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人間とは考える種族である。

時間にしてあまね対ライアー、あまねが地下牢に乗り込んだ時間。

3人の予想は的中してあまねはその晩に地下牢へと乗り込んだ。

それが3人が知ることができたのは出来ないが三人にはその自信があった。

あまりあまねのことを理解しているとは言えないが乗り込んだと察することができるくらいには理解しているつもりだった。

「じゃあ、僕も行ってこようかな。」

シオンは上着を羽織ると教会を飛び出す。

リオンと末々はそれを見送ると事前に招集を掛けた部隊、銃を装備した部隊に開戦の合図を出す。


あまねは寝転がったまま額に刺さっている矢を引き抜いた。

ゆっくりと起き上がり、その矢をへし折る。

「はー?なになに。なんで死なないわけ。」

「おまえさぁ、今すぐ戦闘員やめた方がいいよ。」

髪をかきあげながらあまねはライアーを見据える。

それから掌を握っては開き、握っては開きを繰り返す。

「ボウガン、向いてないから。」

「!!!何言ってんの!?私は選ばれた。ボウガン、飛び道具は能力者、才能あるものに与えられる特権!」

「だぁかぁらぁ、あんた、自分の能力分かってんの?精々半径5mの範囲でしょ?5mの距離でボウガンとか、完全に飛び道具の利点死んでるよね。そもそも5mの中に敵を誘い込めるならボウガンより槍とかのがいいよ。」

