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花は散るときまで咲き誇る

「あら?あらら?」

あまねは自分の姿を見て間抜けな声を上げた。

鶴の刺繍をあしらった黒色の着物を身につけていたからである。

髪も三本の簪で纏められていてごわついた感触にあまねは簪を引き抜き、髪をほどいた。

少し離れた木の影に真人と龍もそれぞれオレンジ色の着物と赤色の着物を身につけ、額に手を当てて固まっている。

あまねは髪を横に流し、三つ編みにしながら寸前のことを思い出した。

そもそも今いるのは空が見えないほど木が生茂る森の中である。もともとはこんな場所にいなかった。

時間はどれだけ前かはわからないので国を出発したところまで遡る。


「仕事ですか?」

丈の短いクラシカルロリータ服に着替え、身支度を整え始めたあまねを見た真人が書類の山を抱えて声を掛けた。

その後ろで同じく書類を抱えた龍が顔を覗かせる。

裾を払い、鏡で全身を確認しながら蘭が並べた靴の中から1番踵の低い物を選ぶ。

「えぇ。」

「誰を派遣なさいますか。」

「んー、そうねぇ。」

返事はするものの真人の声はあまり届いていないようでこちらを見ることは無い。もしかすると真人と龍が目の前にいることにも気がついていないのかもしれない。

あまねの仕事は少々特殊である。

身支度をしているところを見ると管理人職の方だろう。そちらの方は書類を見ても内容はわからない。あまねの方に直接司令が行くそうだ。

「我々が行ってもよろしいでしょうか?」

「うん、そうね〜」

言質取れた。

やはり話は聞いていないようだ。普段ならば絶対に素直に連れて行ってくれないのだから今回は龍も嬉しそうに書類を持って掛けて行ってしまった。

「では、仕事の内容を教えてくださいますか」

「ん、ん?」

漸く耳に届いたらしい。そして会話の内容を遅れて理解したのだろう。自分が何を言ったか気がついたようだ。

ぱちぱちと瞬きをして真人を見る。

「え、いや」

「うん、と返事なさいましたよね。」

「ん、んぐぅ」

約束の魔女という位置づけにあるあまねには制約がある。

理を司るあまねはその役柄相応に自身に課せられた約束を破ることができない。

つまり、頷かせ、約束を結ぶことができれば勝ちなのである。

鏡の前で額に手を当てて考え込むあまね。

自分の地位に疎いあまねは付き人を付けるということもなく、人を呼びよせるということもない。真人と龍はあまねの付き人という立場にあるが気がつけば置いてかれていることもしばしばある。

帝人君子の四人もそんなあまねに手を焼いていた。

「本にね、齟齬が出たんだ。」

諦めたのか渋々と言った顔で話し始めた。

「どうにも命の数が合わない。運命が決まっている生命なんだろうね。もしくは運命のレールを外れようとしているものがある。その調査に行くんだ。」

「運命の齟齬、ですか。」

「そう。それなりに遠いところだけれどね、ちょっと時空を捻じ曲げて瞬間移動みたいなことが出来ないかと思うんだ。」

サラリととんでもないことを言っているが出来てしまうのだろうと真人は思った。

理屈を聞くと時間の作用を利用して時間の止まった時空の座標を指定し、空間を捻じ曲げてバグを誘発し特定した座標を繋げる。というものだったが全く分からなかった。そもそも真人は異能力が発現していない。人間である真人は種特有の能力もないため能力を使う者の気持ちがわからないのだから理屈が理屈として、成立しているのかしていないのかよく分からない。

深く考えることを辞めて真人は書類を置いて準備のために部屋を出る。扉をくぐる前にあまねに声を掛ける。

「その書類、帝王陛下の仕事ですからね。あまり殿下

に無理をさせませんよう。過労死してしまいますよ。」


支度を整えた真人と龍はあまねの力でどこかの砂浜に飛ばされた。赤紫の光に包まれて目の前が歪むのを感じる。あまねは真人の目を塞ぎ、その目を光らせた。歪みと風、光が落ち着いた頃恐る恐る目を開けると帝国とは似ても似つかぬ石の町。その廃墟であった。

