づき、顔を綻ばせた。

龍を捕まえて頭を撫でてやると大人しくあまねの腕に収まった。

「な、お、は?なんでここまで飛ばされてきたんだよ。」

未だ混乱状態のまひとは目を白黒させながら屋根の上からあまねに呼びかける。

顔を上げて真人を認識したあまねは今度は驚いた顔をした。

「あれぇ、なんでここにいるの?」

「お前が置いてったからだろうが!!」

「あ、もうそんなに時間経っちゃった?ちゃんと迎えに行くつもりだったよォ。そんな顔しないでー」

どうせ時間感覚がとち狂っている奴だ。

話すだけ無駄だと真人は諦める。

あまねは龍を離すと髪を結び直して着物の裾を直す。

それから先程飛ばされてきた方角を見つめた。

あまねの瞳孔が細くなる。

「こんなところまで飛ばされちゃった。はぁ、これは面倒だなぁ。母体ごと処理だなこりゃ。」

呟く声に答えるように、また何かが落ちてくる。

今度は避けることもなくあまねの目の前に着地した。

所々欠けている土人形。

口だけ大きく開けてあまねに吠えた。

「……へぇ、逃がすつもりは無いわけね。」

「ひが………んさ…ま」

「え、喋れるの。これ」

これは少し驚いた。土人形に意思がある。

名を呼ばれた少女はそっと土人形に寄り添った。

その大きな足首を撫でてあまねを見る。

「大丈夫。大丈夫よ。魔女は私が殺す。」

「え、冗談でしょ。そんなくだらない冗談に付き合う程暇じゃないんだけど。あなたが?私を殺してくれるって?その土人形で?ゴーレムの失敗作でしかないその人形でですって?もはや笑えないから。」

