4.ハマキ、ハマキ、ハマキ
俺様ホエズラーと同僚のマイルは、部下の兵士たちを率いて兵舎を出発した。
南街道の一角でと書かれた、ヘタクソな字で書かれた手紙があったからだ。
「なあ、イタズラじゃねえのか? あれ、どう見ても子供か何かが書いた字だろう」
「そうかもしれんが、情報が入っていながら何もしなかった……なんてことがあったら、それこそ上からどやされる」
こう答えたが、俺がこの手紙……というか走り書きを見て、部下や同僚を率いているのには大きな理由がある。
実は手紙には続きがあり、ハマキ、ハマキ、ハマキと書かれていたのだ。
何でそんな言葉で動くのかと言えば、ハマキという言葉は俺たち騎士の間の隠語で、違法行為をしている悪徳商人を見逃すことを意味している。
なぜハマキなのかは、諸説あるため割愛するが……
ハマキが1つだと違法な商品という意味になり、2つだと麻薬などの違法薬物、3つだとそれ以上に危険なものという意味となる。
そして、実は俺自身もこの悪事に手を染めている。
行っているのは武器商人の見逃しだ。きちんとした資格を持った者しか、武器の販売をしてはいけないことになっているが、俺は仕入れた闇武器の中で最も出来がよいモノをピンハネすることを条件に、武器商人の密売を見逃してきた。
このピンハネには本当に助かっている。
何せ王国は給料だけ渡して、後は自分たちで仕入れろというスタイルだ。しかもその給金も末端騎士となるとかなり安いから、同僚なら誰しもがやり繰りに苦労している。
ケッ……本当に甲斐性のない王国たぜ。
俺様はカッツバルゲル騒動の後で、当時の騎士団長の不正行為を偶然にも目撃して、黙殺する代わりに騎士になるという命懸けの綱渡りをしたってのに……。
まあ、長々と説明してしまったが、短くまとめると……ハマキ、ハマキ、ハマキが俺の悪事を意味していると感じたから、怖くなって兵を率いているというワケである。
しばらく歩くと、夜目の利くスキルを持つマイルは顔をしかめた。
「おい……なんか、様子が変じゃないか?」
俺も頷くと一斉に走り出した。
道の真ん中に木が倒れており、如何にも高そうな馬車が立ち往生し、周囲には山賊と思しき男たちが折り重なって倒れている。
生存者はいないだろうと思いながらドアを開けると、中には身分の高そうな小娘がいた。
小娘は我々の姿を見ると、安心した様子で微笑んだ。
「騎士の方々ですね。とても安心しました……お役目ご苦労様です」
「これは一体、何があったのですか?」
そう聞くと、小娘はニコニコと笑いながら言った。
「山賊に襲われたのですが、親切な方々に助けて頂きました」
「親切な方?」
聞き返すと小娘は「そうです」と言いながら月を見た。
「若く精悍な顔立ちの青年に、立派な角と翼を持つ青毛の一角獣です」
「い、一角獣!?」
その言葉に俺はぎょっとした。青毛といえば、俺に栄光と挫折をもたらしたカッツバルゲルと同じじゃねーか!
俺がどんな目に遭わされたかは、前作の『ヲッサン馬』で確認してくれ。
隣で話を聞いていた騎士マイルも、畏まった表情で言った。
「とにかく無事でよかった。お前たち! ここで転がってる連中をしょっ引け!」
「ははっ!」
とにかく、絶世の美男子と死と恐怖の青毛ユニコーンの登場か。不吉なことが起こる全兆でなければいいが……