38.追い詰められるレッドオリーブ同盟
間もなく国王は、レッドオリーブ同盟討伐に本腰を上げた。
国内で多くの貴族や有力者を支配下に置き、内部から国を操ろうとしていたことが明るみになり、もはや無視できないと判断したようだ。
「一番の問題は、あのキメラだよね」
僕が言うとシャムシールも頷いた。
『そうだね。対抗するには君の能力を使うか、妖精フォーこと白馬をぶつけるしかなかった』
僕は頷きながら聞いていたが、最後が過去形なことに注目した。
「もしかして……何か情報を?」
『うん。あの魔文字は武器に直接刻み込めることがわかったんだ。だから試作品を作ってもらった』
剣の手入れをしていた侍女ミアは、振り向くと刀身を見せてくれた。そこには僕の腕に現れた文字とよく似た文字が記されている。
『君のように、行動障害の魔文字を刻むことはできないけれど、魔物の体に刻まれた文字の調和を乱すことならできる』
「な、なるほど……これなら騎士や冒険者でも、あの怪物を倒せる!」
『そういうこと!』
本当に、情報というのは力を発揮するものだと思ったとき、鳥が飛んできた。
『……わかった。引き続き情報収集を続けて欲しい』
「ピィ!」
「どうしたんだい?」
シャムシールは険しい顔をした。
『ホエズラーと白馬を監視してんだけど、レッドオリーブ同盟が魔物をけしかけようとしているみたいだ』
「もしかして……口封じ!?」
そう聞き返すと、侍女ミアも武器の手入れを中断してこちらを見た。
シャムはミアには関心を向けずに淡々とテレパシーを送ってくる。
『恐らくね。白馬側も口封じをして来ることを見越しているから、自分を総動員して迎え撃つ体勢を整えているよ』
自分総動員。何だか……全く新しい言葉だ。
「白馬って、自分が何体いるの?」
『司令塔1、隊長自分3、一般自分12だから……合計16だね』
「司令塔以外は全部分身ってこと?」
そう聞き返すと、シャムシールは視線を上げた。
『ブラフかもしれないけれど白馬は″マルチプリケーションは全てが私。1つでも残れば掛け算は続きます″と言っていた』
「その様子だと、能力に制約もあるんだろうね」
『多分だけど上限が16なんじゃないかな。情報収集をしているけれど16以上になったことがないからね』
なるほどと頷いていると、渡り鳥が飛んできた。
「ピィピピィ!」
「今の……もしかして接触?」
そう聞くと、シャムシールはしっかりと頷いた。
『どうやら、レッドオリーブ側も白馬が何頭もいるとわかってたらしいよ』
ちょっと待ってと言いたくなった。
白馬側は16頭もいるのだから、レッドオリーブ同盟の側もそれなりの数がいなければ返り討ちに遭うだろう。
「一体、どれだけの戦力を?」
『悪魔をおおよそ20……多分だけど、同盟側のほぼ全勢力じゃないかな?』
その言葉を聞いて、僕はピンときた。
「もしかして、そのレッドオリーブ側の盟主は、白馬がスパイ網を壊したと思っているのかい?」
『恐らくね。スパイ網の基点はマイルなのだから、そう思っても不自然ではないと思うよ』
「つまり……決戦か」
つまり、敵対勢力と第3勢力の戦いか。
自分の立場を盤石にしたうえで、こういう展開に持ち込むのだからシャムシールらしいと思う。
「やったのは僕たちなんだけどねぇ……」
『まあ、小生たちを呼び込んだのは白馬だから、あながち間違ってはいないんだよね』
僕は念を押すつもりで言った。
「近くに村もあるから、軍隊の1部隊くらい派遣しといてよ」
『さっき急いで手配したけど、到着はしばらく先になりそう』




