8.最終選考に残った、つかみどころのない奴ら
俺様は今、最終選考に残った12名を順番に面接していた。
定員5名をこの中から選ばなければならないため、更なる絞り込みをかけたいところだが、ここでひとつ大きな問題が起こっていた。
隣の騎士マイルも、心底まいっている様子でこちらを見てきた。
「おい、あのレア能力があるとか言う女……スキルを誤魔化してないか?」
マイルの言う通りだと思った。
なんでもスキルの中には、相手に見える文字を誤認させるとんでもない詐術があるという。
書類にはありふれた特殊能力を書いておきながら、その文字にスキルを用いることでレア能力が書いてあるように採用担当者には見える。というか心の奥底で欲しがっている能力として誤認するわけだ。
そして、何週間か経つと魔法効果は弱まっていって失われるから、1か月も経てば詐術をつかったという形跡も、かなり見つかりづらいものになるのだとか……
「雇用契約を結ぶ前で良かったな。あんな使い手を入れれば大目玉だ」
「不採用決定だな。これならあのクソ真面目そうなリチャードと言うガキの方が数万倍は役に立つ」
「ああ、では次の190センチのヤツを……」
俺と騎士マイルは再び、顔をしかめていた。
何とこいつはスキルを隠しているタイプだった。なぜスキルを隠していたことが問題かと言えば、デメリットと引き換えに長身になるスキルだったからである。
スキルグロースは、成長期が終わった者でも理想の身長に伸ばすことのできる能力だ。第3次成長期を起こせる能力として、発現を期待する者も多いと言われる。
しかし、本来は2度しかない成長期をもう一度起こすわけだから、身体に異常をもたらす恐ろしい副作用がある。
1番恐ろしいケースは、身長の促進が止まらなくなって体が壊れるまで巨人化すること。2番目に恐ろしいのは、心臓が急速に弱ってある日突然止まること。3番目に恐ろしいのは体質も変化して急に太り始めたり痩せ始めたりすること。
どれが該当しても兵士の重労働に耐えられる体ではなくなるわけである。
「グロースの発現で、一緒に現れたスキルはなし……か」
「グロースは稀にヒールを発現させることもあるから、期待していたのだがな」
「仕方ない。では3番目の奴だな」
3番目は、有名ギルドの精鋭パーティーに籍を置くというヤツだ。
今度こそ大丈夫だろうと思いながら、その戦士を見るとあまりのオーラのなさに驚いてしまった。面接中にわざわざ隠す理由はないから、本当に弱いのだろう。
そっとマイルに目を向けると、コイツもまたどういうことだと言いたそうにこちらを見ていた。
試しに、毎日どのようなトレーニングをしているのか聞いてみると、素振りだとか先輩や後輩との稽古という冒険者のトレーニングについてよくわかっていないであろう答えが返ってくる。
相方のマイルも、愕然とした様子でこう言った。
「基礎トレーニングはしていないのかい?」
そう質問すると問題のヤツは、そんなトレーニングをするのは三下のギルドにいる連中だけだとうそぶいてやがった。
マイルを見ると、苦々しい顔をしながらこちらを見ていた。
「なあ、コイツ……コネだけで一流ギルドに入った奴じゃないか?」
「素行調査の結果も昨日上がっているな。どれどれ……」
「…………」
「…………」
「親がギルドの支援者かよ!?」
「この様子では、副隊長と言うのも名ばかりで大した働きもしていないことは明白だな」
他の参加者も大半がこんな連中だったので、5人の定員のうち3名しか採用できなかった。巷では狭き門と言われているが、実態なんてこの程度である。