7.依頼主との面会
それ以降に波乱はなく、僕たちは昼前には依頼主である村へと辿り着いた。
このマルアット村は、寒村と言うほど寂れてはいないが決して裕福という感じでもなく、とりあえずは獣くらいの侵入なら防いでくれそうな門と、時間くらいは稼ぎそうな柵を村の周囲に張り巡らせている。
「イキリーニのスグヤール隊です」
隊長がギルドバッジを見せると、門の番をしていた自警団員は頷いた。
「入ってくれ」
村の中は、思っていたよりかは広いが、あくまで村という雰囲気だった。
僕の生まれ育った寒村よりは大きいが、地方の要所と呼べるほどではない。村同士をつなぐ中継地点という感じのありふれた場所だろう。
パーティー一同は、依頼主であるマルアット村長の元へと付いた。
スグヤール隊のメンバーは何度か依頼をこなしているようで、村人とも顔なじみのようだ。
「あ、ハーレムパーティーに男の人が増えてるぞ!」
「スグヤール兄さん、遂に男にも手を出したの~?」
男の子たちがからかうと、軽戦士マーチルが「こらーー! 隊長を何だと思ってるの!!」と怒号を響かせた。
「ブスネコのマーチルが怒ったぞ~」
「逃げろ逃げろ~」
「このワルガキども!」
マーチルはすっかりご立腹の様子だったが、スグヤール隊長は「まあまあ……」と言いながらなだめていた。うちのギルドの隊長は煽りに弱い人間ばかりなので、スグヤール隊長が凄く大人に見える。
間もなく一行は、村長の家へと到着した。
村長の部屋まで向かうのかと思いきや、わざわざ出迎えているのだから、とても困っていることが伺える。
「お久しぶりです村長」
「君が来てくれたか……良かった! 早速ですが中へどうぞ。ウマ用の納屋もありますので」
僕は頷いた。
「では、僕とシャムはそこでゆっくりとさせて頂きます」
お言葉に甘えながらも、会話を盗み聞くのがシャムシールである。
たっぷりとわらの敷き詰められた納屋で転がりながら、聞き耳だけはしっかりと立てていた。他に見ている人もいないらしく、普通に話しかけてくる。
「どうやら、依頼状と同じ内容みたいだね」
なるほど。依頼状がダミーで本当に依頼が出てくる……というようなケースではないということか。冒険者と依頼主が親しいと、そういうことも起こり得るため油断せずに聞いていたということだろう。
「…………」
観察していると、シャムシールは更に細かい所まで聞き取っているようだ。
例えば一般ゴブリンを倒した場合は右耳を取ってくることや、ホブゴブリンやゴブリンナイトと言った上位種のゴブリンを倒した時のボーナスなど、慎重な冒険者なら気になる場所に注意を払っている。
「ゴブリンは北西部の洞窟に住み着いていて……旅人を襲いながら勢力を着々と増やしている。なるほどなるほど」
シャムシールは口笛を吹くと、使い魔と思しき鳥を5羽ほど呼び寄せていた。
「君は鳥を使役する特殊能力があるのか!?」
「いいや。ケガや病気の治療をすることを条件に、偵察を引き受けてもらっているだけさ。だから、依頼内容次第では拒否されるし、見返りを要求されることもある」
「…………」
彼は仔馬に話しかけるように穏やかな鳴き声を響かせると、鳥たちは頷いていた。何を言っているのかはわからないが、各鳥に細かく指示を伝えているのだろう。
ベテランと思しき鳥が小さな声で嘶くと、シャムシールも言葉を返すように優しく嘶いている。質問か何かに答えたのだろう。
鳥たちは頷くと、翼を広げて飛び立った。
「もう……戦いは始まっているということだね」
そう話しかけると、シャムシールはこちらを見た。
「さっき冒険者街を出た時に、ゴブリンの小隊が待ち構えていたでしょう。あれは多分だけど……威力偵察部隊の暴走だと思う」
「じゃあ、今頃敵はこちらの情報を?」
聞き返すと、シャムはしっかりと頷いた。
「伝えているだろうね。Bランク冒険者パーティーとオマケの荷運び部隊……として」
その言葉の後に、シャムシールは不敵に笑った。
何だか、敵に間違った情報を与えるためにわざとゴブリンたちを逃がしたような気がする。