今度はライアーを見ることなく腕を回したりして口にする。

そして額の血を拭う。

「!!この、」

穏やかな顔をしていたライアーは遂に顔を大きく歪め、あまねに対して敵意を剥き出しにした。

あまねが1歩前に出る。

構うものかと矢の先をあまねに標準を合わせて発射した。

ところがあまねは今度は正しく左へと避けるとぐっ、と踏み込み、ライアーとの距離を詰める。

次の矢を装填する余裕はなく、懐に入られたライアーは後ずさりながら、驚きに顔を歪めた。

そしてあまねは大きく手を振りあげ、その手を振り下ろす。

手はライアーの頭に命中し、ヒヤリとした感触と共にライアーの意識を刈り取った。

「あ、間違えた。拳で殴るには手を開かないといけなかったんだ。んん、全力で後ろに下がることには成功したんだけどな。まぁ、いいか。」

拳を振り下ろした先を見ると氷のクレーターの中心でライアーは気を失っている。

ライアーが気絶したことで能力が解除されたようで今度はなんの問題もなくライアーの頭に触れることが出来た。

髪を鷲掴みにして頭を引っ張り上げる。

「いやぁ、面倒なんだよね。内側から壊すと頭も残んないからさ。」

そう言って左手を掲げ、氷で大きな鎌を作り出すと、その首筋に宛てがう。

「残念だったね。今回も私は全く持って身の危険は感じなかったわけだけれど、来世では頑張ってよ。期待してるからさ。」

ぶん、大鎌を振り切るとあっさりとライアーの首は胴と別れた。

血の滴る首を掴んだまま、身体を踏み越えて先へと進む。

「まぁ、来世なんてないんだけどね。」

さ、次々と鼻歌混じりに奥はと進む。

やがて壁中にチューブが張り巡らされるようになる。

中を何も通っていないもの、赤い液体が通っているもの。数本から数十本、次第にその数は増えていき、壁を蜘蛛の巣のように覆う。

突き当たりに漸く牢がひとつあった。

「やぁ、元気かい。」

中を覗く時大きな背中の翼を一度動かし、虚ろな目でこちらを見る天使の姿があった。

「?」

「うんうん、元気そうだね。」

牢の格子を握るとあまねは格子を凍りつかせていく。その反対の手でライアーの首を掲げた。

その顔を見て天使は目を見開く。

がん、と音と共に天使は格子にしがみつくようにしてあまねを凝視した。

「何してるの!?直ぐに私の血を飲ませて!!」

「君こそ何言ってるの?どう見てももう死んでいるよ。手遅れさ。」

天使は目を見開いて言葉を失い、呆然とライアーの首を見つめた。

そうしている間にも格子は凍りついていく。

周囲の気温も下がり始め、天使の顔にも霜が降り始めたころ、キッとあまねを睨みつけ、格子の間からこちらへ勢いよく手を突き出してぐっと握りこんだ。

あまねの上方から背後にかけて金色の矢が勢いよく突き刺さる。

あまねの口から血が吹きでた。

「ごほ、げほ、げほげほ、がは。」

それでもあまねは格子から手を離さない。

天使は握りこんだ手をより強く握り、震わせた。

「これが天使の矢か。キューピットと呼ばれる天使の矢の本質がこんなものだとは、皮肉なものだね。恋は盲目、とはよく言ったものだ。」

口元の血を首を持っている手の袖で拭いながら天使を睨みつけた。

再生能力の長けた天使という種族の固有能力はその再生能力ではない。再生能力は性質に過ぎず、天使の本質はその武器にある。

金色の天使の矢。

御伽噺のキューピットの矢。

あれは天使の能力が元になっている。

天使は金色の矢を扱える。それはかすりでもした者の命を奪う。心臓が高鳴り、その衝撃は目の前の者に恋をしたかのような衝撃なのだという。

「全くもって馬鹿らしい。」

効力が切れた矢はあまねの胸から消える。

服がほつれ、血が出たがそれもすぐに修復され服の奥に肌色が覗いた。

あまねは完全に凍りついた格子を力任せにへし折った。

凍りつき、脆くなった格子はあまねの力でも容易に折れる。

二本へし折ってしまえば人一人通れるくらいの隙間になり、より鮮明に天使の顔が見えるようになった。

「少し、お話しましょうか。」

「…………」

喋るつもりは無いとでも言うかのように天使は鋭くあまねを睨みつけた。

「私は天使が嫌い。自分は善人だと思ってるあんたらが大っ嫌い。天使の血がもたらすのは神の奇跡じゃない。神はそんなにいいものじゃない。天使の血がもたらすもの、それは……生き物の邪な心。争いの心。この国を見たことがある?あなたの偽善のせいで戦っても死ねなくなった。才能のないものが地位を持つようになった。」

徐々に目を見開いていく天使。

その瞳に水の膜が張り始めた。

あまねはその頭を鷲掴みにして無理やりにでもと自分の方へと引き寄せる。

天使の瞳の中を除くようにして至近距離で続けた。

「鎖国状態にあるこの国は文明が進んでいない。外ではもう随分前から火薬が発達している。鎖国を解いてみろ、一瞬で地図からこの国は消える。特産品なんぞないからだ。この国はお前という財産で成り立つただの、烏合の衆なんだよ。」