人影どころか建物であったと思われる瓦礫しか見当たらない。

「……あら?上手くいくはずだったのだけど……うーん、座標を繋げるのを辞めて座標を入れ替える手法に変えたのがダメだったのかな?力の大きさを間違えた?……座標のズレは…時空の歪み…時間?いや、座標を合ってるな。うん、じゃあ間違いなく、ここなんだ。でも何故?」

「時空がズレているのではないでしょうか!」

元気よく龍が手を挙げてみる。

「何言ってんだ、お前ら。」

真人としては呆れて2人を眺めていた。話を聞いていたところでどうせ理解はできないと諦めて瓦礫を退かしてみたり組み立てみたりと探索を始めた。

その間も一応話に耳を傾けてはいる。

「対象の世界ではなく、別の世界の時空をいじってしまったのでは?」

「うーん、世界管理番号はあっているんだけどなぁ。」

空を見上げてみるも歪み等は見当たらない。

そして瞬きをすると……

で今に至る。

真人は自分の手の中にある物を見つめて困惑した。

瓦礫を弄っていただけだがそのうちの1つに紋様が描かれている。金色に輝く紋様がチカチカと点滅しているのを発見し、あまねに報告しようと振り返った瞬間自分の着物と場所が変わっていた。

「え」

「あー!なるほどね。」

「何か分かったんですか?」

「時空じゃなくて次元が違ったんだね!つまりここは何者かによって作られた異空間ということだね。」

少し歩いてみようかとあまねは森を進む。

移動してしまったところを見ると真人と龍の位置も変わっていた。方角が分かるものもないし、周りに見えるものは木しかない。

一先ず川でも見つかればいいと歩いていく。

2人もその後を追うが歩くのが煩わしくなった真人は木の上に登って枝を伝うことにした。龍も真似をしようとしたがそこであることに気がつく。

「真人、木の上から村か、町か見えない?」

「……ん、あぁ、このまま真っ直ぐ行けば大きな街があるな。どうにもこの島はそれなりに大きいらしい。」

あまねは真人を見たげたあと無言でそのまま足を進める。

やがて大きな街と言って差し支えないであろう人ごみと建物が見えた。

確かに大きな町で華やかかつ賑やかだがその賑やかさには特有のものがある。

「……花街というものかな。手前の方は…普通の露店が並んでいるけれど……」

「奥の方は遊郭独特の建造物ですね。」

この街の中から対象のものを探さなければならない。本にも載っていない人物を探す。途方もない数であるが何か手があるのか、と真人と龍はあまねを見た。

「んー、何も情報がないんだよな。まさかここまで賑わっているとも思わなかったし。まぁ、こんな能力を持っているんだ、大方この街のお偉いさんの力でしょうよ。」

頭の後ろをポリポリとかいた。

どうやら本当に手がかりは無さそうだ。

どこか投げやりに言って露店を見ながら奥へ歩き始めた。

何か分からない物しかない。そもそも文化が異なるようで、あまねは1つ布の塊を手に取ってポンポンと手の上で遊ばせた。

手に乗る度にしゃらしゃらと砂のような音がする。

そしてもう1つ取ると片手でそれを交互に上へと放り投げ、キャッチしては放り投げをし始めた。

それは1つ、また1つと増えていき、5つにまでなった。

その動きだけならば真人も知っている。

「ジャグリングですか。」

ジャグリング、というとサーカスのような団体がナイフやらを放って客の前で危なげなくそれらをキャッチしてまた投げる、というようなものであるがあまねが投げているのは砂のようなものが入った布袋である。

