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43.シャムシールとリック

 無事に騎士となった僕は、シャムシールを見た。

「ところでシャム?」

「なんだい?」

 シャムシールは飼い葉を食べながら呑気な顔をしている。相変わらずというか、以前にも増してお気楽になったように感じる。

 だからこそ、わからないと思った。いつもシャムはひょうひょうとしているけれど、はっきりいって一番何を考えているのかわからない人物だと思う。


「お前がここまで色々なことをした目的は何だ? 旅立ちたいのなら別の国に行くことだってできたし、そのまま黙っていてもお父さんの跡を継げる地位にいたはずだ」

 そう質問すると、シャムシールは桶から顔を出して僕を眺めた。

「……質問に質問を返すようで悪いけど、リックはどうして冒険者になろうと思ったんだい?」

「それは……レッドオリー……」


 そこまで言うと、僕は違うと自分に対して思った。

 レッドオリーブ同盟とか父親とか白馬じゃない。僕はきっと誰かに……いや、自分で自分自身を認めたかっただけなのかもしれない。

「突き詰めて考えると……自信が欲しかったのかもしれないな。僕に任せろ! 僕ならやれる……そう言い切れるような人になりたかった」

 その言葉を聞いたシャムシールは目を細めると、やがて声を出して笑った。


 何だか恥ずかしくなる。これじゃあまるで、僕がしょうもない発言でもしたみたいじゃないか。

「何だよ、僕をバカな奴とでも思ってるのか!?」

「いやごめん。小生が考えていることとおんなじだったからさ……」


 僕はその言葉を聞いて首を捻りたくなった。

 シャムシールは何でも完璧にこなせるし、失敗らしい失敗をしたことがないヤツだ。ハッキリ言って自分は天才だと豪語しても許される存在にすら思える。

「君が……僕と同じ?」

「前にも言ったでしょ。僕はお父さんから……いや、自分の果たすべき責任から逃げ回っている」


 その言葉を聞いて、僕はハッとした。

 シャムシールは天真爛漫なところがあるので、それで家督を継ぐことを嫌がっていると思っていたが、本当は父と同じように森を守っていく自信がないのかもしれない。

 シャムシールは遠くを眺めた。

「小生にとって、父カッツバルゲルは……大きすぎるんだ」

 確かにと思って頷くと、シャムは言った。

「たった一代で、荷運び馬から森の王様に上り詰めたし……暴走した先代カッツバルゲルを止めるほどの活躍もしている」


「でも、お前は賢いじゃないか……」

 そう言うと、シャムシールは寂し気に笑った。いつも不敵に笑っている、得体の知れない恐ろしさのあるシャムが、こんな少年のような瞳をするものなのだろうか……

「策を巡らせる人間ほど……実は憶病なんだ」

「そういうものなのか?」

「うん。特に僕の場合は、こうなったらどうしようとか……こうなったら困るなという嫌な状態をたくさん見つけているに過ぎない」

「それ、群れのボスとして一番必要な力じゃないか?」


 そう言い返すと、シャムシールは苦笑した。

「今の状態で跡を継いだら、頭の中がパンクしてしまうよ。小生ひとりの身を守るだけでも、たくさんの不測の事態が頭をよぎるんだからさ……」


 その話を聞いて、今度は僕が思わず笑いだしてしまった。

 なるほど。似た者同士だったからこそ、僕とシャムシールは惹かれ合うところがあったのかもしれない。

「じゃあ、僕は騎士として君に負けない戦士になる」

 そう提案すると、シャムシールは目を丸々と開いた。

「それってつまり、僕と競い合うってことかい?」

「そうだよ。お互いに競争相手がいれば、そんな弱音ばかり気にしてはいられなくなる。そんなことをしていたら置いてけぼりにされるからね」


 シャムシールは満足そうに頷いた。

「受けて立つよ! どちらが本当に強くなれるのか……勝負しよう!!」


 僕は剣を抜くとそのまま高く掲げ、シャムシールもまた角と剣先を合わせた。

 この勝負の決着に、何十年かかるかはわからないけれど、僕は絶対に引き下がるつもりはない!

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