いよいよ天使の瞳から涙が零れた。

言い返すことが出来なかった。

心当たりがあったからだ。

自分が捕まりさえしなければ、あの時、この国の者たちに同情さえしなければ。

互いに干渉しないことが互いのためだったのだと認めたくないが為に血を与え続けた。

次第に抜け落ちていく羽を見ないふりして、天使は、その身を焼き続けた。

「理解してくれた?じゃあ、死んでね。」

あまねは天使の頭から手を離し、その胸に手を当て、爪を立ててズブズブとその胸を侵食していく。

天使は呻き声すら上げなかった。

静かに涙を流しながら心臓を鷲掴みにされ、それを引っ張り出されてもただそれを眺め続けた。

冷気とともに胸にぽっかりと空いた穴は凍りつき、再生しない。

どんどんと血が流れていき、やがて首から下全てが凍りついた。

涙も枯れ、瞳から光が消えようとしている際、天使はあまねを睨みつけ一言、言った。

「そもそも…は……魔女が、悪いのよ。」

「うん。そうだね。」

話を聞いているのかいないのか、あまねは返事だけして大鎌を顕現させ、勢いに任せてその首を刈り取った。

落ちた首を拾い上げて両手に首を持つという奇妙な状況が完成する。

「……現実を見せてあげる。」


天使ーーーーー改め、名を神舟という。

神舟は元々天使の都に住む若者の1人だった。

天使の寿命は平均500年。

神舟はちょうど150になったばかり。

まだまだ若者と言われる神舟は好奇心旺盛で下界への興味を募らせた。

「やめてときなよ、下界は怖いよ、汚いよ。」

「どうしてわざわざ都から出ようとするの?」

口々に神舟を引止めた。

しかし神舟の意思は固い。

というのも神舟には天使になる前の記憶がある。

赤ん坊の頃路地裏に捨てられ、寒さに耐えながら懸命に泣いた。

その声が届いたからなのか一人の人間が拾い上げ、舟と名付けた。

人間だった頃の記憶だがずっと忘れることが出来なくて天使になった時自身に神舟と名前をつけたのだ。

神域とも言われる都から飛び出して降り立ったのは魔女を信仰する貧しい鎖国国家。

困窮した暮らしの中舞い降りた天使に人々は魔女の恵みだと祈った。

その人間を哀れに思った神舟は目が見えない者に目を与え、歩けない者に歩ける足を、働けない者に働ける腕を与えた。

貧しくとも、生きていくことが出来ればそれは幸せなのです。

神舟は人間にそう説いた。

こぞって頭を下げていた人間たちは最初こそ真面目に働いていたがいつしかその目に欲望がチラつくようになる。

天使の血は金になる。

天使の血があれば、それさえあれば軍として最強となる。

国のため、未来のためと神舟を唆し、地下牢へと、放った。

純粋な神舟はその言葉を信じて信じて信じぬいて、血を抜かれ続けた。

故に神舟は国の惨状を知らない。

血がある以上医者は仕事をなくした。

働き者だったものが金を手にして血を得た。

作物を育てていた者達とその格差が生まれた。

身分の無いものは食べ物を買うことも出来ず、病を治すことも出来なくなった。

鎖国状態のまま、国内で完結している現状では外の世界を知らないまま、文化の進化は途絶えた。

血を抜かれ続ける神舟にはそんな事知る由もない。

ただ、純粋無垢に自分の血が人々のため、国のためになっていると信じることしかしない。

外を知ろうともしなかった。

純粋無垢な神舟の罪。


「信じることがいいこととは限らないよね。」

首を目の前に掲げながらあまねは言った。

滴る天使の血に一切の興味も示さないあまねにとって天使の血はもはやただの汚れでしかない。

血で汚れた裾をはためかせて血が取れないかと試してみると取れるはずはなく、乾いていない血が辺りに飛び散るだけとなった。

ふぅ、と一息ついてからあまねは来た道を戻り始めた。


シオンは闇に紛れながら銃を持つ隊員の一人に的確に誰を撃つようにと指示を出した。

銃を使ったことがない者たちなので成功率は低いだろうが威嚇としてでも効果はあるだろう。当たれば万々歳だ。

シオンの考えたこと、それは巡回する軍員の信仰心を利用すること。

この国は天使を財産として成り立っている。

しかし、根本は違う。

天使は元々は信仰対象ではなかったなずだ、とシオンは考えた。

心を読み、天使を強く信仰する者を狙って指示を出していく。

合図を待つ隊員と少し離れた軍員を確認し、隊員に視線を送るとチラリとこちらを見て覚悟を決めたように動向を細めた隊員と目が合った。

当たるかもしれない。

殺してしまうかもしれない。

隊員達にはよく心臓を狙うように、と言い聞かせた。

素人の銃ではまず当たらない、怪我をさせて体験したことがない武器を前に迂闊に動けなくなればいい。それが目的だ、とよく言い聞かせた。

逆によく狙わないとどこに当たるか分からないから危ないとも。

シオンは右手を挙げて合図を送る。

一斉に隊員の全員の銃に火花が散った。

軍員の群れの中でも赤い花が散る。

全員とは言わないが何人かは命中しているようだ。

得体の知れない音と痛みに軍員が慌てふためく様子を確認して次の巡回隊の場所へと移動する合図を送る。火花が撮っているところを見られている可能性もあり、それは方角がバレることは危険だ。なるべく早く移動する必要があった。