「お手玉だよ。」

「おてだま」

放りながら一つ一つ露店に返すと料金を払い、三つ真人の手のひらに乗せる。

「ん、古い文献に載っていたんだ。ビーズだとか、小豆を入れていたそうだよ。」

龍は興味津々に真人の手を覗き込んだ。

あまねが古いというのならその文献は相当古いものなのだろう。若しくは随分と昔にそれを目にする機会があったのかもしれない。

真人は妙に収まりのいい布袋をそっと懐にしまった。

羨ましそうにする龍の目が少々痛いが独り占めする気はないのだから許して欲しい。

そうしている間にもあまねは歩いていってしまう。

カロン、カロンと音を立てて子供が遊んでいる。

小さな缶のような大きさの竹に足を乗せて紐を手に持ち、駆け回っていた。

反対を見れば薄い様々な形の紙を地面に投げてキャッキャとはしゃいでいる子供もいる。

どれも見た事のないものばかりで真人も龍も、あまねの袖を握り、周りを終始見渡していた。

そんな二人を見兼ねてあまねは「甘味処」と書かれたのれんをくぐった。

直ぐに小さなお盆を持って出てきて店の前の机のような椅子に座る。

「ここで待ってるから。遊んでおいで。」

あまねはしっしっ、と二人を追い払うように手を振るとお盆に乗っている団子のうち1本を手に持って頬張り始めた。

団子が気にならないでもないが二人は直ぐにバラバラに走り出す。

見るもの全てが新鮮な街に幼い二人には楽園のように映ったであろう、少し進めば遊郭が並ぶ男と女の色の街になるというその手前の街を二人は駆け回った。

二人の姿が見えなくなったのを見届けてあまねは団子を三本まとめて串ごと口に放り込んでしまう。

ボリバリ音を立てて串が砕ける音を聞きながらあまねは先へと続く道を見つめた。

奥へ進むには二人は幼すぎる。

見た目通りの色の街か、はたまた見掛け倒しのハリボテか。恐らく両方だろう。見かけ通りの色の街だろうがその本質は別物。

ずっと、こちらを見ているような妙な気配を感じている。危険度は低く、気にする必要もない程度ではあるが、二人を話してもその気配はぴったりとあまねを見ているようだった。

「こちらを覗くものは、またこちらからも覗かれている。常識よね。」

ゴクリと団子と串が混ざったものを飲み込んであまねは立ち上がった。

奥へ進むにつれて人々は姿を変える。

普通の街のように質素な雰囲気を纏っていたものは露出が増え、香りが強くなり、重々しくかつ妖艶な雰囲気へと姿を変えた。

「ちょいと、お前さん。」

「私のことかしら。」

「あんた以外に誰がいるんだよ。見ない顔だね。これ以上奥はあんたみたいな若い娘が自分の足で行く場所じゃあないよ。」

あまねを呼び止めたのは見事な黒髪を妖艶に崩した自分の見せ方をよくわかっている女だった。

あまねを上から下へじっくりと眺めたあと、ふんと鼻を鳴らしてあまねの目線と高さを合わせるために膝を折った。

「ここから先が何か分かっているのかい。」

「そんなに立派な物を見せられて分からないとでも思っているの?」

「おやまぁ、随分と肝の座った娘だこと。あんたはもっと見せてもいいんだよ?」

「お言葉を返すようだけれど、あなたはしまった方がいいと思うわ。仕事中でもないのにそんな格好をしているなんて、自分の価値を下げているようにしか見えないもの。その姿を見るのにお金は要らないのね。」

すると女は顔を真っ赤にしてあまねの襟に掴み掛った。

周囲の目を気にせずにあまねに唾を吐きかけ、大きな声でまくし立てる。

「お前さんに何がわかるっていうんだい!?どうせたまたま迷い込んできただなんだろう!ふん!安心した!あぁ、安心したよ!あんたもじきにあたしと同じになるさ!ここからは絶対に!出られないんだからね!!」

