9.ゴブリン討伐
翌朝。スグヤール隊のメンバーが起床した時には、シャムシールは使い魔鳥たちから情報を集め終えていた。
巣穴の中には、普段ならホブゴブリン1と一般ゴブリン20がいるだけだが、今日に限ってはゴブリンナイト1、ホブゴブリン3、一般ゴブリン60の部隊が滞在しているという。
なぜ、それほどの部隊がいるのかと言えば、今日の夕暮れにマルアット村を襲撃する算段を立てており、前祝と称して捕虜にした旅人を生贄に血祭を行い、大酒を飲んでぐっすりと眠っているという。
「つまり、僕らは偶然にも絶好の機会を得たと?」
「うん。ゴブリンナイト率いる部隊と正面からやり合えば、Aランク冒険者チームを中心にA・B混成部隊が5部隊はいないと互角には渡り会えない」
そんな大層な軍団を揃えられるのなんて、裕福な商人か貴族くらいなものだ。マルアット村が生き延びるためには、この千載一遇の機会を生かすしかない。
「すぐに隊長に知らせよう。僕が説明しようか?」
「そうだねえ……今回は、小生が詳しく説明したいし口を課して欲しいな」
「わかった」
ゴブリンの巣穴の様子をスグヤール隊長に伝えると、再び驚いた様子で僕を眺めた。
「君は鳥を使役する力があるのか!?」
「ええ、一時期は魔獣使いを目指していましたから……」
そんな経験なんてないが嘘も方便という言葉もある。いちいち馬鹿正直にシャムシールの能力を説明するよりも、こちらの方がスマートに伝わるし警戒もされにくい。
「どうしますか隊長?」
猫族の戦士マーチルが聞くと、スグヤール隊長は不敵に笑いながら答えた。
「荷物は必要最小限にし、なるべく迅速に動くよ」
どうやら名前の通り、スグヤール隊長はフットワークの軽い人物のようだ。
僕らは、なるべく早く村を発つと、周囲を警戒しながらゴブリンの巣を目指した。
シャムシールは複数の使い魔鳥を放っており、ほぼ5分おきくらいに飛んできては、僕へと報告を入れてくる。
これなら、他人から見たら僕が司令塔になっているようにしか見えないだろうなぁ……
「ねえ、この人……一体何羽の使い魔鳥を使役してるの?」
猫族の戦士マーチルがささやくと、狩人グレイスも青ざめた表情で答えた。
「わからないけど、最低でも10羽はいるんじゃないかしら……」
「ウソ!? 鳥を使役する使い手って、多くても5羽使役できればいい方でしょ?」
スグヤール隊のメンバーは、僕のことを凄いやつでも見るように眺めてきた。だから、凄いのはシャムシールだ。
間もなく、ゴブリンの巣穴前へと到着すると、巣の中に入り切らなかった一般ゴブリンたちが、無防備に腹を出したままイビキをかいていた。
詳しい数まではわからないが、80という報告はおおよそ正しいようだ。
隊長スグヤールは、修道士のレイナに視線をむけ、彼女はわかったと目だけで答えると、攻撃魔法のチャージを始めた。
範囲魔法で一気に仕留めるのがいいだろう。
「…………」
レイナは響かない声で詠唱をはじめた。声が大きすぎるとゴブリンたちに気付かれるし、かといって声が小さいと精霊に聞こえずにオーラの無駄遣いとなる。
ん、もしや彼女は……詠唱短縮のスキルを持っているのか!?
「フレイム・バースト!」
レイナが範囲攻撃魔法を放つと、無防備に寝ていたゴブリンの半数以上が爆発に巻き込まれた。
「いくぞ!」
スグヤール、マーチルが突っ込み、グレイスも弓を構え、僕も斬り込もうとしたら、何とシャムシールも荷物を振り落としてゴブリンの群れの中へと突っ込んだ。
どうやらシャムは、馬の突進力を利用してゴブリンたちを踏み荒らすつもりのようだ。