それを10回ほど繰り返した頃、中央広場の噴水の上にひらりと影が降り立った。

生首を両手に鷲掴みにしたらあまねである。

月明かりに照らされてあまねは生首を前に差し出した。

「はぁい。ぷれぜんとー。」

誰言っているのかハッキリしないまま闇の中へ首を放る。

噴水の水が首から流れ出た血で赤く染まっていく。

魔女の声に反応したのか、それとも火花が散った方角へと来たのか、広場へと通じる通路からぞろぞろと人が集まって来た。

血に染ったあまねと噴水を視認し、浮かぶ首2つが誰の物なのかをしっかりとその目で見たであろう者たち。

怪我を負った者は頼りの天使が既に絶命していることを察してその場で崩れ、怪我をしていない者たちもあまねを見て言葉を失った。

「この国の能力者ってこの程度なのー?頼みの綱、天使もこのザマ。情けないねー。」

手配されていたはずのあまねの首。死んでいると思われていたあまねを見て軍員達はどう思うのか。

目の前の存在が、あまねが魔女であることは疑いようのない事実だと認めるだろう。

天使が死んだのなら、心の拠り所が無くなったのなら。次などうなるか。

この国の根本。本質。

それは、魔女への信仰。

頼りにしていた天使が死んだ。

目の前には以前より信仰している魔女がいる。

シオンは魔女への信仰心を持っているものを狙わないように撃たせた。

傷が治る見込みのない今、彼らが信じるのは王か、魔女か。

末々もリオンも奴隷軍、軍員、そしてあまねを信仰する魔女軍。

あまねを頭とする第三勢力の誕生を期待し、実際その通りになった。

軍隊長の一人があまねの前へと歩み出て膝を付き、祈りを捧げたからである。

怪我をした者、怪我をしたものを背負う者、魔女を信仰する者。

奇しくも王ポリクスが植え込んだ魔女への信仰心はこの場で裏切りの火種へと変化した。

魔女を信仰するように仕向けたのは歴代の王、現王ポリクスであるため王の裏切りになる、といった考えにはならなかった。

王が魔女を信じろと言ったから、それだけである。

一方困ったのはあまねである。

「は?何、何?」

流石にそこまで考えていなかったのだろう。

精々怒り狂ってあまねに刃を向けてくるだろう程度にしか思っていなかった。

怪我をした者を見て、あまねは漸く末々達の策略に気が付いた。

「いやいや、私を巻き込むとか...」

頭を振って頭の座から逃げようとするも既に遅い。

逃げればそれがあまねの意志として受け取られ、王に歯向かう。

頭になる事を拒否すれば戦闘の意思はないと受け取られ、この戦いを終わらせる、あまねの手配を取り消させるために軍員達は歯向かう。

いずれも構わないが頭になって戦闘をやめろ、と言うしかない。

しかし戦闘をやめろ。と言えばどうなるのか。

A、目の前の軍員を面倒見なくてはならなくなる。

信仰とは契約だ。

初代王シュバインによって魔女を信仰させるという契約が成り立っている以上、信仰は祈りを捧げこの身を捧げる。その代わりに尽くさせてくれ、心の拠り所になってくれ、という契約である。

故にこの場で惨殺することも出来ない。

信仰心が有耶無耶になっていた頃とは話が違う。

「やってくれたな、末々。いや、リオンとシオンもかな。」

目の前の軍員を睨みつけながらあまねはそう呟いた。


「やったやった!魔女様寝返った軍員立ちを引連れてどこか言ったよ!これ上手くいったってことだよね!!!」

全力疾走で教会に戻ってきたシオンは満面の笑みで興奮気味に末々とリオンに報告した。

勢いよく席を立ってリオンが目を見開いてシオンを見る。

「本当か!?」

「本当本当!」

末々はその様子を見て顔を綻ばせた。

「一先ずは安心だな。あとは何とか魔女サマとコンタクトが取れればいいんだが。」

その時、そのタイミング。まるで聞いていたかのように魔女を模したステンドガラスを割ってあまねが飛び込んできた。

机の上に着地すると三人の顔を見渡してため息をつく。

「よくもやってくれたわね、あんたら。」

「何もしなくてもこうなる可能性は五分でしたよ。」

「知ってるわ。それくらいの可能性は考えていた。私は天使をどうにか出来ればよかったのに...頭を繋げられたら困るから持ってきたのが不味かったんだわ。でも水に浸して血抜きしたかったし。そうよ!なんで軍員が集まってくるわけ?しかも死なない程度の怪我をして!」

「どうせわかってんだろ?」

「わかってるわよそれくらい!貴方達にそこまで考える頭があるとは思わなかったの。銃の量産を待って適当な隊列組んで突っ込んでいくくらいだと思った。いえ、その予定だったはず。銃にはその作戦が十分有効なはず。...末々ね?余計なことを吹き込んだのは!」