言うだけ言うと女は踵を返して去っていく。

とんだ嵐にあったとあまねは襟を直した。

昔のあまねなら直ぐに殺していただろう女だがあまねはどこか他人事のように女を見ていた。

「まぁ、私も成長してるってことよね。よかったわね、私が優しくて。」

小さくなって行く背中に声を掛けた。振り向くこともないし、聞こえてもいないだろう。

もう二度と会うこともないとあまねは女が歩いていったのと反対を向く。

目の前が真っ暗である。

「あら?」

一歩下がってようやく明るくなった。首が痛くなるほど見上げると高下駄を履いた華美な女があまねを見下ろしている。

さっきの女とは違い自分は安売りしないという意思を感じて髪もきっちりしているし着物も自身の美しさを誇示するように、着物に顔が勝るようなものだった。

頭ひとつ分高い位置から見下ろしてくる女にあまねは不愉快さを感じる。

「こんな所で、どこへ行くのかしら」

「人を上から見下ろすのは失礼だと思わない?見下ろす人っていうのは自然と人を見下すものよ。あぁ、そうね、人じゃない者にはそれで十分なのかしら。それなら浅い知識で言わない方がいいわね。本来見上げるべき存在を見下ろしていることに気がつけないから。」(訳・見下ろしてんじゃねぇ。私はお前よりも偉い身分にある。てか、ぶっちゃけうざい。)

女の微笑みが少しピクリと動いた。

あまねの言うままに腰を曲げて可能な限りあまねの視線に合わせる。

高下駄である以上限度はあるがそれでも女はあまねに合わせて腰を折る。

着物の袖を持ち上げて深々と頭を下げたのだ。

高下駄というのはその女のプライドや気品の高さを表す。

その地位を捨てる時にその高下駄も共に脱ぎすてる。私は誰のものにもならない。そんな願いが込められているというが果たしてどこまでが真実か。

「わかればいいのよ。」

プライドの高い女がそこまでしたのはあまねは脳に干渉することが出来る。制約はあるものの目の前にいるのであればほぼ意のまま操ることが可能であり、それは本人の意思に関係ない。

つまり女は屈辱的に身を屈めていた。

フッと体にかかっていた重圧が消え、頭が上がるようになる。女はあまねを見て気味が悪そうに顔を顰めた。

「こっちが親切で聞いてやってるって言うのに。全く、可愛くないガキだねぇ。」

「何を言っているのか意味がわからないわ。どこに親切な要素があったのかな?」

今だ低い位置にある頭をあまねは撫でた。その手は冷たくて、ゾッとするほど優しさを感じ無い手だった。

女は高下駄を鳴らして後ずさると聞いた事のあるセリフを吐き捨てた。

「どうせ皆ここから出られやしないんだ!あんたも私と同じようになるだけなんだよ!!お高くとまりやがって、くだらないったらないね!!」

今度はあまねを追い越して行ってしまった。

あまねとしてはそちらに用はないわけで、向こうからちょっかいをかけて来るのだから迷惑なものだ。

最初は大人の見た目をしていない、見た目は子供のあまねを見て助けてくれようとしたのだろうが生憎あまねはここの誰よりも長い時を生きているしそこらの子供のように馬鹿じゃない。

それを追い返してしまうあまねもあまねだが厄介払いが出来てよかったとしか思っていないのだからどうしようもないのだろう。

「つまりは、ここは閉鎖空間という事ね。誰かの能力に間違いはない。考えられるものは二つ。この空間の長か、またはその長に幽閉されている悲劇のヒロインと相場は決まっている。」