あまねが、ピッと指を向けると土人形の胴がバックリと割れた。

上体を支えきれなくなり、その場に崩れ落ちる。

その後から霜がおり馴染め、土人形の体を凍らせていく。

「……土人形じゃないわ。」

もう一体、地面からボコボコと上半身、下半身と生成され、形を作った。

こちらは下半身がゴツめに作られ、顔はぽっかりと空いた目だけがある。

そちらの人形も撫でて彼岸は続けた。

「パパとママよ。」

最初の人形、恐らくはパパと呼ばれる個体は崩れた体を氷ごと巻き込み再生する。氷も再形成されパパは装甲を纏った。

あまねは舌打ちをして左前髪をかき揚げながら彼岸を指さした。

「龍、真人、殺れ。」

真人と龍の体が震え、全身で歓喜する。

真人が後衛、龍が前衛。

龍は着物を変形させて自身の手の3倍ほどの装甲を纏う。

まるで鬼の手だ。

真人は屋根の上からワイヤーを操作して周囲に人が近づかぬよう壁を作った。

あまねは何事もないかのように彼岸の隣を通り過ぎようとする。

逃がすはずもないと彼岸はパパを使ってあまねの行く手を遮るが龍が爪でバラバラにしてしまう。

すぐさま再生を始めるパパ。

パパがやられてもママがいる。

「あまね様の邪魔はさせない。こういうのは術者が死ねばいい。」

「随分と流暢に話すじゃない。龍。」

「やめてやれ。龍は最近話せるようになったばかりなんだ。お前がそんなことを言ってまた話せなくなったらどうする。」

屋根の上から真人も睨みつけた。

クイッと指を曲げると彼岸の首に細いワイヤーが絡まった。

ママに千切らせようとするがママの指はワイヤーに触れた途端そのままストンと落ちる。

「舐めるなよ。人程度は触れることすらできないワイヤーだ。土塊が千切れるはずないだろう。」

再生を終えたパパがワイヤーを引きちぎった。

その手は取り込んだあまねの氷を纏っている。

あまねが生成した氷は真人のワイヤーの硬さを上回ったわけだがこれは同時にその氷は人を殴ったところで砕けないことの証明となる。

龍はそれを理解し、一気に距離を詰め、その爪で氷の拳を砕こうとした。

しかし叶わず、氷の拳はヒビが入ることなく爪を受け止めた。

ならばと龍は1度距離を取り、ぐっと腕を数メートルにまで伸ばし鞭のように振り上げて再度パパの体を両断した。

すぐさまママが攻撃に転じるが最低限の動きでそれを躱し、その間に縮めた爪をママの腹部に突き刺す。

そのまま爪を膨張させ、体を内側からはじき飛ばした。

「……なんで?」

「?」

「パパとママだって言ってんじゃん!なんでそんな風に人のパパとママを傷つけられるの!?」

彼岸が悲痛な声を上げた。

再生の時間稼ぎのようにしか思えないが龍にも真人にもその類のお涙頂戴は通用しない。

こてんと首を傾けて龍は心底分からないという顔で彼岸を見る。

「うん。だから?」

「は?」

「どうしてパパとママを傷つけたらいけないの?」

「どうしてって、親なんだよ?私の!実の親!!」

土塊に対して実の親と言うのはなんとも滑稽な話だが龍が追及しないところを見ると、龍は彼岸の発言に嘘はないと判断している。

だからこそ龍には理解できないのだ。

だからこそ真人は手を下せない。

頭を掻きむしりながら叫ぶ彼岸に龍は少し困ったように眉を寄せた。

「わかんないよ。父も母も、別に子供を守ってくれるものじゃないよ?」

実の親を殺している、親の愛情を知らない龍にとっては実の親だからと喚く理由が心底理解できないのだ。

だから龍はちゃんと土塊を彼岸の両親として認識しているし、真人もそれを汲み取ってそう認識している。

決して話が通じないわけではない。

親の温もりを知っているか知っていないの価値観の違い。

彼岸には理解が出来なかった。

彼岸は龍達の生い立ちを知らないし、逆もまた然り。

これまで自分が1番不幸だと、いや、自分達家族が1番不幸だと思っていた。

しかし親の温もりを知らない子供の方が、目の前の温もりを知らず、人を傷つけられる子供の方がよっぽど不幸ではないのか。

「もういい?じゃあ、殺すね。」

すっかり再生を終えたパパとママをもう一度サクッと切り刻み、ゆっくりと彼岸に歩み寄っていく。

まずい

彼岸は瞳を光らせて龍を見た。

彼岸の能力は瞳を介して相手の三半規管を狂わせる。

龍が三半規管が狂うことに慣れていないことは実践済みだ。

しかし龍が歩みを止めることは無い。

「なんで、なんで止まらないのよ!」

「三半規管を狂わせる能力であってる?」

龍は両目を閉じていた。

そもそも彼岸の目を見ていない。

見ないために目を閉じるとは思い切ったことをするものだ。

真人はまぁ、そうだよな。とパパとママが再生しないようワイヤーで刻みつけた。

元々龍はそこまで視力はよくない。

回復した方だが、かなり目が悪い方と言っていいだろう。

それでも何の問題もなく生活できるのは音の反響で周囲を把握しているからである。

よく聞く設定だと思うが龍はその気になれば心音を聞いて体内まで把握することができるし、何か特定の音を出す必要も無い。自身の会話、真人の会話で周囲を把握する。

その把握範囲は集中すれば街一つ程度。

能力並の異常発達である。

ふと、パパとママが消えていることに気がつく。

バラバに刻んだ土はそのまま地面へと同化して消える。

「ついでにもう一つ。パパとママは土を媒体にして意識を宿し、本体の肉体は別のところにある。そうでしょ?バラした体は元に戻るのではなく、周囲の土から再形成するように形を成していた。なら、彼岸を殺したところで消えないよね。でも、彼岸が操っているにはそうでしょ?だって、パパは目がないもの。」

彼岸は唇を噛んだ。

その通りだった。

ママには口がない。

喋り出すと鬱陶しいママから口を奪い、自分達を見ようともしないパパからは目を奪った。

「ただの人間じゃないってことね。」

「うん。真人はすごいよ。」

「それだけの事をこの短時間で把握するあんたも大概よ。」

「?」

「あー、彼岸、龍は人間じゃないぞ。戦闘能力に長けた種族、鬼人だ。」

それに呼応するように龍の額に細身の黒く光る角が出現した。

若干手足が逞しくなったような気もする。

ぶるぶると頭を振ると角も引っ込んでしまう。

戦闘能力に長けた鬼人、龍はようは戦闘におけるセンスがずばぬけている。

少しのやりあいで相手の手の内を把握もするし、ほぼ感覚で相手との戦闘を可能にする。

本人曰く、「あんまり、よくわかってない。」らしい。

一度聞いてみたが鬼人の力を最大限に発揮した龍に勝てたことは一度もない。

真人とて対人戦の心得程度はあるが、まだ鬼人になって日の浅い龍に勝てたことはない。

暗闇で暗殺なら勝てるし。

と真人は自分に言い聞かせているが、暗闇は互いの得意な空間。確実に勝てる確証なかった。

しかし弱点もある。

あまねの部下には真人達以外にも何人か子供がいるがいずれも例外を除いてはペアを組んで行動する。

助け合えるように、一人にならないように。

あまねはそういうが実際のところは龍は例外のうちの一人ではないかと思う。

戦闘能力に長けた鬼人でも、弱点はある。

戦闘能力に長けるがために、団体行動を得意としない。

個々が強すぎて共闘というものがあまりにも下手くそなのである。

故にあまねは真人をペアにつけた。

真人は人間である。

考えることに長けた人間である。

真人ならば龍が自由に暴れてもそれに合わせることが出来る

そうあまねは踏んだのだ。

龍の腕がぐっと、膨張し、彼岸の首を掴む。

「ばいばい。」

龍は彼岸の首をへし折ろうと力を込めた。

その瞬間足元の土が動き出し、体勢を崩す。

地面からパパとママが姿を表し、ママは龍を押え、パパは龍の上腕をがっしりと掴んで引きちぎった。

「あ」

ブチブチと音を立てて龍の右腕は千切られる。

万が一にも動かぬようパパはちぎった腕を貪った。

龍はママの胴体に膝蹴りを入れたあとに足を振り抜いて頭部を破壊。

一気に真人の対角線上にある屋根に飛び移った。

その右腕は確かにちぎられている。







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