「買い被りすぎと、言いたいところですがね。このシスター服を着る羽目になった時から狡猾になるって決めたんですよ魔女サマ。」

末々は肩を竦めた。

実際のところ軍員が中央広場に集まったのは想定外だった。

しかしいい想定外だったと思う。

天使の性質上血を抜きたいと考えるとリオンは考えていたし、その場に放置しないだろうと思ってはいた。

噴水の中にでも放置して言ってくれれば差し支えないとも。

更に想定外だったのはあまねがライアーの首を見せしめに持ってきたことだ。

元々は天使に見せるためだけのものだったが噴水に捨てるにしてもいいインパクトになると思ってあまねは持ってきた。

おかげで最良の結果になったと言える。

「で、どうするの。とりあえず教会の裏で待機させてるけど?」

「それはここまで来たら指示に従ってやるが自分の意思では動かない。という事でしょうか?」

「仕方ないでしょ。契約上、アイツらから解放されるにはポリクスを殺して新しい国を作り上げる他ないんだから。」

「それは違う。」

リオンが肩に乗った硝子の破片を払いながら立ち上がってあまねに向き合った。

あまねは驚いたようにリオンに視線を向ける。

そして慌てたように手を突き出した。

「待ちなさい。それ以上言うのはやめて。」

喉からでかかった言葉は止まらない。

「ポリクスを殺してこの国を作り替える必要は無いんだ。別の場所に作り替えればいい。来たいやつだけ連れて。奴隷達と寝返った軍員を連れて行ければいい。」

「ちょっとおおおおおお!何言ってくれてんの!外で聞いてんのよ?」

「元々俺の狙いはそれだ。お前は、その期待に応えなければならない状況を作る。広場の件で奴隷軍の魔女に対する信仰は回復したと言える。つまりお前が答えなければならない期待は軍員と奴隷軍の人員になるわけだ。これで死者は最小限にできる。」