一方その頃

龍と真人は甘味処に戻ってきて絶句していた。

「置いて、かれた?」

「え、えぇ」

二人して顔を見合わせると手に持っていたお土産を地面に叩きつけた。

割れ物は入っていないはずだが中からパリンと音がして無惨な姿に成り果てたことを知らせる。

「どうせ進むならこの先だ。どこにいるのか知らないが、追いつけないわけはない。行くぞ」

「うん。賛成。あまね様の音、聞こえないけど大丈夫かな。」

「その代わりあの人は目立たないってことが絶望的だ。どうせその辺のやつに聞けば直ぐに見つかる。」

「それもそうだね」

ドンと龍が小さな影に吹き飛ばされた。

甘味処の椅子に座ってしまった龍はそのままひっくり返りそうになる。

「わわわ」

「あ!おい大丈夫か?」

「うん。」

文句のひとつでも言ってやろうと小さな影に目をやると真っ赤な着物を着た黒髪の、前髪の長い少女だった。年は真人たちと同じぐらいだろうか、上背は少女の方があるが随分のと華奢な体格をしている。

前髪の奥から赤い瞳がこちらを見ていた。

「ぶつかったんなら一言あってもいーんじゃねぇの?」

「………」

「チッ」

思わず舌打ちをしてしまう。

龍が怪我をしていないならいいが、一言くらいあってもいいだろう。

不意に少女がこちらに両手を伸ばした。

赤い目をぎらつかせながら真人達を掴もうと手を伸ばす。

真人は懐から小銭を取り出し少女に向かって弾いた。

その小銭は少女の額に命中し、驚いた少女は後ずさる。

「そんなのに捕まるヘマするはずないだろ。龍、こいつを縛ってお」

視界が歪んだ。

立っていられなくなり椅子に手をついてなんとか体を支える。

狭まる視界の中で龍を見ると口を抑えて嘔吐きながら蹲っていた。

「あ」

こちらに伸ばされた手を思い出す。

あの時仕掛けられたのだとようやく悟る。

真人には罠に掛からない自信があった。

故に殺意の込められた攻撃には敏感に反応する。罠には掛からないが、そもそも相手に敵意がなかったら?

少女は堂々と目の前に手をかざし、能力を発動させるか何かを撒く。否、撒くのであれば真人はそれを吸わない。その自信があったのだ。

あの、目。

あのギラついた赤い目を見た瞬間からこれだ。

龍も思わず見てしまったな違いない。

「ごめんね」

少女が傍にしゃがみこみ真人に向かってそう言うのが暗い視界の中でわかった。


薬に耐性があるのと同じように、真人は能力にも耐性があるのかもしれない。

昔自分を拾った頃あまねが言った言葉だ。

どんどん人から離れていくようで嫌だったが今だけは感謝した。

目を開けると目の前に龍が転がされているのが見えて一安心する。

暗いなかの方が真人にとっては見通しがいい。辺りを見渡すと石造りの牢のようなところだ。

5畳程度の広さがあるのに何も置かれていない。

手は後ろに回されているし足首も鎖で縛られ、猿轡を噛まされている。身動きを取れないようにするのにここまでの必要があるのかは疑問だが、余程自分達に動かれたくないらしい。

