魔女は残酷である。
人間を初め、幽霊、ドラゴン、人魚など。
多種多様な種族がお互いに距離を保ちながら共存する今日を管理する魔女。
その日常。
曰く、彼女は魔女である。
曰く、彼女は残虐である。
曰く、彼女は気まぐれである。
ある日、子供が落ちていた。
警戒する黒いのと情けなく影に隠れる白いの。
子猫のようにシャーっと、声を上げていた。
「……孤児なのかな。」
「誰のせいだと思ってんだ!」
黒いのが叫んでいる。
確かに、私のせいかもしれない。
この孤島にある小さな国を滅ぼしたのは私だ。
時間にして10時間。
当たりは完全に更地と化している。最後の一人で間違いはないだろう。
黒い子供が警戒するのも当然と言える。
(………気分じゃなくなっちゃったんだよな。)
二人を見て、生憎もう殺す気分にはなれない。
そんなものだ。人の命というものは。
「一緒に、来る?」
黒い子供のあの、化け物を見る目は今も覚えている。
結果として、子供二人は着いてきた。
私が言うのもなんだが変わっている。
相手は両親含め、一国を更地に変えた少女である。子供達と見た目は変わらない。多少珍しい毛色と目の色をしていることはわかってはいるが、着いてくると言っても5mも後ろを歩く必要はあるのか。
「……まずは服かな。」
「……」
「……」
何も言い返してはくれない。
ただじっと警戒する猫のように私を見ている。
「……返事ぐらいしたらどう?このままでは君たちに興味が無くなりそうだ。」
黒い方は少し戸惑いを見せた。
自分たちも無惨に殺されると思ったのだろうか。
弟だけでも守らねばと思ったのか1歩前に出た。
残念ながら白い方も私の射程である。私は意味は成さない行為に健気な様子に気を良くした。少しくらいサービスしてやろう。
掌を重ね、前に差し出す。そこを中心に灰が渦を巻き、国全体の灰が形を作っていく。白いコンクリートが形を表し、白い道が敷かれていく。
まるで、時が戻るように。
「よし、こんなもんかな。ごめんね、草木とか生命は戻せないんだ。失った命は戻っては来ない。これは世界の真理による生命の定義だから。色無くなっちゃったなぁ。まぁ、いいか。服屋はどこ?そこから適当な服を取ってこようよ。……どうしたの?」
白いのも、黒いのも、辺りを呆然と見渡した。
自分達と対して背丈の変わらない少女が国を灰にし、元に戻した。
「お前、何者なんだよ。」
「んー、2点。」
「は!?」
「在り来り過ぎ。そんな質問されるために時間を戻したわけじゃないもの。」
少女は真っ直ぐ通りを見つめ、落ちている布を拾う。かつて誰かが着ていた服だったものだ。人は戻らず服は灰から形を成した。
「………僕たちは、食べられてしまうのですか?」
「…………40点。食べないよ。今のところは。そうだな、君たちがどちらか1人が死んでしまったらその時は食べてあげよう。残った1人もその時に食べてあげる。んー、非常食ってところかな。」
黒い方がゆっくりと口を開いた。
「お前はーーーーーー」
少女は妖しく笑った。
「100点。」
「そうだ、自己紹介がまだだ。」
服の裾を合わせながら思い出したように少女は口にした。自己紹介をするということはそれなりに共にする時間が長くなることを想定しているということだろう。一先ず死なずに済むようだと安心した。
「私はあまね。アマネ・ラッカーシャ。気軽にあまねって呼んでいいよ。」
ひらりと掌でこちらに促される。
「リオン。こっちはシオン。質問してもいいか。」
首を傾げながらあまねはシオンの服の裾を払った。ピンと伸びた服がひらりと揺れる。その様子を満足気にあまねは眺めた。
「お前の正体はなんだ。」
「えー、面白くなーい。」
腹立つ。イマイチ人柄が掴めないこいつを信じてついて行かねばならない。でなければ2人揃って死んでしまう。あまねの機嫌損ねず、生き延びなければならない。
「聞き方を変える。何故、お前は時間を戻せる。」
「内緒。
て、言いたいんだけどね。流石に全部伏せてたらミステリアス過ぎ?いいね、ミステリアスな魔女。私はこの世界を管理する、管理人。人呼んで、『約束の魔女』どう?納得した?」
「約束の、魔女。」
「そ。この世界の理、みたいなものかな。時間は進む。生物は呼吸をする。空は青い。夜は暗い。それら当たり前は世界の約束。それを当たり前にして、捻じ曲げて、掌で転がせる。んー、メイン能力は脳への干渉なんだけどね。」
つまり、御伽噺に出てくる、大罪人。極悪人。神と同等の力を持つ超越した生物。それが目の前にいるということになる。
魔女の存在は知っていた。この世界は魔女の掌の上であると、御伽噺程度には聞いていた。世界は創造神がいて、その配下に4人の管理人所謂魔女がいるのだと。それぞれの役割を持って人間を含め全ての生物は管理されているのだと。
「その管理人ていうのは?」
「人の運命ってさ、最初から決まってんの。いつ生まれていつ結婚していつ死ぬのか。レールが敷かれてる。でもレールは敷かれてるだけなんだから何かあるとガタンと外れちゃう。それを元のレールに戻すのが私のお仕事。ルール違反は片付けなきゃね。」
「……なんで、僕たちの国は、どう、レールから外れてしまったの?」
シオンが喋ったことに驚いた。
あまねにビビって出てこないと思っていたのに。シオンも興味があるということか、それとも我慢ならなくなったのか。
「……彼らの仕事だよ。それがね。」
あまねは一息溜を置いて目を閉じる。その目には逃げ惑う国民たち、その悲鳴がくっきりと残っているのだろう。そしてうっとりと言うのだ。
「彼らは、私に殺されるために生まれてきた。」
思わず顔を思いっきり顰めてしまった。
それを見てあまねはまた嬉しそうに笑う。
「そう。その憎しみ、その感情が!私の力の糧となる。だから、君たちを生かす。君たちの運命は私によって変えてあげる。どう?たまたま、生き残った気分は。」
この瞬間、理解した。
目の前のこの、銀髪にオッドアイの少女は
どうしようもなく畏怖の対象で、
魔女と呼ぶに相応しいのだと。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
文才は欠片もありませんが、小さな頃から育ててきた世界を小説として残したいと思い、書いています。更新はまちまちになりますが暖かい目で見守っていただければ幸いです。