「でも兄様、どこにそんな国を作るの。」

「一度滅んだが魔女が元に戻した国があるだろう。多少は脆くなっているが全員で補強作業すればその間くらいは持つはずだ。」

元々リオンとシオンが住んでいた国。

そこに全員を連れて行けとあまねの目を見据えて言った。

あまねはリオンを睨みつけ、末々も睨みつけた。

口を挟んでこないと言うことは打ち合わせしていたのだろう。

あまねは、想定はしていたが言わなかった。

そこまでする義理はないからだ。

しかし信仰が復活した今の国ではそうもいかなくなってしまった。

しかも指示には従うと先程あまねは肯定してしまった。

今回負けたのはポリクスでも末々でもない。

あまねの完敗である。


言うが早いか裏切りが露見する前にとリオンの指示ですぐさま出発することとなった。

海を凍らせて長蛇の列で海を渡らせた。

形だけ残した母国を見た双子は複雑な気持ちになったがここがまた豊かな国になるのならと涙ぐんだ。

その肩を末々が叩く。

振り返ると怪しげな笑みを浮かべた末々がコソッと二人に耳打ちした。

今回のオチとしてあまねは腹いせにポリクスを始末したという話があるが語るものはいない。

それもあって精神的にも困憊してしまったあまねは末々に促され、その晩は城で眠った。

「この国の王になれとまでは俺は言わないから。」

と言うものだから約束は守られることもあり、あまねは泊まったわけだが。

翌朝シオンとリオンに起こされてテラスから朝日を浴びて外に出ると、昨晩連れ出した国民達がこぞって

「「あまね陛下万歳!」」

と両手を挙げていた。

「は?いやいや、それは話がちぁうでしょ。」

「あぁ、『俺は』言わなかったぜ?なぁ?リオン、シオン。」

「これは国民の意思ですよ!魔女様。」

「軍員の信仰に答えたんだ。今度は元奴隷達の信仰にも答えてもらわないとな?」

確かに、国を確率した時点で心の拠り所、つまりはあまねを信仰し続ける場を設けることで軍員達の期待には応えた。

しかし奴隷達は違う。

そもそも奴隷達の信仰とは拠り所を求める信仰ではなく、生活の安寧、健康といった類の物。

国民がそう望む以上あまねはこの国を治めるしかない。

「ちょ、は、もぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」

「「「よろしくね?魔女様。」」」

「あんた達ねぇぇぇぇええええええ!!!」

こうしてあまねは元奴隷達の国を思いがけず拾ってしまった上に、王として担がれてしまった。



月日は流れて30年。

フロワリベール帝国は制度も改正され、あまねの独裁であるものの、短い年月で一国として見事なものになった。

帝王になった瞬間あまねがまず考えたことは以下にして仕事をサボるか、である。

そして優秀な人材を集め、帝国土を四分割し、それぞれに治めさせることで限りなく自分の仕事を減らした。実質あまねがまとめているのはその四人のみである。

その結果、


「おはよう。末々。」

あまねは棺桶の中で眠る末々を叩いて起こした。

意識が覚醒しきらないなか、末々は瞬きをしてあまねを認識する。

「あ?あ、あぁ、魔女サマ。」

「ほらほら、今日は君の目覚めとともに任命式だよ。他の帝人君子の三人も待ってるよ。真人、末々を案内してあげてね。衣装は蓮ちゃんが用意したやつがあるから。」

言っていることがわからず無理やり体を起こすと傍に服を抱えた白い紙に赤い瞳をした少年が立っていた。

見たこともない服を着ていることから他国の者だろうか。

「おはようございます。末々様。いえ、まずは初めまして、でしょうか。お話によると30年眠っていらっしゃったそうですね。」

「あ、あぁ、30年??」

「国として出来上がったからついに君を起こす時が来たよ、あまね様からの伝言です。」

真人、と呼ばれた子供は手際よく末々の衣装を着替えさせていく。

あれほど違和感のあったシスター服はあっという間に黒のブラウスにコルセットのセットされた黒パンツに着替えさせられた。

寝る前の記憶を呼び覚ますと、突然あまねから今から国として成るまで寝ててもらう、と言い渡された覚えは確かにある。

末々自身寝ていたので30年と言う感覚はないが。

何よりあまねの見た目は変わっていない。

「あ、そうだ、シオン、シオンとリオンはどこにいる?」

「...シオン様をお呼びしますね。」

少し間があったあとそう答えた。

程なくして白い髪の初老の男が杖をつきながら入ってきた。

「お久しぶりでございます。末々殿下。」

「えあ、え?シオンなのか?殿下?」

初老の男シオンは朗らかに笑う。

まだ腰は曲がっていないが笑い方も上品になってとても信じられなかった。

「今は外務大臣として務めさせていただいています。殿下、というのは本日より末々様が拝命される身分、この国の帝人君子第一席ガヴェルナンス地区を治めるお方の役名のようなものですよ。」

混乱するのも無理はない、と笑うシオン。

どうにもついていけていないのは末々だけ。

しきりに瞬きを繰り返す末々にまたシオンは笑って言った。

「一つ伝言です。あなたの企みは分かっているわ、私だってやられてばかりではいられないもの。貴方にもその一端を背負って貰いますからね、とあまね帝王陛下から。」

末々の頭の中で逃がさないと末々の肩を押さえるあまねが笑ったのがわかった。

シオンとリオンに言った謀りがバレていたとは思わなかった。

あまねを調子よく操ることが出来て調子に乗っていたのだろう。

あまねもやられっぱなしではいられない性分なこともあり、この件に関しては末々とあまねは痛み分け、ということになったようだ。

勿論と言ってはなんだが任命式というのは言っただけのようで実際は1つの部屋に金髪のゴスロリ服の女と身長が異常に高い上裸に羽織を肩にかけた男、落ち着いた雰囲気に真人と似た服(着物と言うらしい。)を着て上品に笑う女が待っており、そこで自己紹介をしただけだった。

あまねは参加しなかったがどうせいつものようにどこかでふらふらとしているのだろうと真人が言うと一同揃って頭を縦に振った。

末々は帝人君子第一席という一番発言権のある地位を持たされたことで覚悟を決め、あまねに振り回されながら国中を走り回る羽目になるのはまた別のお話。



国の成り立ち編、これにて完結です。

読んでくださった方、ありがとうございます。これからもぼちぼちと書いていくので読んでいただければ嬉しいです。

ここからは少し小話をここに書いていこうと思います。

題して帝国観察記録。

あまねはいつも鞄を持つ時はトランクを持ち歩いていて中は現金がそのまま無造作に突っ込んであります。それをたまにリオンかシオンが整理して、またぐちゃぐちゃになっての繰り返しです。定住するようになってからは付人が持ち歩くためトランクを持ち歩くことはなくなったようです。

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