龍はまだ目覚めないがそろそろ起こさねばならない。真人は体を回して足先で龍の頭を小突いてやった。僅かに身動ぎしたが龍はまるまるばかりで起きない。

少しイラついたのでその頭に思いっきり両方の踵を落としてやる。

「ん、んんんんんんん」

痛みに悶えた龍は涙目になって猿轡を噛みきった。

口の中に残った縄のカスを気持ち悪そうに吐き出しながら真人を睨む。

「なにするの」

「……」

「……?」

「んんん、んんんん」

「あぁ。後ろ向いて。」

言われた通り後ろをむくと龍は結び目を口に入れてまたブチりと噛みちぎってしまう。

口の中に残った縄を吐き出すとさぁ、説明してみろと言いたげに真人を睨見つけた。

「いや、なんで当たり前のように噛みちぎってんの。おかしいでしょ。」

「どうでもいいでしょ。それよりたんこぶできたんだけど。」

「すぐ治る。」

真人は龍を宥めつつ自身を縛る鎖を外せないかと観察する。足に巻かれた鎖は溶接されていて壊す他なさそうだ。

手を縛る鎖は溶接はされていないものの探ると南京錠のような鍵が付いていることがわかった。

「足は兎も角、腕は外せそうだな。龍、荷物は無事か?」

「ん、んー、うん。元々能力で内側に隠してるから手ぶらみたいなものだし。着替えさせられても荷物はそのままなんだね。服が変わっただけって感じ。」

龍の能力は身に付けている物を自在に変形させる。

手を覆って装甲にしたり伸ばしたりと自在に、だ。ただし身につけるというイメージがあるせいか形を変えることはできてもそれにも限りはある。身体から切り離すことも出来ないしナイフの形にして握ることも出来ない。あくまで身に着けるもの、ということだ。

手をモゾモゾと動かしながら着物の中に手を突っ込む。感覚的にはポケットのようなものらしく、容量は大体自分の体重ぐらい。

ただし入れすぎると体が重く感じるようであまり大したものは入っていない。

真人は肩関節を外し、頭の上から腕を回して手を前に持ってくる。そして関節を戻して懐を探った。

「何度見てもすごいね。痛くないの。」

「慣れだよ。俺はそういう風に出来てる。」

どこか自虐的に言うと真人は龍が取り出した針金を受け取る。

龍に後ろを向かせてピッキングの要領で南京錠を外し、鎖を外して両手を自由にした。

同様に口に咥えて自身の鍵も外す。

残る足は自身の着物の裾をまくり上げ、なるべく一箇所に鎖を集めた。

「鉄が溶ける温度は1538度。......アルコール量を調節すればいけるか...」

「真人?」

心配そうな龍を無視して真人は喉を鳴らす。

ゴポゴポと喉が膨らんだかと思うと、この口に右手の人差し指と中指を並んで添え、一気に吹き出すと炎を吐き出した。

数秒吐き出せば鎖は溶けて真人の足を自由にする。

「火傷しないの、それ。」

「俺はしない。そういう訓練受けてきてるからな。」

真人の心臓の隣にはアルコール袋があり、食道に繋がっている。そこからアコールを吐き出し、指の中に仕込んだライターで着火する。

「知ってる。あれでしょ、かとんのじゅつ。」

「……ネタが割れてしまえばしょうもないものだよ。」

訓練、といえば聞こえはいいが、実際は皮膚の移植だ。

火傷を負わないよう、全身の皮膚が耐熱性に特化した人工皮膚に入れ替わっている。

にしても、鉄を溶かす温度で焼けないのだから凄いものだ。

忌まわしい恩寵に真人は苦虫を噛み潰したような顔をして足に残った鉄を取り払った。

「……さて、お前は…」

流石に龍にも同じようにする訳には行かない。

本来は火傷では済まないのだから試すのはいくら龍でも無謀だろう。最悪の場合…いや、最悪でなくても死ぬ。

ところが龍はきょとんとして自身の足を見つめたあと、着物を変形させて鎖ごと飲み込んでしまった。再び龍の足が出てきた時にはそこに縛っていた鎖はない。

着物の中に取り込んでしまえば容易いものだ。

「……それなら最初からそれで出来ただろう。」

「え、嫌だよ、重くなる。」

何を言うんだ、心外だというように龍はさっさと地下牢の入口へと歩いていってしまった。

目の前の相棒と一緒に入ればいるほど自分が人間であり、まだまだまともな生物であると言う実感が湧くがそれとこれとは別で足でまといに思えてしまう。

真人がどうにかできることは龍もどうにでも出来てしまう。

いや、今の自分でいられるのは龍の力があってこそだ。我儘は言えない。

真人はかぶりを振って龍の後を追った。






新章開幕です

真人と龍は好んで着物を着ていて、一人で着付けもできるんですよ。

龍が初めは真人の着物を羨ましがってあまねにねだったことから始まり、あまねが買い与えると真人に、白い目を向けられたそうです。

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